ゼロからの学び直しを支援したい

NPO法人キズキ 理事長 安田祐輔

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「レールを外れる」苦しみ
 
 奨学金を借りながらであったが、晴れてICUに通う大学生となった安田さんは、争いの続くイスラエル・パレスチナでの平和構築活動に携わるNGOの代表を務めたほか、大学を一時休学してルーマニアの研究機関で勤務するなど、海外向けの支援活動に熱心に取り組んだ。大学時代の後半には、バングラデシュでドキュメンタリー映画の製作を手掛けた。
 
「バングラデシュは貧しい国ではありますが、よほどの天災や戦争が起きない限り、餓死するほどではありません。家に電気が通っていないとか、電化製品がないといった状況ではあるんですけど、隣の家もそうであれば、別に自分が不幸だとは感じない。多くの場合、不幸というのは比較の中で成り立つものなんじゃないかな、と考えるようになりました」
 
 そうした中で安田さんの関心を惹いたのは、娼婦街で働かされている女性たちの存在だった。
 
「娼婦街で、村から売られてきた女の子たちの映画を撮っていました。彼女たちは、首都にいい仕事があるよと騙されて売られてきたり、そこで生まれ育っていたりするんですが、みなすごく自己肯定感が低いんです。多くの女の子が、メンタル面に課題を抱えていました」
 
 保守的なイスラム教社会におけるセックスワーカーへの差別は激しく、安田さん自身もバングラデシュ人に「なぜ彼女たちなんかに会いに行くのか」と幾度となく言われた。貧しい農村の暮らしよりもよほど所得も自由もあるものの、誰からも認められないことに苦しみ、リストカットを繰り返す女性もいた。
 
「そうした情況を見ているうちに、自分は電気のない村に電気を通す活動よりも、社会的に困難を抱えた人を支える仕事がしたいと思うようになりました」
 
 レールから外れた存在――自分自身の経験とバングラデシュの社会問題が重なった。国は違えど、社会から承認されない孤独と苦しみは、安田さん自身がよく知っているものだった。社会的に困難を抱えた人の復帰を支援したい。とは言え、そのときの安田さんにはまだ、自分がなにをすべきか、明確な具体像は見えていなかった。
 
「帰国して、生活のためにもとりあえず就職しよう、と思って。バングラデシュではグローバリゼーションによって劣悪な工場環境で働く人たちがたくさんいたので、ビジネスの側から途上国を見てみたいと思い、商社に入社しました」

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