放課後の子どもたちを守りたい
「できないこと」ではなく「できること」に注目する
アフタースクールのプログラムは、一つのテーマにある程度継続して取り組み、最後にその成果を発表するというスタイルをとることが多い。初めて行われた和食のプログラムも、毎週1回、全6回の調理教室の最後に親や地域住民を招いて子どもたちが料理を振る舞うことがゴールに設定された。
「結果は大成功だったと言っていいと思います。4年生の男の子がすごく成長したんですよ。自分に自信のなかったその少年が、全6回の和食プログラムでどんどん変わっていくのが目に見えてわかった。いまもその子の背中を追いかけているというか、僕の原点になっています」
勉強もスポーツも苦手な引っ込み思案の少年だったが、アフタースクールの和食プログラムで、彼にはある特技があることが判明した。
「市民先生は日本料理の職人さんだったんですが、毎回、調理を始める前に、日本地図の前に食材を並べて、産地当てクイズをするんですよ。そして、その子はこのクイズが抜群に得意だったんです。実はその子は社会の授業と食べることが好きで、お母さんとスーパーに買い物に行ったときなんかに、食材の産地をよく見ていたらしいんですよね」
あまりにもよく当てるので、平岩さんたちがおもしろがって「素材王」と呼び始め、低学年の子どもたちからは「お兄ちゃん、すごい!」と羨望の眼差しが集まる。さらに、市民先生がその子を「一番弟子」と呼ぶようになり、「お、一番弟子、今日も来たか。お前がいないと困るんだ」といった声掛けをするようになったことで、少年の表情はみるみる明るくなっていった。
「『君がいないと困る』というメッセージって、子どもの心にすごく響くと思うんです。大人だって言われたら嬉しいですよね。しかも、自分が好きな料理の分野で、尊敬できる達人からそんな言葉をかけてもらって、その一言は彼にとってすごく大きかったと思うんです」
うつむき気味だった顔の角度も回を重ねるごとに上がり、指を切って泣いたりしていた幼さが嘘のように、明るく、積極的になっていく少年。その姿は、見守る平岩さんをも勇気づけた。
「料理っていうのがまたよくて、習った料理を家でつくって、お父さん、お母さんにまた褒められるんですよね。あるとき、お母さんに言われたんですよ。『これまではずっと、この子の苦手なことばかり見てしまっていました。お友達はできるのに、この子はこれもできない、って。だけど、料理をやるようになってからは、すごく上手だねって、いいところに注目できるようになって、子どもに対する見方が180度変わりました』って」
プログラムが終了した後に、保護者から「友人関係や親子関係もよくなり、とても元気で明るくなった」という感謝も手紙も届いた。
「その子のいいところを探して見ていくようになると、子どもってすごく変わるんですよね。こんなに効果が出るんだっていうことを最初のプログラムで実感できて、やめられなくなってしまいました(笑)」
自分の働きかけの効果が、会社員としての仕事よりもダイレクトに見える。そのことに大きな手応えを感じた最初の一歩だった。
(第二回「子どもたちの成長を実感しながらに続く)
平岩 国泰(ひらいわ くにやす)*1974年、東京都生まれ。2004年、第一子誕生を機に放課後NPOアフタースクールの活動を開始。子どもの放課後を安全で豊かにするため、学童保育とプログラムが両立した「アフタースクール」を展開。プログラムは地域の大人を「市民先生」とし、子どもたちに提供している。衣食住からスポーツ、音楽、文化、学び、遊び、表現まで多彩な活動を展開し、現在までに参加した子どもは50,000人を超える。2008・9年度グッドデザイン賞受賞。2013年より文部科学省中央教育審議会専門委員。
【撮影:遠藤宏】