ソーシャルなお金を生み出す仕組み

京都地域創造基金 理事長 深尾昌峰

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画像提供:京都地域創造基金

遺産を社会のために使いたい
 
 また、現在力を入れている取り組みのひとつに、遺産の問題がある。自分の遺産をどうしたいかというアンケートでは、当然ながら「子どもに残したい」という人が最多だが、日本ファンドレイジング協会の調査では、40歳以上で遺産寄付の意思がある人は、21.0%にのぼる。
 
「つまり、遺産を地域のため、社会のために使いたいと思っている方は、実はたくさんいるということです。なのに、私たちの界隈ではあまりそんな話は聞かない。これはなぜかというと、どうやっていいかわからないからなんです。どこに寄付をすればいいのかわからない」
 
 これはどうにかしなければいけないと、京都地域創造基金は「遺産・相続地域活用センター」を設置した。
 
「司法書士や税理士といった専門家の方々にご協力いただいて、相談ダイヤルをつくりました。お問い合わせはかなりいただきます。ですが、日本の社会では、土地なんかを我々の財団のようなところに寄付していただいても、税金の問題などさまざまな制約があって、積極的に活かす体制がまだできていません」
 
 実は、自治体側が、市民からの土地の寄付を断るケースは多い。寄付者の多くは、「この土地を公園にしてほしい」といった思いをもって寄付を申し出る。そうすると、公園にする費用を捻出できない自治体は、断らざるを得なくなるのだ。
 
「しかし、日本社会のいまの構造を考えると、高齢者がもっている資源をいかに世代間で共有して、次の世代につなげていくかということも非常に重要なテーマです。最近では空家率の高さも社会問題になりつつありますが、そうした問題も絡んでくる話です。人口減少時代の、そうしたものの新しい活用方法を、そろそろ私たちの社会は真剣に考えなければいけない。そういう思いもあって、遺産や相続の活用に関する取り組みを行っています」
 
 創設から5年、京都地域創造基金に寄せられた寄付は、2億円。
 
「私自身は、ぎりぎり60点、まあ合格点だと思っていますが、同時にもっとやれると思っています。市民が寄付する機会をいかにつくっていくか、カンパイチャリティのように、『ありがとう』といって寄付してもらえるような環境をどうつくっていくか。そうしたことを考えていくと、その先には、新しい自治のかたちが見えてくるんだろうと思っています」
 
 寄付をベースとしたソーシャルなお金の流れを創り出すことによって、税金ではできない領域の課題に取り組むことができ、新しい公共空間が生まれてくる。そしてそこが豊かになっていくことで、住みやすいまちや、そこでの幸せな暮らしが実現できる。深尾さんが思い描くのは、そんな未来だ。

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