夢や価値観を提供できる企業を目指して

株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太

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小さくても光っている組織に
 
 Kaienが社会福祉法人でもなく、NPOなどの社会貢献的な事業者でもなく、株式会社を選んだのには理由があった。
 
「まだ十分に実現できていませんが、『発達障害の人の力を活かしてがんばりました』と言っても、NPOだったら、『どうせチャリティじゃないの』って言われてしまうかもしれない。でも、『発達障害の人たちの力を活かして、お金を稼いでいます』って言えば、それはもう世の中の多くの企業と同じ土俵で戦って勝ったということですから、そのほうがインパクトがあるというか、より認められやすいと思ったんです」
 
 また、Kaienの3つの役割を果たすのにもっとも適したかたちが株式会社なのだと、鈴木さんは言う。
 
「ひとつは発達障害者をエンパワーメントして、雇用につなげること。ふたつめは、企業が彼らを雇用することで、経済的な利益を得ること。最後は、それらを発信するということです。そのとき、会社というかたちのほうが、発信力が高まると考えています」
 
 ほかにも、いまの日本では株式会社というかたちが、もっとも資金調達やディシジョンメイキングがしやすいと考えたことも理由だ。
 
「NPOっていうのは、基本的には社会が株主で、それを信託されて動かしているようなものなので、ひとりの力ではなかなか物事が動かせない。その点、株式会社ならディシジョンメイキングが迅速にできます。もうひとつは人材。いまの日本では、NPOよりも株式会社のほうがいろんな人材を集めやすいかなと思います。いきなりNPOの世界に飛び込める営利の人はなかなかいないと思うので」
 
 結果、現在のKaienのスタッフは、上は70歳から下は20歳までと年齢層も幅広く、前職も福祉系、医療系、ビジネスマンと、バックグラウンドも多様な人材がそろっている。
 
「そうやっていろいろと考えたときに、株式会社にしない理由のほうが少なかったんです。いま、上場は検討課題なんですが、当社が上場するときには、株式市場の価値観が変わるくらいでないと、やる意味はないと思っています。配当利益だけじゃない、株式購入のインセンティブみたいなものが出てこないと」
 
 おそらくいくつかの企業はすでにそれを実現していると言い、鈴木さんは例のひとつに東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドを挙げた。
 
「たとえばオリエンタルランドの株主の方は、夢を買っているんだと思うんです。配当がほしいというより、夢なんだと思います。Kaienもそうしたイメージで受け止められるような触媒にならない限りは、上場する意味はないと考えています。上場すると市場の価値観にさらけ出されますから。理念に共感して理解くださる方は、上場しないままのほうがむしろ集めやすい」
 
 Kaienでは、Googleを参考に、種類株を採用している。経済的な価値はほとんどないが議決権の強い株、逆に経済的価値はあるが議決権の弱い株。そうすると、経済合理性だけでない意思決定がしやすくなるのだ。だったら、いまのままで、思いは十分体現できる。
 
「一応、売上規模は10億円くらいを目指そうとは思っています。それは、3つめの役割である発信の場面で、3億円の会社ですというのと、10億円の会社ですというのでは、説得力がだいぶ違うから」
 
 ただし、売上はあくまで結果であり、大事なのは、3つの役割がいかにバランスよく安定的に果たせるか。鈴木さんが重視するのは、あくまで売上よりもインパクトだ。
 
「インパクトといっても、就職実績とか売上とか、いろんな測り方があると思うんです。そのひとつに、模倣されることがあると思っています。尊敬され、模倣されるようなビジネスモデルでありたい。また、次世代の夢を感じさせるとか、価値観を提供する企業になっていきたいとも考えています」
 
 鈴木さんが目指すのは、「ユニークさ」や「尊敬される」といったキーワードが保たれている企業。そう話す鈴木さんの思いに、ブレはない。
 
「小さくても光っていればいいと思っています。だけど、あまり小さいと誰にも気づかれないので、ちゃんと気づかれるくらいにはなっておかないと。あとは、僕がいなくても回る組織にしていくことも目指していきたいですね」
 
 
 
鈴木 慶太(すずき けいた)*2000年、東京大学経済学部卒。NHKに入社し、アナウンサーとして報道・制作を担当。NHK退職後、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に留学しMBAを取得。長男の診断を機に発達障害の能力を活かしたビジネスモデルを模索し、帰国後Kaienを 創業、現在に至る。
 
【写真:shu tokonami】

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