子どもの成長をみんなで見守る社会に
写真提供:3keys
施設の枠を超えた発信力を持ちたい
児童養護施設での学習支援だけでなく、別の面からも子どもたちを取り巻く問題にアプローチするために、弁護士と連携して法律相談の機会を設ける試みを始めようとしている。
「たとえば、親が借金を抱えていて家庭環境があまりよくないんだけど、違法な利率で膨らんだ部分はほんとうは返さなくていいんだよとか。保護者であるべき親が、親権を利用して子どもを搾取する側に回っている場合とか。そういう、法律や権利を知っていれば解消できるような問題を抱え込んで泥沼にはまっていくケースもあるので、そういった一歩踏み込んだ家庭の問題にもアプローチしていけたら」
DVが原因で離婚し、別れた夫から逃げるために母親は転職し、子どもも転校を余儀なくされる場合もある。そういったケースでは、別れた夫に見つからないよう、それまで暮らしていた地域や実家から離れることが多く、新しい仕事が見つからなかったり、子どもも友人との接点を絶たれるなど、母子ともに孤立し、追い込まれていくことも珍しくない。
「そうした家庭内の事情には、私たちではなく、連携して活動している施設側が対応することが多いんですが、どうしても人手不足で対応が追い付かないところだらけ。そういったケースにも手を差し伸べられるようになりたいと思っています」
森山さんが現場の丁寧なケアと並行して目指しているのは、現場の実態を正しく分析・発信し、政策提言などにつなげていくことだ。
「現場の担い手も十分とは言えませんが、福祉分野でそれ以上に不足しているのは、いまなにがなければいけないのか、現場を調査して、情報を集めて正しく分析して、データ化して発信する人だと思うんです。調査機関が少ないとか、5年に1回しか調査されないとか、そもそも調査するほど優先順位が高くは置かれていないとか、いろいろあると思うんですけど、いまはデータ化されていない根深い問題を明るみに出して、みんなが適切にかかわれるようなかたちを提案していきたいと考えています」
福祉や教育の分野には人件費以外の予算はほとんどつけられないため、研究や調査も人件費の範囲内で行うしかない。そうなると個別具体的な現場での対応に忙殺され、データ化や発信の余裕は持てないのが現状だ。
「行政に対応を求めると、データを求められることが多いんですが、現場にデータ化する余裕がなくて、体制が整わなくて、さらに余裕がなくなって……と鶏と卵みたいなところがあるんですよね。3keysでやっていくのも大変ですけど、直接子どもたちを見ている立場ではない分やりやすい面もあると思うので、施設には難しいデータ化や発信の役割を担っていけたら」
実際にやってみると、発信の難しさを肌で感じる部分もあるという。
「わかりやすいかなと思って『児童養護施設の子どもたちが大変』と発信していた時期もあったんですが、『児童養護施設』を前面に出したせいで、自分の日常とは切り離して考える人が多かったんです。自分とは縁遠い問題としてとらえている分、寄付やボランティアは集まりやすかったんですが、当事者意識をもって自分の生き方や働き方を見直すところからかえって遠ざけてしまったような気がします」
反省を踏まえて目指しているのは、児童養護施設の枠を超えた発信力をもつことだ。個別の具体的な改善を積み重ねなければ全体の改善にも近づけないが、全体観を持たずに個別事例に対応しているだけでは、いつまでも問題の解消にはつながらない。そのバランスの難しさに悩みながらも、森山さんは子どもの問題にさまざまな方向からアプローチを試みる。