どんな環境でも、自分の人生は切り拓ける
写真提供:ワクワーク・イングリッシュ
10年後の自立と循環を目指して
山田さんの丁寧な取り組みは、着実に実を結んでいる。ロールモデルとなる先輩の存在も大きい。同じ環境で生まれ育った若者が夢をかなえている姿を見て、「自分にもできるんだ」という希望が感じられるのだ。
「ワクワークの学生チームに採用する時には、たんぽぽのように黄色い花を咲かせる、つまり自分の夢を実現したら、次は綿毛となって、同じ環境で生活していた子どもたちにチャンスを循環させていくロールモデルとして、自分の姿を見せていけるかどうかを1つの条件にしています。毎週土曜日は自分が育った孤児院で、子どもたちに無償で英語を教えるとか。循環が生まれるように、はじめは意図的にプログラムに落とし込んでいましたが、いまではみんな自発的にやっています」
一人ひとりがチームの一員としてそれぞれの役割を果たすことで、成長の循環が確実に生まれている。山田さんが目指す未来へとつながる流れだ。山田さんは、ワクワーク立ち上げから10年後にあたる2019年をひとつのターゲットに据えた。2009年当時に出会った子どもたちが高校生、大学生になっていく頃、自分の未来を自分の意思で選択できる社会になっていれば、まずはステージクリアだ。
「フィリピンの仲間には、2019年になったら私はフィリピンから去るってずっと言い続けていて。かかわりを絶つわけではもちろんないんですけど、ワクワーク・イングリッシュは、現地に日本人スタッフはひとりもいません。現地のオフィスに私の机はもうないし(笑)。そうやってフィリピン人だけでマネジメントしている体制をほかの事業でもしっかりつくって、2019年には私や夫の森住がいなくても、現地だけで新しいモデルが生まれるように、フィリピンの人たちで回していけるようになっているといいなあと」
では、2019年以降はどうするのか。山田さんの目は、今度は国内に向いていた。現在の山田さんの日本国内の活動拠点は軽井沢だ。
「私たちが住まわせていただいている塩沢村っていうところで、お世話になっている方が修復した『緑友荘』という古民家を利用して、都内の学生たちと繋げたり、フィリピンと繋げたりして、何かこの村と繋がる活動ができないかと考えています。ワクワークのインターンの学生の合宿を行って、ロゲイニングというアクティビティを行ったり、田植えなどもしたり、地域の方にとてもお世話になりました」
ロゲイニングとは、制限時間内にできるだけ多くのチェックポイントを回るゲームだ。山田さんたちはチェックポイントを地域の魅力ポイントに設置している。
「ロゲイニングのためのマップを地域の方と一緒につくったりもしています。日本の地方はどこもそうなのかもしれませんが、出掛けるとき鍵閉めないとか(笑)、塩沢村はあたたかい人のつながりや信頼のようなものがまだ残っている場所」
山田さんと森住さんのご夫妻が活動拠点を東京から軽井沢に移したのは、恩師の勧めがきっかけだったというが、よその地域から軽井沢にやってきた人はほかにもいるという。森住さんも言う。
「軽井沢インターナショナルスクールができたり、SFCの先輩が活動されていたり、軽井沢におもしろい人が集まってきている気がします。将来子どもが生まれたら、フィリピンのセブ市のロレガのコミュニティで育てるのもおもしろそうだと考えていたんですが、軽井沢の森の幼稚園に入れるのもいいな、なんて、最近は思います」