ソーシャルな志を、ビジネスのしくみとして成り立たせる
植物工場の前で子どもたちにしくみを説明する半谷さん
受益者負担とCSR支援の好循環を成功事例に
「最後の課題は、受益者負担メニューの確立です。いまはありがたいことに寄付と補助金で経費を賄えています。これを3年以内に、必要経費の4割はここを訪れる大人の方にご負担いただくという目標を、なんとか達成させなくてはと考えています」
受益者負担を導入する目的は、利益を上げることではなく、お金を通して関係者がお互いにとっての価値を確認しあうためだ。
「逆説的に言うと、受益者負担をしていただけないということは、お金を払ってまでここに来る価値がないということですよね。つまり、子どもたちの成長のために役に立っていないということになります。そんな状況で寄付頼みの運営をしようとしても、ぜったいに寄付そのものが続くはずがありません」
一方、一定の受益者負担が確保できるようになれば、価値のある取り組みと認められたひとつの証となる。
「企業や団体にしてみれば、寄付をするからには、自分の組織のCSRが標榜できるっていうのが大前提ですよね。その価値があると評価されれば、寄付は続けてもらえる。そのためにも、評価に値する“受益者負担の確立”が求められると思うんです」
半谷さんがめざすのは、受益者負担と企業・団体のCSR支援の好循環のしくみをつくり出すことだ。
「ソーシャルな復興事業を継続していくためには、一種のビジネスとして事業性を確立する必要があります。受益者負担は、そのための大きなターニング・ポイントであり、重要な指標になると考えています」
受益者負担メニューの本格導入に向けて、すでに大人の施設見学は有料化されて定着しており、半谷さん自身への講演依頼も増えている。企業研修も受託し始めている。教育旅行の受け入れについても、旅行会社が営業をスタートさせた。
「寄付や補助金が現在より少なくなったとしても、そのことによって復興のための人材育成が中断されるようなことがあってはなりません。いろいろな受益者負担によって資金を確保して人材育成を継続し、復興に貢献していくこと。これが私の最大の課題だと思っています」
受益者負担とCSR支援の好循環を目指して、南相馬ソーラー・アグリパークの経営は、早くも次のステージに移ろうとしている。水力発電など体験学習のための施設も整い、週末スクールなど人材育成プロセスの充実にも余念がない。こうしたソーシャルな志を、いかにして事業として成り立たせ、継続していけるか。それはきっと、被災地でがんばっている人々が共通して目指しているはずのことだと、半谷さんは言う。
「そのためにも、私たちは成功事例をつくらなくてはいけない。好循環をここからつくり出していかなくてはいけない。必ず、何としても成し遂げます」
成功が仮に小さなものであったとしても、そこには必ず縁が生まれる。縁が結ばれていけば、地域に大きな流れが満ちてくる。志と事業を結びつけ、体験学習と人材育成を行った、その先にある未来を南相馬で実現するために、半谷さんは、今日も子どもたちと向き合い続けている。
【半谷栄寿(はんがい えいじゅ)】1953年福島県小高町(現・南相馬市)生まれ。1978年に東京電力に入社。同社にて数々の新規事業を手掛ける傍ら、1991年に環境NPOオフィス町内会を設立し、古紙リサイクルや森林再生に取り組む。2010年に同社執行役員を退任。2011年9月に福島復興ソーラー株式会社を設立。さらに2012年4月には一般社団法人福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会を立ち上げる。そして2013年3月11日、南相馬ソーラー・アグリパークを完成させ、自然エネルギーの体験学習を通して子どもたちの成長支援と人材育成を開始。現在に至る。
【取材・構成:熊谷哲】
【写真:shu tokonami】