地方経済を再生させる企業とまちのたたみ方

冨山和彦(経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO)×荒田英知(PHP総研主席研究員)

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5、問われる「まちのたたみ方」
 
荒田 地方創生を進める時には、今日おうかがいした「企業のたたみ方」とともに、人口減少が進む中での「まちのたたみ方」が問われると思います。今年5月に増田元総務大臣がまとめたレポートでは、2040年に市区町村の半数に消滅可能性があると指摘され、今回の地方創生の問題意識に火をつけるかたちになりました。
 
 この状況の中で、地方に高質な仕事をつくるという時に、どのような都市の規模や特性を備えていることが必要かについてもお聞きしたいと思います。ご著書の中では、青森市や盛岡市のような人口30万人規模の都市を例示されていますが、東京圏に対抗する高質で魅力的な仕事をつくれるかという点からは、東北なら仙台市、九州なら福岡市のような、もう少し大きな規模の都市の可能性により期待できるのではないかと思います。この点はいかがでしょうか。
 
冨山 私の感じでいうと、仙台や福岡は大きすぎるかなと思います。東京の最大の弱点は「大きすぎる」ことです。仙台や福岡はこのままでも膨張を続けていくでしょうし、高質な仕事もそれなりに生まれると思います。逆にこれらの都市が大きくなり過ぎると東京化してしまって、出生率の低下などの東京と同じ問題がでてくる恐れがあります。ヨーロッパやアメリカの都市と比べても、仙台や福岡、札幌はいまでも十分に巨大都市です。
 
 だから、政策的に何か手を打つとしたら、盛岡や青森の規模かなという感じなのです。30万都市では高質な仕事をつくりにくいとするなら、それをどうやって50万都市にするかを考える方が、全国的な拠点都市の形成という意味では妥当ではないかと思います。
 
荒田 たしかに職住近接的なイメージはつくり易い規模だと思います。よくコンパクトシティといわれますが、都市を核とした集約化についてはどう考えますか。
 
冨山 公共サービスの効率性、持続性を考えれば、都市の密度が重要になります。ただ数だけ合わせた50万都市をつくっても仕方がありません。中心市街地に人を寄せて、周辺地域にはほとんど人が住んでいないという状況をつくることが望ましいと思います。
 
荒田 そのためには、過疎地や限界集落に住んでいる人たちの「退出戦略」が必要になります。
 
冨山 基本的人権を尊重しながら、独りになった高齢者に中心市街地の施設や介護付マンションに移ってもらうための支援策などを粘り強く講じることが必要でしょう。点在する集落に公共サービスを提供し続けると結局はコストにはね返ります。その分を退出するコストに振り向ける方が賢明だと思うのです。企業でも創業するときよりも退出する時の方がコストがかかります。時間がたてば自然と集約化されるというのは間違った見方で、退出コストを公共が負担して集約化を進めることが必要です。
 
荒田 地方創生の鍵が「延命よりも退出」にあることがよくわかりました。地方創生の具体化局面で、政府が腹をくくって政策の舵を切れるかどうか、注目していきたいと思います。同時に、政府や自治体頼みではない、民の力や人の力にも期待したいところです。
 
 山梨市牧丘町に株式会社hototoという農業生産法人があります。代表を務める水上篤さんは、外資系企業に身を置きニューヨークでバリバリ働いたGの側の経歴をもつ人物です。それが超富裕層の田舎志向のライフスタイルに刺激を受け、リーマンショックを契機に「自分のオリジナルに立ち返る」と決意し郷里の牧丘で帰農。ブドウなど果樹に加えて、無農薬野菜や養鶏、研修事業や飲食・宿泊施設などの多核経営に取り組み、最終的に「地域で回る30億円企業」をめざしています。
 
 水上さんに話をうかがうと、事業展開では常に持続性を意識しているのだそうです。ローカル経済の中でお金を回すことが大事で、昔のモデルに戻れば地域は回る。そのために自分は地域資源を活用するファシリテーターなのだと水上さんはいいます。地域から逃げないという姿勢は、冨山さんの指摘ともピタリと符合するものです。そんな水上さんのもとには、全国から農業で地域を再生したいという意欲をもつ人たちが続々と集まってきます。こうした自発的な人の力こそが、地方創生の真の原動力だといえるでしょう。
 
【写真:遠藤宏】

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