先に発展した隣国として、中国を誘導せよ

丹羽宇一郎(前中国全権大使)×前田宏子(PHP総研主任研究員)

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前田宏子(PHP総研主任研究員)

3、企業のもつ現地情報を活用せよ
 
前田 民主党政権の時に、中国と日本の意思疎通がうまくいかなかったというようなことが問題点の一つとして指摘されていますし、それはその通りだろうと思います。
 
 ただ、よく中国の方から「今、日本の政治のキーパーソンは誰だ?」と聞かれるのですが、日本人にだってよくわからない。逆に中国は、もちろん習近平さんや李克強さんはキーパーソンといえばキーパーソンなのでしょうが、すぐにつながる人ではない。では、中国で誰を押さえておけばいいのかという時に、中国のほうもちょっと分かりづらくなってきている。
 
 戦後60年が経ち、日本も中国も政治や社会が変わりつつある時に、お互い相手を見て、「これまでと違う変な動きをしている」と感じてしまう、お互いへの不信感が生じているのだと思います。「では、どうすればいいんですか」といった時に、大使の本を読んで、これは非常にいいアイデアだなと思ったのが、大使館で各地方の担当の責任者を決めて関係強化を図ったという点です。
 
 
 地方の役人なども将来出世する可能性がありますから、かなり大事にしておかないといけない。すごく偉くなってから捕まえようと思っても、友情や信頼を、育めるかもしれないですけれども、やはり年月をかけて培ったほうがいい。丹羽さんが大使をしておられるときに、地方をいろいろ回られたというのもいいことだなと思いました。
 
 それ以外にも日中の交流を増やすために、あるいは政治家間の信頼を増やすために、こういうことをやればいいのではないかというようなご提案はありますか。
 
 
丹羽 できるだけ日本人と中国人が接触する機会を多く持つことです。それから、中国の人にできるだけ日本へ来てほしい。日本びいきになってくれとは言いません。別に日本びいきでなくてもいいから、日本を理解する、あるいは、日本のことをよく分かっている人を増やさないといけない。日本に来たこともない、日本人も知らない。「日本人はあなた方が考えているよりずっと立派で、ずっと穏やかで、軍国主義でも何でもないよ」ということを、中国から日本へ留学し帰国した後、言えるようになってほしい。
 
 日本人も「中国はけしからん国だ、共産党でどうしようもない」と思っている人がいるかもしれませんが、実際に話してみたら共産党のことなど、大部分の中国国民は考えてない。明日の生活が豊かになればいいのであって、共産党でも、社会党でも、資本主義党でも、何でもいい、そういうことをお互いが理解し合う必要がある。お互いが理解できるように、行き来を増やすべきです。双方向の行き来を、あらゆる面で増やしていくということが大事です。それ以外に方法はない。
 
 たとえば日本では、予算をカットするとなると、全部一律にカットしてしまう。外務省は大変です。交流も何もできなくなってしまいます。だから、特に重要な国については、予算を少し増やして、外務省の職員が中国の国中を回って、一次情報をできるだけ取るようにしないといけません。人民日報や新華社の情報なんて、二次情報で、色がついている。それを見て「中国はこういう国だ」と言うのはおかしい。外務省の若手が絶えず中国じゅうを回りながら、「新聞に書いてあるのと違うな。実際はこうではないか」とか、「あんなことを言ってるけど、かなり反日感情が強いぞ」とか、いろんな一次情報を自分たちが取るようにしないといけない。出張旅費なんてわずかなものだと思いますが、そういう予算は、外交の政策として打ち出していかないと。どんな事態になっても、「とにかく予算は1割カットだ」なんて、愚策ですね。戦略というものがない。そういうことを政府が、政治家がよく考えなければいけない。
 
 
前田 企業の方の情報はどうでしょうか。私もときどき中国に行って人と会ったりしますが、中国で活動している企業の方とお話をすると、持っている情報の量が全然違うという気がします。
 
 政府の方は、北京や上海、あるいは、重点都市には行くことが多いでしょうけど、地方まで行くことは余りない。それに中国の人は、外交の話になると金太郎飴みたいな建前の話ばかりするのですが、実際にはすごく利益にさとい人たちですから、「経済活動などは別でやりたい」という本音があるんだけれども、外交問題の話をしていると、余りそういう話にならない。
 
 日本の企業は、それこそ戦後の中国への進出は一番早い時期に行っていて、政府間の正式な外交関係ができる前からの民間交流の歴史があり、非常に多くの情報、重要な情報をつかんでいらっしゃると思います。丹羽さんの目から見て、そういう民間の方が持っている情報と、政府との情報の共有や意見交換は、うまく機能していると思いますか。
 
 
丹羽 あまりできているとは思いません。官は自分たちのほうが偉いと思っているから。一次情報、政治家との接触ができるから、自分たちの方が情報はあると思っている。ただ、中国国民がどう思っているかとか、中国の国内情勢、ニーズはどうだとかいう情報は、これはやはり、官は非常に劣ります。民間は地面を歩いてますからね。官のほうは、東京からのいろんな反応や、メディア関係の情報を見て考える。かなり落差があります。そういう情報の交換というのは、北京で我々の時はやっていました。でも、やはり経済界のほうが、実際の国民感情というか、それはよく知っているのではないかな。
 
 
前田 欧米などは、中国共産党エリートの高官の子弟とかを一生懸命留学に招いたり、また、国有企業の幹部など、そういう人は親が党エリートだったりすることが多いので、そういう人を捕まえようとしています。日本の政治家を見ると、共青団関係のつながりは割と厚いとは思うのですが、それ以外はどうなのだろうと思うことがあります。民間の方が、本当は関係を持っていらっしゃるのだと思いますけれども。
 
 
丹羽 まあ、確かに、政府とかそういう人の意見というのは、あなたが言ったように金太郎飴だな(笑)。同じようなことしか言わない。余り大した情報ではない。
 

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