「伝統に回帰する」か「さらに国を開く」か -憲法改正論の新潮流―

政策シンクタンクPHP総研 研究主幹 永久寿夫

ゲンロン西田亮介氏

3.被選挙権を外国人に拡大するゲンロン案
 
永久 首相と内閣の在り方について、ゲンロン草案は、首相は「総理」という名前で国民が直接選び、行政権は内閣ではなく「政議院」にある。これは、しばらく前まで言われていた「決められない政治」を解決する一つの方法ではないかと理解できます。
 
 自民党の改正案でも首相の権限強化がテーマの一つで、行政権は内閣に存在しますが、例外的に、行政各部の指揮監督・総合調整、国防軍の最高指揮権、衆議院解散の決定権については、首相の専権事項とされています。ゲンロン草案にも似たような意識があったのでしょうか。
 
 
西田 統治の考え方として、まずは国政と地方自治を切り分け、補完性の原理に基づいて地方の問題は極力地方に還元していく。国政のほうは、スピーディーな意思決定が様々な問題に対応する上で必要と考えました。具体的には、ねじれ国会が生じた時に大問題になるのが予算なので、これを政争の材料にならないようにすることなどです。
 
  ただ、よく言われるように一院制がいいかというと、必ずしもそうではない。参議院に期待された良識の府というか、様々な知見を提供する役割を持つ仕組みは必要である。その時に、国民に限らず外国人をも取り込む仕組みがよいということで、いまの衆議院にあたる「住民院」とはべつに、外国人も議員になれる「国民院」をつくりました。
 
永久 総理は直接国民が選ぶと言うことですか。第13条を読むと、「総理は、法律の定めるところによる日本国民の直接投票によって、国民の中から国会が指名する」とあります。
 
西田 そうです。ただ、ポピュリズムに陥らないように設計しています。
 
 
永久 JC草案の首相は、今と同じですが、国会のほうはかなりいじりましたね。二院制で、片方が衆議院と同じような「国民議院」。もう一方が「評議院」という名前で、地方自治体から代表を選ぶ。これは地方自治体から首長が行くのですか。
 
 
松原 そのあたりまで議論していません。ただ、大きさにかかわらず、各都道府県から1人ずつ代表を出す仕組みです。
 
永久 面白いのは、法律の大半は国民議院が決めるところ。評議院の同意が必要なのは、地方自治体の租税に関する法律案、地方自治体の官庁の組織及び行政手続を規律する法律案、地方自治体の固有事務として執行する法律案、そして国の予算と条約。地方自治体に関わることは評議院の同意が必要ということですね。
 
松原 地方へ分配されるお金については、中央からの一元的な決定ではなく、地方の代表から同意を得るということです。
 
永久 曽我部さん、両草案の、首相と内閣の関係、国会の在り方など、総括的にコメントをお願いします。
 
曽我部 90年代以来、日本政治の課題の一つだった首相のリーダーシップは、小選挙区制の導入、中央省庁再編の際の内閣機能の強化など、法律レベルの相次ぐ改革によって、かなり高まってきました。
 
  ゲンロン草案は、国会が最終的に指名するのですが、今の議院内閣制をほぼ維持した上で、首相だけ公選にするという仕組みです。ただ、リーダーシップの確立には逆効果かもしれません。ある政党が国政を掌握するには、首相選挙で勝って、総選挙でも勝たないといけません。そうしないと、米国のように、行政府と立法府でねじれが生じます。しかし、時期の違う選挙で連勝するのは難しい。できたとしても、またすぐ次の選挙が来る。今の問題は国政選挙が、実質、約2年に1回行われ、権力が不安定化するところにありますが、この案だと同じ問題が別な形で出てくる恐れがあります。
 
 二院制について、JC草案は、上院を地方自治体の代表にするオーソドックスなものです。フランスが似た仕組みで、日本と同様に連邦国家ではありませんが、上院は地方自治体の代表で、間接選挙で選ばれます。JC草案にはこのあたりの具体性はありません。
 
 権限については、評議院の権限は弱く、普通の法律には何も関与できず、幾つかの地方に関わる法律、予算と条約についてのみ同意権がある。予算はまだわかりますが、条約については別になくてもいいのでは。また、地方自治体の利益だけを代表する機能に特化するのなら、別に国と地方の協議の場をつくるのでもいい。二院制である限りは、もう少し幅広に権限を持たせたほうがいいように思います。フランスでは、あらゆる法律を上院、下院で通します。
 
 ゲンロン草案は、参議院が良識の府と言われながらも、権限が強すぎて大所高所から物が言えないところに着目していて、思い切って権限を弱めて、意見は言うが、採用するもしないも、住民院、今でいう衆議院の自由、という考え方です。ただ、どういう人が議員になるのか、どのようにいわゆる賢人を選ぶかは、とても難しく、ゲンロン草案でも明確な回答は示されていません。
 
西田 今の衆議院に当たる住民院の議員になれるのは日本国民だけで、住民院が国内在住の国民と長期合法滞在外国人を含む「住民」にかかわることを決めます。国民院は今の参議院にあたり、被選挙権は「住民」ならびに在外の国民と外国人にあり、選挙権は国民にあります。権限は弱く、基本的には提案と意見を付することだけです。否決はできますが、住民院で再可決しやすいようになっています。一院制と二院制のよいとこ取りを試みた仕組みです。
 
 国民院で、誰が、とりわけ外国人の方が、議員に選ばれるかというと、大所高所から議論やアドバイスをし、国民及び住民の利益になると思われる方々を想定しています。どのように利益になるのかは、選挙の中でボトムアップで決まっていくのではないでしょうか。
 

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