日本の国際的存在感を高めるには

加治慶光×藤井宏一郎×金子将史

 近年、パワーバランスが大きく変化する中で国際的な宣伝戦が活発化しており、日本も領土問題や歴史認識をめぐる他国の宣伝攻勢に直面するようになっている。加えて、2020年の東京五輪開催を控え、日本の対外イメージを改めてどう再構築していくかが新たな課題として浮上している。SNSの急激な発達など、メディア環境、情報環境の変容も、日本の国際コミュニケーションにとって新たな挑戦をもたらしている。
 
 こうした状況を受けて、日本においても、対外広報や人的交流、国際放送、オリンピックなどの大型国際イベントなどを通じて海外の世論に働きかけ、人的ネットワークを強化して、自国の考えや理想、制度や文化、展開している政策に対する理解を促進する「パブリック・ディプロマシー」への期待や関心が高まっている。
 
 日本のパブリック・ディプロマシーの課題は何か。そして、今後何をどう変えていけばいいのか。昨年末まで官邸国際広報室・国際広報戦略推進官として日本政府の対外広報を現場で担った加治慶光氏(アクセンチュア株式会社チーフ・マーケティング・イノベーター)、Googleの公共政策部長を務め、情報化を背景に変貌するパブリック・アフェアーズのグローバルな動向に詳しい藤井宏一郎氏(PHP総研コンサルティング・フェロー)、先般刊行された『パブリック・ディプロマシー戦略(PHP研究所)』の編者の一人である金子将史(PHP総研主席研究員)の3人が語り合った。

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■日本は世界でどう見られているか
 
金子 藤井さんはGoogleを退職後、世界をあちこち回って、パブリック・ディプロマシーやパブリック・アフェアーズのプロ、あるいはロビイストといった人々と意見交換をしてきたそうですね。日本の国際的な存在感やイメージについてどのようにお感じになりましたか?
 
藤井 言い尽くされていることですが、やはり中国の存在感が大きく、日本の存在感は落ちています。どこへ行っても中国の話ばかりではあるのですが、ただ、日本のイメージは思ったほど悪くありません。自分が行くと、日本のパブリック・イメージを気にする人がやっとあらわれてくれたか、だって日本いいじゃない、という受け止め方なんです。中国に対するカウンターバランスという意味での期待値も高い。
 
  それから、これはまさに加治さんのおかげだと思うんですが、安倍政権の評判も、国際ニュースをよく読んでいる人たちの間ではいい。国連でのウーマノミクスに関する言及など高く評価されていて、次の構造改革がどうなるかというのはあるんですが、アベノミクスの神通力もまだ落ちていないと思います。
 
加治 今日本に比較的発信力があるのは、安倍総理を中心としたリーダーシップチームの存在が大きいですね。それには3つの要素があって、まず政権が安定していること。幸いにして、安倍政権はすごく支持率が安定していて、1年以上たっても50%以上ある。これくらい支持率が安定していると、海外に目を向ける余裕が出てきます。
 
 2つ目は、長期政権になりそうだという想定が諸外国首脳間にあるということです。G7や国連総会等で交流する各国首脳の立場に立つと、来年もこの人は来るだろうという前提をおけることが決定的に重要です。来年来るかどうかわからない相手と積極的に信頼関係を築こうと思わないでしょう。
 
 それから、最後が一番重要ですが、安倍総理を中心とするチームには、いろいろな国と対峙しなければいけないという意思がある。総理は短期間の間に世界中を回られていて、これはそうした意思のあらわれだと思います。
 
 この3つの要素が揃っていることが重要で、あとはコンテンツの問題ですから、その時その時の各国との外交上の状況を判断しながらいろんなことを言っていくということだと思うんです。
 
藤井 他方であまりよくないブランド・イメージもつきつつあるように思います。クール・ジャパンとか、オタクとか、カワイイとか、そういうものが強く出すぎて、変わった国、weirdな国というパーセプションが出てきている。それから、日本のイスラエル化というか、周囲の国と喧嘩ばかりしている国というイメージ。その両極端の間に、本当の日本のよさが埋もれてしまっている。
 
金子 国内でも、安倍政権は世界からナショナリスト政権、危ない政権と見られているという報道が目立ちますよね。
 
加治 そこは話す相手によって違うのではないでしょうか。ウォールストリートジャーナルとかエコノミストとかを読んでいる知的層にはそうした報道による印象も限定的にはあるかもしれないけど、不特定多数の一般的な層には電化製品とか自動車とか、そういうイメージの方が強いと思われます。
 
金子 そうかもしれませんが、知的な層の影響力は無視できないでしょう。
 
加治 そのあたりを意識して、官邸もTOMODACHIサイトを立ち上げて総理のスピーチや日本の考え方を掲載するといった活動を展開しています。
 
藤井 電化製品や自動車のイメージが強いという点ですが、最新テクノロジーに関心がある人たちと話すと、今日本はスマホだってほとんどつくってない過去の国でしょ、という話になるんです。そういう過去の遺産が今後どこまで使えるのかなというところはとても気になるところです。
 
加治 ブランド・エクイティというくらいですから、だんだんと減少していく可能性があるのも否定できないでしょう。
 
金子 一般にブランドは過去の蓄積の上に成り立っているので、しばらくは既得権者が勝つんだけれども、実態からあまり離れてくると、気づいたらいつか突然ブランド力が失われているかもしれない。
 
藤井 日本が強かったのは、ネット以前の時代の自動車・エレクトロニクスなどのハードウェアです。今は自動車もAV機器もすべてネットでつながり、ソフト化していく時代ですから、そこにどう技術面・ビジネスモデル面で対応するのかが注目すべきところで、そこに乗り遅れつつあることがものすごく怖いと思います。

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