建前だけの復興加速化ならいらない

政策シンクタンクPHP総研 主席研究員 熊谷哲

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小手先の復興特例では意味がない
 
 復興の足かせとなっているもうひとつの問題は、高台移転先の用地取得手続きや、かさ上げをするための土地区画整理の手続きにある。共通するのは、震災によって所有者が亡くなったため相続手続きが必要となるなどの震災に起因する問題に加えて、そもそも所有者が不明であったり、明治時代から相続手続きが行われていなかったり、あるいは境界が不明で所有者同士の確認が必要となるなど、震災によって顕わになった問題が少なくないことだ。こうした土地を公的に収用しようとすると、ただでさえ測量や埋蔵文化財調査などで人手不足となっているところに、さらにマンパワーが必要となる。また、1件ずつ確実に処理する前提に立てば、途方もない時間が必要となる。
 
 政府はこうした状況に対応するために、土地の所有者が不明な場合に、家庭裁判所が選任する財産管理人に土地の保存や売却などを任せる「財産管理制度」の手続きを短縮したり、公共事業に必要な土地の取得手続きを定めた「土地収用制度」の手続きについても外部委託や簡素化を進めるなどして、作業期間を短縮させる特例措置を昨年10月に導入した。安倍総理は「半年かかっていたものを最短で3週間にできる」と、この特例措置の導入にあたって強調していた。
 
 だが実際には、その手続きに入るまでの相手方を特定し意向確認をするといった準備段階に相当の手間を取られ、期待された効果はおよそ発現していない。そもそも人手の不足する自治体では特例措置の活用にすら至らず、復興事業の加速化につながっていないという指摘も相次いでいる。現行制度を前提とした手続きの「ある部分」の見直しでは、到底現実に見合っていない現状が浮かび上がっている。
 
 国土交通省はさらに今年1月になって、地権者の承諾が得られない土地でもかさ上げ工事などに早期に着手できる特例的なガイドラインを、課長通知という形で設けた。これまでは、以前の土地における所有者の使用・収益権を暫定的に制限する「仮換地」の指定前に、地権者に「起工承諾(工事への同意)」を得ることを前提としてきた。ところが、前述のような土地所有の状況などにより難航していることから、所有者の同意を得なくとも工事が可能となるよう、「現位置に(あくまで今の土地の上で)、工事の実施のみを目的に(区画整理の手続きには入らず)、減歩なし(現状の所有状況のまま)」という枠内で仮換地指定を可能とするようにしたのである。
 
 だが、かさ上げ後の土地の位置、形状、面積を特定し、図面に落とし込む換地設計が整った段階で改めて仮換地指定を行う必要があり、手続きを先送りするだけでしかないという見方もできる。加えて、地権者が特定できている場合には、引き続き一件ごとに起工承諾を行うという前提を変えられてはいない。見た目には加速化に寄与しそうなものだが、その効果の及ぶ範囲は限定的で、なおかつ職員の負担の大きさはあまり変わらないのではないかと推測される。
 
 なぜ、こうした手続き短縮化といった小手先の見直しにとどまるのか。それは、憲法に定める個人の財産権の不可侵があり、復興という大義名分があっても、公共目的による土地利用の制限と調和させるには現行法令の範囲を越えられないと政策担当者が判断しているからに他ならない。いきおい、これまでの法令解釈の積み重ねを尊重し、できる範囲での改善に留まってしまっているのである。
 
 被災自治体のなかには、「自治体が一定の手続きの元で、一定の期間、一定の地域において借地権を設定し、あるいは管轄権を自治体に移管し、事業完了後に所有者に返還する制度」の創設を求めているところがある。さかのぼれば、小笠原諸島の日本復帰に際して制定された暫定法や特別措置法には、「法定賃借権」「法定使用権」「特別賃借権」などの規定が同様の趣旨で設けられた実績がある。多くの時間と手続きを必要とする土地利用について、小笠原の例に倣った、既存の枠組みにとらわれない本当の意味での特例措置が必要ではないだろうか。この点については、なかんずく立法機関たる国会の責任も重いものがある。現状をしっかりと捉えて、抜本的な対策を講じるべきである。

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