建前だけの復興加速化ならいらない

政策シンクタンクPHP総研 主席研究員 熊谷哲

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身の丈に合わない、多すぎる公共事業
 
 何をおいても政府が真っ先に対策を打つべきなのは、復興の足かせとなっている公共工事の入札不調についてだ。会計検査院によれば、岩手・宮城・福島の3県で2011年10月からの1年間に実施された復興関連事業のうち、最低落札価格が予定価格を上回る、あるいは応札がないなど、自治体が発注する工事で施工業者が決まらない入札不調が21%に達した。この傾向はその後も変わらず、2013年度上半期(4月~9月)に入札不調となった公共工事の割合は25%を超えている(同3県)。不成立の多い価格帯も、当初は3000万円未満だったものが7000万円未満にまで上がるなど、一定の利幅が見込めるはずの規模の大きな事業にまで広がってきている。
 
 原因は、すでに明らかだ。人手不足・資材不足が深刻化し、それに対し十分な対策が取られていないからだ。2000年代からの公共事業費削減に伴い、大手・中小下請けを問わず建設会社やその従業員は大幅に減り、事業量に見合った再編が進んできた。東日本大震災の復興需要については、復興計画が策定された当初は、そうした業界の変化があっても十分調整可能と見込まれていた。だが、第二次安倍政権の掲げる国土強靱化やアベノミクスの第二の矢である大規模な財政出動が公共事業の大幅な増加要因となり、そこに東京オリンピックに向けた官民双方の旺盛な建設需要が加わり、さらに円安による輸入資機材などの高騰が追い打ちをかけている状況にある。より条件の良い事業に事業者の目が向き資源が振り向けられた結果が、被災3県の入札不調となって現れているのだ。
 
 こうした事態を解消するために、国土交通省は2月になって、被災3県のすべての公共土木工事について発注額を一律に6~8%増額する「復興係数」を導入すると発表した。「受注したとしても、十分な利益が確保できない」とする事業者に対し、増額発注を行うことで入札増を図り、入札不調を改善していこうというのだ。
 
 この国交省の対策は付け焼き刃でしかない。被災3県では最低落札価活を見直して再入札を行っても、再度不調となっているケースが後を絶たない。引き上げ幅で言えば、例えば築地の中央卸売市場の豊洲新市場への移設は4棟の工事のうち3棟で入札不調となり、再入札の予定価格は6割以上引き上げられた。総事業費も当初予定の4割増となる5500億円まで膨らんでいる。こうした中で、さまざまなハンデを抱える被災地において6~8%増額することが、どれだけの効果をもたらすだろうか。
 
 また、お金を積んだからといって人材の確保にメドが立つわけでもない。全国の建設業の有効求人倍率は、技能労働者で約4倍。国土交通省の需給調査でも、熟練が必要な技能工の不足率が高止まりしている。被災地の有効求人倍率に目を向けると、岩手県では建設業全体で2.81倍、宮城県では3.43倍と、こちらも依然として高い水準で推移している。一方で、水産加工業や福祉関係でも人材を思うように確保できないなど、事業再建の足かせとなっている状況が顕在化している。
 
 宣言通りに復興を加速させるつもりがあるならば、政府の責任においてこうした現状を改善しなくてはならない。まず何よりも、2020年の東京オリンピック開催までの国全体の公共事業総量を投入可能な資源量に見合ったものとする中期計画を策定し、各年の事業量を平準化することだ。人材や資機材の供給力に目を瞑ったまま事業量を拡大させている現状は建設的ではなく、およそ現実的でもない。復興に必要な資源が被災地に重点的に充てられ、またオリンピック開催に必要な整備も滞りなく進められるよう、資源配分の観点から優先順位を明確にし、事業量を適切にコントロールすべきである。
 
 また、復興事業についても、事業の進捗や住民生活の状況に即して復興計画を弾力的かつ機動的に見直し、実効性あるものとしていくことが肝要である。持続可能な地域づくりに適う復興とするためには、将来的な経営見通しや人材マッチングの観点が欠かせず、こちらも事業・雇用の一時的集中を緩和し、平準化する努力が求められる。

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