経済と安全保障シミュレーション【2】
―中国金融危機のシナリオ―

はじめに

 97年のアジア通貨危機がもたらした影響は、単に経済ばかりでなく、政治、安全保障の分野にも及んでおります。将来を展望いたしましても、経済的な問題に起因して地域の安定が脅かされる可能性は無視できませんし、逆に政治的な問題から地域が不安定となり、経済活動に大きな影響を及ぼすことも大いに考えられます。よって経済と安全保障の関係をどのようにとらえるかを真剣に考えることは、日本にとって急務でありましょう。しかしながら、現状を見ると、経済と安全保障のそれぞれの専門家が一堂に会し、それぞれの連鎖を共に考える機会はきわめてまれであり、どちらかというと経済の問題は経済専門家が、安全保障の問題は安全保障の専門家が、それぞれ独自に取り組むという場合が多く、経済と安保との接点が皆無に等しいといった傾向が見受けられます。

 以上のような考えから、経済および安保の専門家が膝を交え、それぞれの立場から意見を交換する場を提供すべきであるという考えのもと、平成10年6月、PHP総合研究所は「経済と安全保障のシミュレーション会議」として、任意に選択した危機のシナリオが、経済および安保の各分野にどのような連鎖をもたらすのかを討議する研究会を提供いたしました。以来平成10年11月の最終セミナーゲームにいたるまで、計13回の会合を重ねた結果、「危機の連鎖」を本報告書にまとめることができました。

 さて、本シミュレーションの危機のシナリオを特定する過程において、われわれは脅威分析演習手法(TPE-本文参照)を用い、出席者全員の「懸念すべき危機のケース」について議論と勉強会を重ねましたが、その結果「中国の金融危機」を危機の発端とすることを平成10年7月に決定。この決定に基づき8月の時点で中国金融危機のシナリオを書き上げました。これが本報告書のシナリオとなっております。

 本報告書により、平成10年8月の時点で、われわれが書き上げたシナリオのほとんどが、奇しくも半年を経た現在、現実の問題として持ち上がっているという事実がおわかりいただけるかと思います。もちろん、本シミュレーションは、もともと経済および安保の危機に対する連鎖を調べることに重点が置かれており、近未来の事象を「当てる」ことは、二義的なものと定義していたわけですが、当初われわれが「危機」と仮定した事象が次々と発生している状況の中では、来るべき事態に事前に対処しうるよう、早急にこれを公表し、政策決定者その他の今後の方策に資するべきであると考え、本報告書の緊急発表となったわけであります。

 本報告書に目を通される方々が、事態の展開とその世界的連鎖に着目しつつ、近未来の日本の政策にどのような視点が必要となるかを、今一度ご吟味いただく機会としてこれを活用していただけるならば、望外の喜びであります。

平成11年1月25日
PHP総合研究所
経済・安保シミュレーション会議
世話役 橋本光平

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