金融システム再生に向けての提言【3】
― 金融危機の本質的問題にどう対応すべきか ―

A.金融システムのトリレンマ

 90年代初めのバブル崩壊によって、日本の金融システムは巨額な不良債権を抱え込み、いまや危機的状況に陥っている。金融当局の誤った対応が事態を悪化させ、それをここまで放置してきたことが元凶だが、その「本質的問題」は3つある。

 第一は、前述の80~100兆円の規模と思われる巨額な不良債権が金融システムにいまなお留まり、株価や地価の長期的低迷をもたらし、そのために金融不安が常態化し、金融暴発(パニック)がいつ起こってもおかしくないこと。

 第二は、98年4月の「早期是正措置」導入などを前に、金融機関が経営指標を改善するために「貸し渋り」(日本型クレジットクランチ)の傾向を強めつつあり、低迷化する景気が信用収縮によって底割れし、深刻なデフレに落ち込みかねないこと。

 第三は、世界的金融大競争のもとで、日本の金融界もビッグバンによって競争力の強化を早急に図ることが至上命令になっていること。

 以上のように、現在、日本の金融システムは「三重苦(トリレンマ)」に陥っている。つまり、未処理の巨額な不良債権の重圧、信用収縮に伴うデフレ圧力、そして国際的金融競争の大波である。

 このトリレンマが金融システムの抱える「本質的問題」であり、この問題を解決しないかぎり、日本経済は閉塞状態を突破できないばかりか、混乱や激震のなかで衰弱化して行かざるを得ない。

B.3つの選択的処方箋

 97年11月の一連の金融破綻事件を契機に金融不安が高まるとともに、景気下振れリスクも増大し、これに98年4月からの「早期是正措置」導入ならびにビッグバン始動が加わってきたため、金融機関の「貸し渋り」の動きが取り沙汰されるようになっている。

 ここにきて、やっと政治家や政府に、ここまで放置してきた金融システム安定化対策が緊急性を持つ重大問題だとの認識が一気に高まった。これが宮沢元首相や梶山前官房長官の「公的資金導入論」で、これらをベースにこのほどまとまったのが前述の「10兆円交付国債プラン」である。これは従来の金融安定化方式の修正を図る点で「現行修正方式」と呼んでおこう。

 金融システム安定化のための処方箋は、この「10兆円交付国債方式」(「現行修正方式」)のほかに2つある。

 まず、「延期方式」である。これは景気失速やデフレ経済化を警戒し、「早期是正措置」導入さらにビッグバンを「先送り」し、よりスロー・ペースで金融安定化を図っていこうとの処方箋だ。すでに自民党やその他の政党からも「貸し渋り防止」や「地域経済の混乱回避」を理由に、こうした「延期方式」(スロー・ペース方式)を求める声が出ている。

 もうひとつは、「短期決着方式」である。これは今後の貸し渋りの増大や世界的金融大競争を展望すれば、短期一括方式で不良債権問題を処理し、早急に閉塞状況を突破して、さらに経済を活性化させることが不可欠との考えに立つ。

 いうまでもなく、われわれグループの基本的立場は、この第三の「短期決着方式」である。第一の「現行修正方式」は前述したように、あいかわらず行政責任が曖昧なうえにスキーム自体も裁量的で、これでは国民の「信認」を回復できない。これではかえって金融混乱や金融不安を広げるだけとなる。この「現行修正方式」の根底には、依然として「差し当たり10兆円でも備えておけば何とかなる」との安易さがあり、金融システムが抱える「本質的問題」についての的確な認識が欠如している。その結果、「場当たり的施策」を繰り返し、遂に金融パニックの暴発を招くことになる。

 第二の「延期方式」は問題をさらに「先送り」するわけだから、この意味で激痛や不安は遠のく。だが、それは表面的で一時的なモルヒネ効果に過ぎない。結果として、金融システムの膿は一層拡がり、深刻化する。こうして金融システムは劣化し、最終的には国民に膨大なツケを回す無責任な結果を招き、さらに脆弱な金融システムのもとで日本経済は衰退化の道を歩むことになる。

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