世界が見習うべき「責任ある一歩」

ハーバート・マクマスター(元米国大統領補佐官)&村野 将(米ハドソン研究所研究員<Japan Chair Fellow>)

本稿は『Voice』2023年3月号に掲載されたものです。

同盟国である日本とアメリカは、それぞれの戦略を履行していくうえでどのような課題と具体的な対応策があるのか。ハドソン研究所研究員を務める村野氏が、トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたマクマスター氏と議論する

戦略3文書の改定はポジティブに評価できる

村野:日米両政府は昨年(2022年)末までに、新たな国家安全保障戦略や国家防衛戦略をはじめとする主要な戦略文書を公表しました。まずは私から、昨年末に発表された日本の戦略3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)に関する評価を簡潔に述べたいと思います。

率直に申し上げて、今回策定された戦略3文書は、非常に良くできているとの印象を受けました。注目すべき点は複数ありますが、第1に、国家安全保障戦略では中国を「我が国の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦」として明確に位置づけています。表現の細部は異なりますが、バイデン政権の2022年版の国家安全保障戦略(NSS)や国家防衛戦略(NDS)と概ね同じことを記しています。

第2に、国家防衛戦略と防衛力整備計画では、日本の防衛力を構築していくにあたって「相手の能力と新しい戦い方」に焦点を当てることの重要性が強調されている点が特徴です。これは、米国でも採用されてきた「能力ベースプランニング」と呼ばれる手法に近く、2013年版の防衛計画の大綱から採用されてきた経緯があります。この手法では将来直面する可能性の高いいくつかの防衛計画シナリオに照らして、自衛隊の機能・能力のギャップを特定する分析作業が行なわれます。

これまでも、自衛隊にいかなる機能・能力のギャップが存在するかは特定されていたものの、それを埋めるためのリソースは絶対的に不足していました。とくに中国や北朝鮮のミサイルの脅威に対処するための統合防空ミサイル防衛能力、長距離打撃能力、弾薬・燃料・輸送能力などの兵站を含む継戦能力は不足していた。しかし今回の防衛力整備計画に則って、日本政府は2027年までに防衛予算をほぼ倍増するとしており、これらのギャップはある程度埋めていけると見込まれます。

日本の防衛戦略は、戦力構成指標や戦力開発の具体的なマイルストーンを明確にしているという点で、(戦力構成指標を示していない)米国のNDS(公開版)よりも優れているとさえ言えるかもしれません。

以上が私の考えですが、ワシントンの日米安保コミュニティからも、すでに多くの肯定的な評価がでていますね。マクマスター将軍は日本の戦略3文書について、どう評価しますか。

マクマスター:じつのところ、私も素晴らしい内容だと率直に評価しています。もっとも注目すべきは、村野さんがまず言及されたように、地域の潜在的な敵を明確な視点で捉えていることでしょう。とくに中国共産党と人民解放軍の脅威を訴えていることは重要です。人民解放軍は1990年代後半、つまり台湾海峡危機以降、国防予算を44倍に増やしましたが、米国も、そして日本も彼の国の軍備増強への対応には後れをとりました。加えて、グレーゾーンの問題や防空識別圏への侵入、日本の領海へのミサイル発射、ロシアとの合同演習など図々しい侵略行為も指摘されています。北朝鮮の脅威を直接的に示すだけでなく、ロシアの脅威、そして中露が互いにどう協力し合っているかを示したことも、今回改定された文書のポジティブな点と言えるでしょう。

もう1つの重要な要素は、国力のすべての要素や同志国との努力を統合することが強調されている点です。日本の独自の安全保障能力と役割の強化については多く議論されてきましたが、それが防衛戦略にも直接反映されたと見受けました。国防に関する文書は、国家安全保障戦略のより広い構成に適応する必要があります。日米同盟の強化はもちろんのこと、豪州、インド、韓国、欧州諸国、ASEAN諸国、カナダ、NATO、EUなどとの安全保障協力を通じて、自由で開かれたインド太平洋をさらに推進することは国家安全保障戦略上、見過ごすことが許されない重要な側面です。

さらに申し上げるならば、安全保障には経済的な側面があり、それは防衛や防衛能力にとっても重要だという認識が示されている点も着目すべきですね。サプライチェーンの弾力性や、エネルギー安全保障が強調されているのがその例です。

中国への見通しが甘いバイデン政権

村野:日本の戦略について肯定的な評価をいただきましたが、バイデン政権の戦略についても伺いたいと思います。マクマスター将軍はトランプ政権の国家安全保障担当補佐官として、2017年版国家安全保障戦略(2017NSS)をとりまとめました。トランプ政権時代のNSSとNDは非常に整合性がとれていましたが、これらの策定プロセスと比較したうえでバイデン政権の戦略はどう評価しますか。

マクマスター:トランプ政権とバイデン政権のNSSやNDSを比較すると、違いよりも似た点のほうが多く見受けられます。ただし、その過程には葛藤があったようにも思える。たとえば、バイデン政権は二酸化炭素の排出削減などの重要な問題で、中国との協力の可能性を見出そうとしていました。しかし、われわれがよく知るように、中国との協力を望むときは、いつでも中国共産党そのものが問題になる。こちらが協力したいと思い至っても、彼らが行動を変える可能性は低いのです。まずはこの事実を認識しなくてはなりません。

中国にわれわれの考えを尊重させるには、中国の侵略から自由で開かれた社会と経済システムを守るため、多国間協力を構築している事実とそれを担保する能力をもっていることを見せつけることが大切です。そう考えるならば、バイデン政権のNDSはもっと力強いものであるべきでした。中国共産党や人民解放軍の指導者に対して、武力行使では目的を達成できないとわからせなければいけないし、中国を抑止するためのハードな防衛力の重要性を過小評価しないよう、われわれも自覚する必要があります。だからこそ、防衛予算の倍増を決断した日本は高く評価されるべきなのです。

米国の戦略を評価するうえでは、国防権限法(NDAA)、つまり国防予算もみる必要があります。現在の国防予算は、中国の脅威に対処するための防衛力の増強や拒否的抑止力の確保、近年開発された中国の各種能力に対抗するうえでは不十分でした。しかし最近成立したNDAAには、米国の競争力を維持するために役立つ技術の多国間開発を奨励するなど、きわめて前向きな条項が含まれている。日米間で行なわれた「2プラス2」でも、競争上の優位性を維持するために重要な技術を共同開発し、より強靭なサプライチェーンへの投資や防衛産業基盤の必要性が強調されたところです。

ただし、武力行使では目的を達成できないことを暗に敵に伝えても、時間がかかりすぎるなどの問題点もあります。そこでいま真に必要とされているのが、新たな多国間司令部あるいは統合運用司令部であるというのが私の考えです。

米軍と日本の自衛隊の指揮官が毎日一緒に働き、必要ならば一緒に戦うための能力を評価する。そうすれば、両者の能力のギャップや多国間ドクトリンの相互運用性への理解が深まるし、互いの防衛力を補完して強化する方法や優先事項を明らかにできるでしょう。

村野:すべてに同意するお話です。とくにバイデン政権のNSSは、中国の野心に対する警戒感が強調されている一方で、協力分野をみつけることができるはずとも書かれている。しかし、米国とその同盟国にとっての戦略目標と、中国の行動やその野心はまったく異なるものです。たとえば、米国にとっての進歩とは、民主主義や自由で開かれたルールに基づく秩序に根ざすものと定義されています。しかし中国は、こうした秩序を修正ないし再構築することを望んでいる。これは人類の未来に対する根本的な認識の違いであり、そうである以上、米中が共存できる余地はきわめて狭いのが現実です。

日米韓の連携をいかに深めるか

村野:冒頭では日本の戦略についてポジティブな側面を強調しましたが、今後の課題にも触れたいと思います。今回改定された戦略3文書は、主要なポイントを網羅的にカバーしているものの、日米協力をどう深化させるかについては比較的あっさりしていました。もちろん1月11日に行なわれた日米の「2プラス2」で発表された共同声明からは、現在進行形の議論があることが窺えます。

たとえば、バイデン政権のNDSでは、米軍の新たな統合作戦構想はまだ開発途上であることが示唆されています。ただし、こうした作戦構想は本来、同盟国との協力をふまえて策定し、それを基盤として互いの役割・任務・能力(RMC)の分担を議論すべきものです。

加えて、日本は今回、いわゆる「反撃能力」と称する独自の長距離打撃能力の取得を決定しましたが、米国の地上発射型トマホークや米陸軍の長射程極超音速滑空兵器(LRHW)などのほうが、日本のシステムよりも早く配備できるでしょう。こうした米国のシステムの前方配備や、日米の統合的なターゲティング調整などについても、議論を始める必要があります。

先ほど、日米の指揮統制機構に関するお話がでましたが、日本がようやく統合司令部の設置を決めたことは、米国とのより深く円滑な連携に資するでしょう。ただ、私は米国側にも見直すべき点があると思っています。それは北東アジアにおける指揮統制構造についてです。米韓連合司令部は朝鮮半島において独立した作戦指揮権限を有していますが、在日米軍司令部はインド太平洋軍のような作戦指揮権限を有していません。

このような状況下で、もし台湾と朝鮮半島に連動するかたちで危機が発生した場合、どうなるのか。インド太平洋軍と在韓米軍とのあいだではいかに効果的な戦力配分や作戦指揮が行なわれるのか不透明で、私はこの点を憂慮しています。

マクマスター:たとえば在日米軍を再編成したり、すでに日本に置かれている司令部をより運用しやすいかたちに改編したりして、日本の新たな統合司令部機構と一体化させていくことは検討されるべきです。その次に考えうるステップが、実際に指揮機構を動かすことです。

村野さんが懸念されているように、北東アジアで何がしかの軍事的対立が生じたとき、その危機が日本あるいは韓国のどちらかだけに留まることはありません。この点、日本の新たな戦略のなかで、韓国との関係改善や協力・調整の必要性が強調されていることには、大いに勇気づけられました。先に述べた日米の統合司令部機構の構想は、作戦における齟齬を解消するだけでなく、多国間での作戦そのものを効果的に統合することに役立つはずです。そのうえで、韓国を日米のウォーゲームに参加させたり、指揮統制や調整メカニズムを洗練させたりという動きを進めるべきではないでしょうか。

まず連携すべき領域は航空宇宙及び海洋でしょう。しかし、中国が島嶼部に脅威を与えていることに鑑みれば、陸上領域との連携も急ぐべきです。その意味では、陸上における迅速な対応能力を強化すべく、陸上自衛隊が独自の海上・航空輸送能力の開発を重視しているのは喜ばしい。海洋・航空宇宙領域に対して戦力投射が可能な陸上部隊は、環境に左右されやすい海や空と異なり、安定した環境で活動できる強みがありますから。

村野:バイデン政権の核態勢見直し(NPR)は、これまで日米・米韓と別々に行なわれてきた拡大抑止に関する協議枠組みを、日米韓3カ国あるいは豪州を含めた多国間の協議枠組みに広げることを模索すると記しています。これは、地域における調整メカニズムを更新するための前向きな兆しです。

無論、関係者は日韓・日米韓協力には困難があることも承知しているでしょう。いきなり政府レベル(トラック1)で始めるのが難しければ、日米拡大抑止協議に韓国の専門家をオブザーバーとして招待すると同時に、米韓拡大抑止戦略協議体に日本の専門家を招待するかたちで、トラック1・5協議から始めるのも一案です。このとき、シンクタンク・コミュニティが何らかの基盤を提供する役割を果たす必要があると思っています。

北東アジアの核抑止をどう考える

マクマスター:核不拡散態制に対する圧力が高まっているいま、拡大抑止の信頼性を強化することが喫緊の課題に挙げられます。現に韓国では、何らかのかたちで核兵器を配備すべきか否かという議論が巻き起こっています。歴史を振り返ると、冷戦期の朝鮮半島には1000発以上の米国の核兵器が配備されていました。

米国には爆撃機とそれに搭載する核巡航ミサイル、ICBM、そして戦略ミサイル原子力潜水艦からなる強力な「核の3本柱」があります。しかし中露がこれに対抗し、ロシアが言うところのエスカレーション・ドミナンスを追求して核兵器を使用しようとした場合、世界はわれわれの条件で平和を模索するか、全面核戦争を覚悟するかというジレンマに直面するでしょう。

こうした敵国の脅しを防ぐため、何よりも重要になるのが通常能力です。2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した際、多くの人間が核戦争へのエスカレーションを懸念しました。あのとき仮に、ロシアの侵攻がウクライナ軍の強力な通常戦力によって抑止されていたならば、われわれの認識は違ったはずです。

また、通常戦力による反撃能力でも核使用の抑止に役立つ場合もある。たとえば日本が、通常兵器による反撃で潜在的な敵が受け入れがたいと考える損害を与えられるならば、敵は報復を恐れて自重するかもしれない。核エスカレーションの可能性を抑止するうえで、強力な通常戦力が重要な役割を果たしうる点は過小評価すべきではありません。日本は非核3原則を維持しながら、米国と効果的な核抑止力を構築するための重要なパートナーになれます。韓国にもこの一翼を担ってもらわなければなりません。

村野:時おり韓国の友人や記者から「もしも日本が本気で核武装を考えるとすれば、それはどんな状況か」という興味深い質問を投げかけられます。私は、日本が核武装を本気で考え始めるとすれば、主たる要因は北朝鮮でも中国でもなく、韓国の行動だとみています。すなわち、韓国が独自核武装に向かう場合、あるいは米国の核兵器の再配備を受け入れるなどのケースです。

私は現時点では、核武装が抑止力を高める最適なオプションだとは考えていないし、米政府がそうした案に容易に同意するとも思えない。しかし、韓国がそうした方向に動いた場合は、「われわれにも核がほしい」と考える日本の政治家や国民感情を論理的・戦略的に説得するのは難しいように思える。だから私はいつも米国の友人たちに、「韓国に何かを認めたときには、日本にも影響を及ぼす。北東アジアの潜在的な核拡散の可能性に対処するためには、拡大抑止に対する米国の強力なコミットメントが不可欠だ」と伝えています。

マクマスター将軍は、北東アジアにおける米国の核態勢についてはどうお考えでしょうか。

マクマスター:米国はどんな規模の核兵器でも、それがグローバルに投射が可能であれば、配備・展開されている場所はさほど重要ではありません。とくに戦略ミサイル原子力潜水艦は、敵の侵攻にも迅速に対応しうる能力を備えていますから。米国はいつどのような状況にも対応できるし、拡大抑止と2国間の安全保障上の取り決めの義務を果たします。

ウクライナ戦争からの教訓

村野:それでは、通常戦力の前方展開態勢についてはどうでしょうか。先ほど、米国の地上発射型トマホークやLRHWの話題に触れましたが、海兵隊も地上発射型ミサイルの取得を試みています。先の日米の「2プラス2」では在沖海兵隊の態勢を再編することに合意しましたが、これはEABO(遠征前進基地作戦)と呼ばれる海兵隊の新たな作戦構想に基づいて島嶼防衛能力を強化することに狙いがありますね。

マクマスター:インド太平洋地域だけでなく、世界的に前方展開態勢を強化すべきです。われわれはいま、欧州における抑止の失敗を目の当たりにしていますが、ロシアにおける一連の攻勢のあとも、米国は欧州の前方展開戦力を後退させ続けています。

欧州では第二次世界大戦以降、最大の地上戦が行なわれましたが、プーチンの侵略はいまに始まったことではない。2007年のエストニアに対する大規模サイバー攻撃や、2008年のジョージア侵攻などがその始まりです。そんなプーチンの行動にわれわれはどう対応したかといえば、軍を縮小させ続けてきました。この傾向は2014年のクリミア侵攻以降も続きましたが、そこで始めたのが、より小規模な部隊を欧州にローテーション展開する方式です。恒久的に駐留する優れた統合部隊と司令部の組み合わせは、上手く機能することが証明されてきました。少なくとも8年間は大国間の紛争を防いできましたから、このモデルを続けるべきです。

同時にわれわれは、同盟国自身に対してもみずからの能力を強化する必要があると訴え続けてきました。自国の安全を気にするすべての国は、この度の日本のように責任のある一歩を踏み出し、自国の防衛能力への投資をもっと増やさなければなりません。

米国はいま、十分な規模の武器や弾薬を製造できるよう、国防イノベーション基盤や産業基盤を強化しています。日本や自衛隊が米国の防衛請負業者とのあいだで多くの未履行契約を抱えている点は私も知るところで、日本がすでに購入した防衛能力を可能なかぎり速やかに提供できるよう努めなければなりません。

村野:いまのご指摘は、広義の兵站や継戦能力にも関係する話ですね。現在、ウクライナ軍がロシアの侵攻に対処し続けている事実からも、継戦能力と兵站の維持がきわめて重要であることは明白です。しかし、陸上ベースの欧州の安全保障環境と、海空ベースのインド太平洋地域の安全保障環境では兵站の難しさも異なります。

ウクライナではいま、多くの物資がポーランドや比較的安全な西部を経由して運ばれていることで、補給線が機能しています。しかし、仮に台湾をめぐる危機が生じた場合、中国による心理的恫喝や物理的妨害により補給線が脅かされる可能性が高い。つまり台湾有事を想定する場合には、外部からの兵站維持もさることながら、事前集積や事前生産体制がより重要になります。

マクマスター:私がいま思うのは、われわれは産業規模や国家安全保障イノベーションの基盤に関して、これまでリスクをとりすぎてきたということです。効率性を優先して国防予算を削減したあまり、使える在庫がなくなってしまったのですから。たとえば、米国はウクライナに防衛装備品の提供を拡大していますが、もともと対戦車ミサイル・ジャベリンの製造は発注から納入までに7年かかります。現在は生産を拡張していますからそれほどの時間はかかりませんが、いずれにせよ、生産体制の拡充はより広い分野で行なわれるべきです。

ウクライナの状況からは、現代の戦争では規模やキャパシティもかなり要求されることがわかります。何よりも重要なのは、戦闘能力を維持するための兵站です。効率を追求しすぎて戦争に負ければ、何の意味もない。何が本当の意味で効率的かを定義すべきです。ある程度の部隊を前方に展開し、そこに物資や弾薬を事前に集積することで解決できる問題はあります。しかしそれでもやはり、かなりの輸送能力が必要となる。ですから、日本が今回の国家防衛戦略で、自衛隊が海上・航空輸送能力により多くの投資を行なうとしていることは、兵力展開においてとても重要です。

日米は互いの防衛力を補完し合え

村野:2017NSSや2018NDSの時点で、米国はリソースが限られていることに鑑みて、中国・ロシアとの2正面同時対処は不可能であることを前提とした戦略に舵を切りました。他方で、グローバルに統合された安全保障環境では、弾薬不足の問題は地域横断的な影響を生みだします。

弾薬や燃料の備蓄量は、継戦能力に直結することからきわめて機密性の高い情報で、たとえ同盟国であっても互いの備蓄量を共有しないというのが一般的です。しかしリソース制約下において、効率的な防衛力を構築して統合作戦を実施するためには、もはやそんなことは言っていられないように思います。日米のような同盟国間で、弾薬や燃料の備蓄量に関する情報を共有するスキームをつくることは可能でしょうか。

マクマスター:もちろん、やるべきです。備蓄に関する情報を機密レベルで共有することは、きわめて重要でしょう。日米両国がともに取り組むべき課題がどこにあるのかを知ることにもつながるはずです。

何よりも重要なことは、日米が互いの防衛力を補完し合うという考え方です。能力開発は互いにやるべきことが多すぎますから、別々に取り組んでいては事業が重複することもあるでしょう。ですから、われわれは互いを補完し合い、組み合わせて使える能力を開発するにはどうすべきかを考えるべきなのです。

村野:おっしゃるとおりです。中国と台湾のリスクにどう備えるべきか、最後にお聞かせいただけますか。

マクマスター:やはり重要なことは、多様な能力を開発するにあたり、手遅れにならないようにすることでしょう。この点に関して、われわれはきわめて高い危機感をもつべきです。日本と米国が陥りうるリスクは大きく2つあり、1つは時間が足りなくなることで、もう1つは十分なリソースを投入できなくなることです。古い格言に、「時間があってもリソースがない。リソースがあっても危機が迫っていて必要な能力を開発している時間がない」というものがあります。

われわれはすでに後れをとっていることを自覚しなくてはなりません。そのうえで、日米は中国や北朝鮮を抑止し、北東アジアの平和を防衛できるよう、必要な能力を開発するために協力し合うことが肝心なのです。

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ハーバート・マクマスター (元米国大統領補佐官)
ハーバート・マクマスター (元米国大統領補佐官)
1962年生まれ。84年に陸軍士官学校を卒業し、34年間の陸軍勤務を経て2018年に中将で退役。トランプ大統領時代の17年2月から18年4月、第26代の国家安全保障担当大統領補佐官を務めた。現在、米ハドソン研究所のジャパン・チェアなどを務める。主な著書に『戦場としての世界 自由世界を守るための闘い』(日本経済新聞出版)など。
村野 将 (米ハドソン研究所研究員<Japan chair fellow>)
村野 将 (米ハドソン研究所研究員<Japan Chair Fellow>)
拓殖大学国際協力学研究科安全保障専攻博士前期課程修了。岡崎研究所や官公庁で戦略情報分析・政策立案業務に従事したのち、2019年より現職。マクマスター元国家安全保障担当大統領補佐官らとともに、日米防衛協力に関する政策研究プロジェクトを担当。専門は日米の安全保障政策、核・ミサイル防衛政策、抑止論など。

掲載号Voiceのご紹介

2023年3月号 特集1:国防の責任

  • 兼原信克 / 戦略的思考に目覚めた日本
  • ハーバート・マクマスター & 村野将 / 世界が見習うべき「責任ある一歩」
  • 千々和泰明 / 安保三文書を徹底解剖する
  • 兵頭二十八 / 戦争の基本構造は昔と変わらない
  • 細川昌彦 / 「青写真なき防衛産業」がアキレス腱
  • 清水真人 / 「防衛増税」が吹かせる解散風
  • 熊谷徹 / なぜドイツは「大転換」したのか
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