核兵器新時代に備える日米の戦略(後半部)

アンドリュー・クレピネビッチ(米ハドソン研究所上席研究員)&村野 将(米ハドソン研究所研究員<Japan Chair Fellow>)

本対談は2022年3月30日に収録されました。

『Voice』2022年6月号掲載の「米国のジレンマと『核三極体制』リスク」は本稿より抜粋・編集しています。

核の「三極体制」に移行しつつある

村野:リソース不足と核の要素は非常に重要な論点です。我々はリソース制約下において、通常戦力の不足をどのように補うのかという問題に直面しています。これはバイデン政権が統合的抑止という概念を導入した理由の一つでもあり、そこには核戦力と通常戦力をいかに統合するか、という要素も含まれます。バイデン政権においても、主要な核戦力の近代化プログラムには予算的な手当がなされていますが、他方でそれをどのように活用するかという点も考えなければなりません。米国の通常戦力優位は、インド太平洋地域で中国を相手にする際には既に失われつつあります。となれば、失われた通常戦力優位を核戦力の役割を拡大することで補わざるを得ないかもしれない。しかし、バイデン大統領の考えはその逆で、安全保障における核の役割低減を追求し続けています。大国間競争の時代、リソース制約下における核兵器の役割をどのようにお考えでしょうか。

クレピネビッチ:米国の軍事コミュニティには「敵に一票」という言葉があります。敵の行動というのは、我々が抑止力を維持するため、あるいは抑止が失敗した場合の防衛策を考えるのに何をすべきかを後押ししてくれる、という意味です。2021年夏、中国がICBM用のサイロを300箇所も建設していることが明らかになり、核弾頭数についても向こう10年で数百発から1,000発以上に拡大しようとしているとの推計も出されています。これは、中国が他の軍事分野と同様に、核の分野でも米国と同等かそれ以上になることを目指していることを示唆しています。今後数十年で中国を主要な軍事大国にする、という習近平主席の決意を考えると、中国が核弾頭を1,000発保有することで満足するとは考えにくい。

DF-41は最大10発の核弾頭を搭載しうるICBMだという評価もあります(村野注:実際には弾頭をどれだけ軽量化できるかによって、搭載数は変化するとみられる)。もし中国が建設中のサイロ300箇所全てにDF-41を配備する場合、米国を攻撃しうる3,000発の核弾頭に直面する可能性だってあるわけです。現在、米露は軍備管理条約である新STARTに基づいて、戦略核弾頭の配備数は1,550発に制限されています。しかも、先の推計には中国の核搭載可能な航空機は含まれていません。中国の核の運搬手段にはサイロ式ICBMだけでなく、移動式ミサイルもあり、潜水艦も建造中です。これらを踏まえれば、我々が核兵器の比重を減らすのは難しいでしょう。

私が気にしているのは、中国語で言うところの「抑止」という概念の意味合いが、我々が考えるところの抑止とは異なることです。中国語で言う「抑止」には、単に相手を思いとどまらせるというだけでなく、他国を威圧するための強制力としての意味合いを含んでいるのです。つまり、我々が中国に対する核戦略を考えるときには、日本などの主要な同盟国と約束している拡大抑止をどう強化するか、という点についても考えなければならない。

今我々は、米露という核の二極体制から、米露中という核の三極体制に移行しつつあります。米露の二極体制では、核の競争関係を安定させるためにパリティ(均衡)が必要でした。米露はそれぞれがほぼ同数の核兵器を保有するとともに、どちらかが核攻撃を受けても確実な第二撃能力(確証破壊能力)を持つことで、結果的に全面核戦争に至る可能性を低下させることができました。

しかし、これが三極体制に移行すると、各国がそれぞれの国に対して同時にパリティを追求することは不可能になります。もし各国が同じ数の核兵器を持っていたとしても、そのうち2つの国が協調してしまえば、残りの1国が一方的に不利な状態に置かれてしまうからです。そうなれば、三極体制の下では軍拡競争が始まるか、抑止上のリスクが高まるという状況が生じてしまいます。

もう一つ心配しなければならないのがインドです。中国が1,000発の核弾頭を保有し、さらにその数を増やそうとするとき、インドがそれを黙って見ているでしょうか。インドは軍拡に向けた多くの努力を行なっているように見えます。このように、中国による核戦力の増強は、より広範囲に不安定な状況を生み出すことになります。我々が直面している状況は、核兵器が最初に誕生したときと同じではありません。我々は新たな時代に入りつつあり、中国を中心にますます不安定な核をめぐる環境が生じつつある中で、優れた戦略家たちが持続的な知的努力をしなければならなくなっているのです。

村野:大変興味深いですね。まさに私が最近取り組んでいる研究の一つが、米中の相互脆弱性が拡大抑止にどのような影響を与えるかという問題で、最近ある報告を書き終えたところです。この際にぜひ伺いたいのですが、米国が中国との間で相互脆弱性を認めた場合には、どのような懸念が生じるでしょうか。

クレピネビッチ:実は私も同じ問題について論文を書いていて、『フォーリン・アフェアーズ』にちょうど掲載されるところです。もし米国が中国との間で相互脆弱性を認めることになれば、1950年代にソ連が核を増強して、脆弱性が生じたときと似たような状況が生じるかもしれません。少なくとも当時のフランスの一部には、米国がソ連の核攻撃に対して脆弱になったことを受けて、独自の核戦力を持つ必要があるという思いが出てきました。これは日本のように米国の「核の傘」に依存している国にとっては興味深い問題です。

他方で、冷戦期におけるソ連の核軍拡がもたらした帰結の一つとして、米国では核という切り札が容易に使えなくなったことで、通常戦力への依存を強化する必要性が生まれたことも指摘しておくべきでしょう。興味深いことに、アイゼンハワー大統領は1950年代の状況を見て、米国は「核能力の優位性を失いつつある」と述べるとともに、米国経済と同盟国の経済をソ連よりも強くする必要があると述べています。なぜなら、通常戦力を維持・強化し、競争相手に対して優位を築くには、強力な経済基盤と技術基盤が必要だからです。つまり長期的視点で見れば、日米の経済基盤がどれだけ強力でいられるか、というのが問題の一部になるでしょう。そうした基盤があってこそ、強力な通常戦力を開発・維持することができ、核戦力だけでなく通常戦力を含んだ抑止力を維持することができるからです。

第一列島線をどう防衛するか

村野:ではここからは、日米の戦略的連携をどのように更新・強化していくかという点を伺っていきたいと思います。2010年にオバマ政権が発表した「4年ごとの国防見直し(2010QDR)」において、海空軍を主体とした「統合エアシーバトル」という新たな作戦構想が注目を集めました。あれから10年以上の間、米軍の統合作戦構想は軍種間や同盟国との協議などを経て、更新を繰り返してきましたが、現在の国防省における統合作戦構想の開発状況をどうご覧になっていますか。

クレピネビッチ:統合作戦構想は極めて必要とされているものですが、遅れているのが現状です。これはヒックス国防副長官と私が2018年の国防戦略委員会に携わっていたときから懸念していたことです。エアシーバトル以来、米軍の統合作戦構想は何度も名称が変更されてきましたが、私の見立てでは効果的なアプローチを打ち出せていません。問題の一つは、構想が想定する脅威と解決すべき問題を定義していないことです。つまり、同盟国やパートナー国を含む第一列島線を防衛するにはどうすればいいのか。統合作戦構想ではこれを明らかにしてほしい、というのが私の考えです。

我々が今直面している問題は、9.11後の20年間にやってきた対叛乱作戦や対テロ作戦とは全く異なる問題で、サダム・フセインや金正日とも違います。それに欧州に焦点を合わせていた冷戦期とも異なります。今はインド太平洋なのです。こうした点を踏まえれば、かつてと同様の装備や各軍の役割が今日にも通用するとは考えられません。

難しいのは、変化があまりにも大きいため、その新たな変化と課題にどう対応するかによって、軍種間に顕著な勝者と敗者を生み出してしまうということです。各軍が抵抗しているのはこの点で、彼らは誰も敗者になりたくないのです。例えば、私が同僚と考案した「列島線防衛」という構想は、地上発射型の長距離ミサイルを重視するなど、米陸軍に従来とはかなり異なる役割を要求しています。これは、陸軍内にも勝者と敗者が生まれるということで、日本の陸上自衛隊内でも同じようなことが起きています。

これらが統合作戦構想の開発を遅れさせている要因であり、その遅れが結果的に我々に不利に働いています。先ほど国防投資の不足について議論しましたが、非効率かつ非効果的な投資を行なっている場合には、この問題がさらに深刻になります。自分たちが何をしようとしているのかさえ、わかっていないということだからです。米国には「プログラム・モメンタム」という言葉がありますが、異なる性質の問題に直面しているにもかかわらず、これまでと変わらないものを作り続けてしまっていることもある。これは非常に大きな問題です。エアシーバトル構想は結局行き詰まってしまいました。ただ、その後も問題解決のための努力は続けられており、その観点から我々が考案したのが、先の列島線防衛構想です。

とても興味深いことに、私の列島線防衛についての論文が『フォーリン・アフェアーズ』に掲載された2週間後に、陸自の西部方面総監部に招待されました。これまで長い間、日本人は米国人の考えに追いつこうとしているように見えましたが、そこで私は米国人こそ日本人の考えに追いつかなければならないと気づいたのです。それ以来、日本政府や自衛隊の友人たちとは適切な問いかけをし続けてきています。第一列島線なら、誰がどのエリアに責任を持つのか。どのように互いを支援すれば良いのか。他にどの国の支援が必要なのか。中国が第一列島線を超えて、第二列島線沿いに基地を作るのをどう防ぐのか、といった論点があります。

日本は、フィリピンやベトナムなどの地理的な価値を有する重要な国々と非常によく協力してきました。インドも東南アジアとの関係構築という点では非常に優れています。豪州も同様です。ある日本の友人に言われたことですが、「米国人もゲームに参加して、一緒にやるべきことを始める必要がある」のです。これは米国にとって非常に大きな課題と言えるでしょう。

自衛官と話すと、「米国がどのように防衛するつもりなのかが分かれば、我々がどのような能力を開発する必要があるのかを議論することができる」と言われます。どのように守るのか、そしてどのような能力が必要なのか。これらは全て取り組むべき課題です。どのように守るのかという作戦構想を先に定義しなければ、非常に貴重なリソースが無駄になり、非効率かつ非効果的な投資が続いてしまい、インド太平洋地域で平和と繁栄を拡大するという目標を達成することもできなくなってしまいます。

村野:全く同感です。日本では、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の改訂作業が進められており、その中でどのような長距離打撃能力を持つべきかが大きな論点となっています。そうした意見の中には、既に導入が決まっている航空機搭載型の巡航ミサイルの射程を伸ばしていくという方法もありますが、中国との有事を考えると、沖縄を含む南西正面の航空基地の多くは緒戦で相当の攻撃を受け、一時的に使えなくなることを覚悟しなければなりません。この点、私は航空機に頼らない長距離打撃能力、すなわち地上発射型の中距離弾道ミサイルを北海道の演習場などに分散配備することが重要だと考えています。先ほどの列島線防衛構想にも関わりますが、インド太平洋地域における日米の戦略や戦力構成を見直す上で何を優先すべきでしょうか。また、今の日米同盟に欠けているものとは何なのでしょう。何らかの能力、戦力の規模、統合作戦構想、協議メカニズム、組織制度改革、技術やイノベーションの活用といったさまざまな論点があると思いますが。

クレピネビッチ:第一に、現在の米軍の態勢は全体的に遠征型になっており、有事にはハワイや米国本土から多くの部隊を西太平洋地域に持ってくる必要があります。このような遠征型の態勢は、前方展開型の態勢にシフトさせる必要があります。これは前方を基盤にするという意味ではなく、前方展開するローテーション部隊を増やすという意味です。これは一夜にして実現できるものではありませんが、非常に重要なことです。例えば、フィリピンではこのようなローテーション展開が今後数年でできるようになるかもしれない心強い兆候があります。また、米国本土の西海岸からわざわざ戦力を持って来なくてもいいように、豪州にもっと戦力を配備する必要があります。ベトナムとの協力を発展させることも必要です。南シナ海における中国の能力を封じ込めるという意味で、ベトナムは非常に重要な国になる可能性があります。

第二に、我々は動員訓練を実施する必要があります。日本には自衛隊がありますが、重要なのはそれを実際に動員するという観点です。かつて冷戦期には「REFORGER」という演習が実施されたことがあります。これは「ドイツに戦力を戻す(Return of Forces to Germany)」の略で、緊急時の部隊の前方展開能力を確認するためのものでした。我々は同様の演習を通じて、日本、韓国、フィリピン、豪州などこの地域の同盟国を支援するための能力を確認する必要があります。台湾は同盟国ではありませんが、我々には防衛義務があります。

中国と動員競争になった場合、彼らに圧倒的なリードを許してしまうかもしれません。実際、冷戦期のソ連にも同様の状況が見られました。そこで我々は兵員を展開するのではなく、まず前方に装備だけを配備しておき、必要の際には兵員だけを移動させれば済むようにしたのです。その結果、動員競争におけるソ連の優位は失われ、我々は抑止力を向上させることができました。

日本の打撃力の価値

クレピネビッチ:では、今日どのような態勢が必要なのか。そこで我々は責任を決める必要があります。日本の友人からは「北部は我々がやる」と言われたことがあります。北部とはいわゆる「南西の壁」を構成する琉球の島々のことを指します。地球儀を俯瞰して西太平洋地域を見たとき、北部に当たる南西諸島を日本がカバーし、南部を米国と豪州がカバーするという構想です。これはまだ構想中の計画であり、今後詳細を詰めていく必要があります。

抑止力についてはどうするか。もし中国が南西の壁を攻撃すれば、日本人だけでなく米国人も殺されるリスクがあります。そうなれば、米国が戦争に関与する可能性が高まり、より大きなリスクになる。そのとき我々はどのように戦い、守るのか。そこであなたが指摘された日本の打撃力にどのような価値があるのか、という問いに行き着きます。

私は、日本の長距離打撃能力には価値があると考えています。第一に、それは日本の総理大臣に一つの追加的な選択肢を提供することになります。冒頭で述べたように、戦争になったら総理がどのような状況に直面するかは予測することはできないわけで、選択肢を複数持っていることは重要です。第二は、抑止力の向上です。中国が日本国内にある標的を破壊しうるリスクをもたらしているのと同様に、日本も中国に対して「我々も同様のことができますよ。あなたたちは何らリスクを負うことなく、一方的に我々を攻撃することはできないのですよ」と言うことで、抑止力を高めることができます。第三は、日本の地理的特性と射程の問題があります。日本は非常に長い列島線を有しています。長距離打撃能力は、中国本土を脅かすことにも使えますが、南西の島嶼部の守りを強化するための火力としても使うことができます。つまり、ミサイルや火砲に十分な射程があれば、部隊を本州に置いたとしても、そこから沖縄を含む南西諸島に侵攻してくる敵部隊を攻撃できるようになるということです。

航空基地の脆弱性に対処するにはいくつかの方法があるでしょう。航空機をより多くの基地に分散させ、敵にとっての標的を増やすのか。攻撃を受けても生き残れるように航空機を地下に退避させるなど、基地の抗堪性を高めるのか。あるいは、航空基地に依存する必要のない移動式ミサイルを重視して、より効果的に秘匿できるような態勢にするのか。これらのうちどこまでが米国の責任で、どこまでが日本の責任なのか。そうした能力は米国に完全に依存するのか、それとも日本が自らそうした運用が可能な態勢を持つのか。こういったことは、極めて初期の段階で考えておく必要があります。

最後に日米に必要なものとして挙げたいのが、統合された指揮統制組織です。他の同盟国との関係と同様に、我々にはどのような区分けであっても米軍と自衛隊とを一体的に指揮するための統合司令部が必要です。

繰り返しになりますが、我々には望むだけのリソースはありません。それなのに、我々に共通のアプローチがなければ、リソースを浪費してしまい、それは最終的には我々の安全保障や攻撃を抑止する能力をリスクに晒してしまうことになります。

現在ウクライナで起きているような、戦争が拡大する影響についても指摘しておきます。もし中国との紛争が起きたらどうなるか。もちろん、我々には中国を侵略するつもりはありませんし、中国も米国を侵略するつもりはないでしょう。それでも、それぞれの側に戦う意志と手段があるかぎり、両者は戦い続けることができる。そこで長期戦になった場合、我々が徐々に優位に立てるようにするには何が必要なのかを考える必要があります。中国が日本を封鎖し、食糧やエネルギー供給を制限しようとしてきたら、どうやってその封鎖を打ち破るのか。我々が中国に対して封鎖を仕掛けるのか。その場合、どのような制裁を行うのかなどです。この戦争では、どれだけ苦汁を飲むか、飲ませられるかという能力が決定的な要素になるかもしれません。これは米国人や日本人が自らの安全を守るために、どれだけの犠牲を払う意志があるのかという問題でもあるのです。我々が直面している問題は無数にあり、それらの解決に取り組むのが早ければ早いほど、我々はより安全に暮らせるようになるはずです。

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アンドリュー・クレピネビッチ(米ハドソン研究所上席研究員)
アンドリュー・クレピネビッチ (米ハドソン研究所上席研究員)
米国防総省においてアンドリュー・マーシャル局長率いる総合評価局(Office of Net Assessments)や3人の国防長官の個人スタッフを務めたほか、戦略予算評価センター初代所長としてさまざまな戦略・作戦構想の立案に携わってきた経験をもつ。
村野 将 (米ハドソン研究所研究員<Japan chair fellow>)
村野 将 (米ハドソン研究所研究員<Japan Chair Fellow>)
拓殖大学国際協力学研究科安全保障専攻博士前期課程修了。岡崎研究所や官公庁で戦略情報分析・政策立案業務に従事したのち、2019年より現職。マクマスター元国家安全保障担当大統領補佐官らとともに、日米防衛協力に関する政策研究プロジェクトを担当。専門は日米の安全保障政策、核・ミサイル防衛政策、抑止論など。