【報告書】日本の抑止力とアジアの安定を考える
近年日本をとりまく安全保障環境は質的な変化を遂げています。中国の軍事力増強により東アジアの軍事バランスは次第に中国に有利なものとなっており、台湾有事への懸念が現実味をもって語られるようになりました。サイバー、宇宙、電磁波といった新領域の脅威への対応も必要になっています。
従来とは次元を異にする安全保障環境において平和と安定を維持する上で何よりも優先すべきは、体系的に抑止力を見直し、再構築することではないでしょうか。にもかかわらず、抑止力をはじめとする日本の防衛に関するこれまでの議論は個別論に終始している感があります。
今日の戦略環境において安定した抑止を形成するには、日本自身のミサイル拒否力や新領域における積極防御能力の保有、戦略的コミュニケーションや軍備管理などを包括的に組み合わせることが不可決です。日本の専守防衛のあり方や日米間の「盾と矛」の役割分担について再定義が求められる面もあり、国民的な理解や支持の下でバランスの取れた戦略を展開していく必要があります。
こうした問題意識から、政策シンクタンクPHP総研では、岩間陽子政策研究大学院大学教授・PHP総研客員研究員を座長に、第一級の専門家にご参加いただいて「日本の抑止力とアジアの安定」研究会を組織し、日本のこれからの抑止力のあり方について体系的に検討してまいりました。本提言報告書はその成果をまとめたものです。
折しも2021年に就任した岸田文雄首相は、所信表明演説において、国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画を見直す意向を表明しました。あらゆる選択肢を検討する方針も示しており、抑止力をめぐる本格的な議論が始まるものと思われます。この重要な時機に際し、本報告書が、日本の抑止力の本質的、包括的な検討に寄与することを願ってやみません。
>>2021年9月に開催した公開シンポジウムの概要、および河野克俊第五代統合幕僚長の基調講演録はこちら
【PHP「日本の抑止力とアジアの安定」研究会メンバー】
- 岩間 陽子
- /政策研究大学院大学教授・PHP総研客員研究員
- 小原 凡司
- /笹川平和財団上席研究員
- 小泉 悠
- /東京大学先端科学技術研究センター特任助教
- 長島 純
- /防衛大学校総合安全保障研究科非常勤講師
- 村野 将
- /米ハドソン研究所研究員<Japan Chair Fellow>
【内容】
<目次>
第一部 日本を取り巻く脅威
北朝鮮のセオリー・オブ・ビクトリーを支える核・ミサイル能力の向上
ー村野将
中国の能力増強と日本への脅威
ー小原凡司
ロシアの「新型戦争論」、戦争の最初期段階(IPW)論、エスカレーション抑止と日本の安全保障
ー小泉悠
新領域(宇宙・サイバー・電磁波)における脅威との戦い
ー長島純
第二部 日本の抑止力とアジアの安定を考える
日本の「抑止力」とアジアの安定
ー岩間陽子・村野将
アジアの安定のための対話を目指して:欧州の経験から学べること
ー岩間陽子
Thinking about Deterrence for Japan and Stability in Asia
ーIwama Yoko & Murano Masashi