防災が当たり前の世の中をつくりたい
写真提供/防災ガール
3、世界中で人気のゲームを活用した「次世代版避難訓練」
――防災ガールでは、講演活動やメディアを通した情報発信、防災グッズの企画・開発のほか、「次世代版避難訓練」も手掛けられていますね。どんなところが「次世代」なんですか?
田中:避難訓練って、小学校のときから学校で“やらされる”し、社会人の皆さんも会社で年に1回はやっていると思うのですが、「避難訓練なんて面倒くさい、行きたくない」っていう人が多いと思うんです。そういう世代を惹きつけて、積極的に楽しく避難訓練に参加してもらうために考案したのが「次世代版避難訓練」なんです。
誰もがふだんから使っているもので、かつ遊園地に行くような感覚で、避難訓練ができるもの。テクノロジーを活用したり、参加したくなるような世界観をつくることが大事だと思っていて、行きついたのが、「Ingress(イングレス)」というスマートフォンの位置情報ゲームを活用した避難訓練です。
IngressはGoogleの社内スタートアップとしてスタートしたNiantic Labs(ナイアンティックラボ)が出している人気ゲームで、世界中で青チームと緑チームに分かれて陣地を取り合うもの。次世代版避難訓練にもこのゲームの世界観を取り入れて、「この世界の住人は2つのチームに分かれています。どちらのチームが早く避難できるかが、この世界では需要な事項になっています」という設定にしたり、目的地である避難場所を「ポータル」と呼んだり。
「ポータル」はチェックポイントのようなものなのですが、次世代版避難訓練では、このポータルに避難場や帰宅支援ステーションを指定して、「どういう場所が避難場所に指定されやすいのか」「緊急時に水をもらえる場所はどういったところか」といったことを、ゲームをしながら学べるようにしています。
また、旅行先で被災すると、土地鑑がないので、避難所がどこにあるかなんてわかりませんよね。だから、この避難訓練で私たちが伝えたいことは、「避難のパターンを知る」ということ。避難所になるのは、だいたい公共の施設など、地域の人が多く集まる場所。そういうパターンを知っていれば、初めて訪れる土地で被災しても、パターンに沿って避難場所を探しやすくなります。
「帰宅支援ステーション」はたいていコンビニやカラオケ店、居酒屋が指定されやすくて、それはこのシールを見たらわかりますよ、とか。広域避難場所と呼ばれるものは、たいてい大学や学校の校庭、公園ですよ、とか。
そういう知識を身につけた人が一人でも増えたら、災害が起こっても、自分が間違った方向に避難するリスクを回避できるだけじゃなくて、ほかの人たちを安全な場所に誘導できるんじゃないかなと考えています。
――「次世代版避難訓練」のお話を伺っていいなと思ったのは、まちの中を歩くことで、いろんなルートを見られることです。避難経路を意識しながら実際に自分の足で歩くことで、「この道は狭いな」とか、「ここは崖沿いだから、土砂災害を警戒して、違うルートを通ったほうがいいな」という感覚が出てくるんだろうな、と。都市開発とか、まちづくりにもつながりそうですね。
田中:そう願っています。この訓練では、最後にフィードバックをするようにしています。ワークショップのようなかたちで、「このまちのどういう場所が危険だと感じたか」「では、どこに、どのように避難すればよかったか」ということを参加者同士で話し合いながら、レポートにまとめるんです。そうして出てきた情報は、行政の方にきちんとお伝えする。行政がその情報をどう生かすかというところは、私たちには手を出せない部分ですし、担当者の熱意次第ということになってしまいますが、そこまでやるから意味があると思っています。