子どもたちのために大人が力を合わせられる社会を

NPO法人 ブリッジフォースマイル 代表理事 林恵子

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――林さんは昨年4月から旦那様のお仕事の都合でシンガポールにお住まいということですが、オフィスは東京、代表は海外という状態で、組織としてはうまく回っていますか?

:回っていますね。実は私たちにとっても大きなチャレンジだったんです。一年前は、本当にどうなることかとびくびくしていたし、みんな不安だったと思います。

 というのも、団体を立ち上げて以来、「こういうものがあったらいいのに」ということを私が語り、仲間たちがそれを実現してくれるという感じでずっとやってきたので、どちらかというとワンマンなイメージがあったんですよね。だけど、10年経っても続いていく組織になっていくためには、どこかで方向を変えなければいけないという思いも同時に持っていました。

 さらに、私の家庭の事情もありました。ちょっとブリッジフォースマイルの活動に力を入れ過ぎたところがあるなと思っていて。そうしなければここまで来れていなかったと思うので、後悔はしていないんですけど、やっぱり家庭の時間はすごく削ってきていた。

 中学生の娘と息子がいるんですが、一緒にいる時間が少なかったので、せっかく家族そろってご飯を食べていても、あんまり会話が盛り上がらない。コミュニケーションがうまくとれないな、という危機感をもつようになっていたところで夫の海外転勤が決まったので、「これはチャンスだ」と。海外に行くと、家族の絆が強くなるって言うじゃないですか(笑)。

 そんな組織の事情と家庭の事情がちょうどいい具合に重なったタイミングだったので、「これは乗らないと」と思ったんです。

――なるほど(笑)。NPOでは現場に貼りついている代表の方が多いイメージがありますが、遠隔でうまくいっている秘訣はなんでしょう?

:いまの体制をつくるために、約1年かけて準備をしました。夫は先に赴任していたんですが、ちょうど次男が小学校を卒業するタイミングだったので、卒業を待ってから行こうということになって、少し時間があったんです。

 その間に、どういう仕組みにしたら組織も混乱せずに活動を継続できるか、協賛してくださっているコンサルティング会社の力も借りながら、「誰が決定するのか」「どんな会議で検討するのか」といった組織のマネジメントについて準備を整えました。

 それでもやっぱり最初は不安だったんですが、ふだんはメールでやり取りできるし、全体ミーティングや理事会、執行部会にはスカイプで参加していました。そうすればだいたい様子はわかるし、方向性に迷いが生じているなと思ったら、私が意見を言うこともできる。一方で私はすぐには駆けつけられないので、現場で判断しなければいけないことも増えました。その結果、残されたメンバーの責任感とか当事者意識、「自分がやらなくちゃ」という士気といったものは、格段に上がりましたね。そういう状況ではあんまり口を出し過ぎても現場のみんなは嫌がるだろうし、私が海外にいることで、ちょうどいい距離感ができたように思います。「私が全部決めなくちゃ」「代表の私がこう思っているんだから」というワンマンがきかなくなるという状況に私自身も追い込まれたことで、自分自身もセーブできるようになりました。全部見てしまうと全部口を挟みたくなってしまうけれど、見えなくなったことで、適度に任せることができるようになって、報告だけ定期的に上げてもらうようにしたんです。

 いま、私がシンガポールに引っ越して9か月が経ったんですが(12月22日取材当時)、振り返ってみると、「すごくいい1年だったね」という感じです。

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