発達障害を理由に可能性を狭めたくない

株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太

概念図
出典:国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター

発達障害とはなにか
 
 日本でも認知が着実に広がり始めている発達障害だが、一体どのようなものだろうか。
 
「簡単に言うと、いわゆる空気が読めない、注意・関心が偏ってしまう、自分を上手に制御できない、ミスが多い、といったいくつかの特徴がある、先天的な脳機能の障害です。脳機能の“障害”と言うべきなのかわからないんですが、脳の機能に偏りがあって、ほかの人には容易にできることがなかなかできなかったりする。だから、先天的な発達の“偏り”と言ったほうがいいかもしれません」
 
 発達に偏りがあるため、できることとできないことの差が出やすく、IQの数値が項目によって極端に凸凹しているのが特徴だ。
 
「勉強はふつうにできるんだけど、人の気持ちを読み取るのが苦手とか。仕事もある程度まではできるんだけど、抜けや漏れやミスが多くて、全面的に任せることはできないとか。そういう人たちが多いですね」
 
 日本では人口の5%前後が該当すると考えられているが、発達障害を持つ人々の数が近年増えていると感じている人もいるかもしれない。それは、日本の社会で、より高度で複雑な能力が求められる場面が多くなったことが関係しているという。
 
「空気を読むとか、同時並行で作業を行うとか、既存のもの同士を組み合わせて新しいものを創り出すとか、そういった技能がここ数十年の間に先進国で求められるようになったものだと思うんです。その結果、そうしたことが苦手な人が目立ち始めたんだと思います」
 
 発達障害の一種である自閉症は、40年前には2,500人にひとりと言われていたが、現在では88人にひとりと言われるようになった。だがこれは、自閉症の人が増加したのではなく、診断基準の変化や、自閉症という概念が広まったことによって、診断される人が増えてきているためだと考えられている。
 
「たとえば、発達障害の一種であるADHD(注意欠陥多動性障害)に関しては、アメリカだと11%の子どもが診断を受けているような、もはや非常にメジャーなものなんです。日本でもADHDの行動の特徴を持つ子どもは6~7%と言われています。ですが、日本でADHDと診断される人が、アメリカだと診断されない場合もあると思います。日本のほうが“空気を読む”ということの基準が高いから」
 
 本人か周囲が適応できていないと感じなければ、そもそも発達障害の診察を受けることもないが、適応・不適応は所属する社会や組織といった環境に大きく左右される。たとえば、決められた作業を淡々とこなしていく工場労働ならば、空気が読めなくても仕事に直接問題はない。定められた通りにきっちりと行うことが要求される作業ならば、むしろ得意な場合もある。だが、周囲との調和を重んじる日本は、他国と比べて発達障害を持つ人が不適応になりやすい環境であると言われている。

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