“事業”が向き合う社会課題の現在と未来
2.人と人、人と企業が頼り合う、二つの共助できる社会が作りたい
亀井 社会的事業に関する政治の動きについて、よくわかりました。次に、社会的事業に実際に取り組むお二人に具体的なお話を伺います。まず、こうださんはAsMamaという事業を進めていますが、その内容について教えてください。
こうだ 私たちは、誰もが、育児も、仕事も、やりたいことを思いどおりに叶えられる社会をつくろうという理念を持ち、人と企業、人と人が頼り合う、二つの共助ができる環境づくりに取り組んでいます。
まず、頼り合うためには出会う場が必要です。一般の市民が、知恵・知識を持った企業と会う機会はありません。全国で85%、都会では90%が核家族の現状では、隣近所と会える機会もほとんどありません。このため、「会う」機会を全国で1,500回以上、開催しています。
ただ会うというだけでは、瞬間で終わってしまうので、会った人たちがインターネットの仕組みを使って繋がり続けることで、子供の送迎や託児を頼り合う仕組み「子育てシェア」を無償で全国にインフラとして広がるように普及活動を行っています。子育てシェアを幅広く伝える交流イベントでは、このような頼り合いに理解が深く、サポートできる企業を積極的に紹介し、企業との接点も増やしています。
国内外のシェアリング産業では初めて、私たちは、頼る側、頼られる側の個人からは一切お金を取っていません。生活スタイルの多様化が進む中で、どちらかが気兼ねすることがないよう、お礼は1時間500円というルールにしましょうというルールだけ設定し、加えて、万が一の事故の時のための保険にも入って、皆さんに無償で使って頂いています。これは、グーグルがメールや地図サービスを無償で世界中に広げているのと同じで、個人が頼り合うことで豊かになるのが私たちのポリシーですので、そこからお金を取りません。
それでは、事業として存続できませんが、私たちは、この頼り合いのネットワークへのアクセスに対して、お金を取っています。全国の活動家600人が日々子育てシェアや企業のことを伝える対象者数は、延べで年間500万世帯を超えてきています。顔が見えていて、きちんとそうした情報遡及活動を全国でやっている団体は他にはおそらくありません。
例えば、企業からすれば、マス・マーケティングでテレビCMや新聞・雑誌広告で消費者に情報を伝えていましたが、それでは、伝えたい人に本当に伝わっているか、定かではありません。全体でなく、特定のニーズがある層に伝えたい情報があるといったニーズは大きいのです。そうした企業のPR、マーケティング、集客等をお手伝いするのは、私たちの事業の一つです。
また、子育てシェアを集合住宅の中で使ってもらうことで、そこに住む方々が当たり前に育児も仕事もやりたいことも叶えられる環境をつくることもできます。企業の福利厚生として、ご近所での頼り合いを気兼ねなくできるようにすることで、社員が時短ではなくて、フルタイムで働けるようになる、ちょっとした残業や歓送迎会ぐらいは行けるようになる、そうした思いを叶えたいと思う企業の代表の方と一緒に具体策を提供するのも一つのやり方です。そうした具体的な価値を企業に提供することで、企業からお金を頂いて、事業運営を継続させているのです。
亀井 なるほど。こうださんの目指しているところとビジネスモデルがよくわかりました。保険まで導入されているのは手厚くて、それで使い勝手が高まったのだと思いますが、ここまでの道のりはたいへんなものだったと思います。それだけのご苦労をしてきた、頑張ってきたこうださんの思いの源泉は何だったのでしょうか。
こうだ 実は、私自身が子育てに困ったからではないのです。子供がいて、育休復帰の経験もありますが、それよりも、ある日突然、自分が勤めていた会社から、自分を含む9割の従業員が解雇される事態に遭遇したのが一つのきっかけでした。その後、職業訓練校に行き、少しでもスキルアップして次のキャリアへと思っていましたが、そこで見たのが、育児や介護という自分のライフステージで助けてくれる人がいないばかりに、これまで積み上げてきた学歴や職歴を捨てて新たなキャリアを築かなければいけない人たちがたくさんいるのを目の当たりにしたことなのです。テレビや新聞では、人口減少で労働力をどう確保するかが話されているのに、ここには、それができない人がたくさんいました。
何かおかしい、身近に助けてくれる人さえいればどうにかなるのにと考え、調べてみると「世の中の役に立ちたい、誰かの役に立ちたい」という人たちはたくさんいます。国民生活白書では90%の人たちが社会貢献したいと答えています。
誰かの役に立ちたいと考えている人、支援してほしいという人、その間に何か、ブラックボックスがあるのではないかと考えるようになりました。
これを解決できれば、世の中の課題解決につながるし、そういったソリューションを提供できれば、これはビジネスとしても必ず大きなチャンスだというふうに考えました。
最初は、行政の窓口に行き、行政がやるべきだと提案してみましたが、担当課をたらいまわしにされるばかりで、相手にされません。友人のビジネスマンに話せば、「これっていつにお金になるの」とか、「バス、電車に乗るような低賃金で頼り合える、そういうインフラをつくりたい」と言えば、「マネタイズしない」と返され、興味を持たれませんでした。
誰かにお願いしよう、誰かがやってくれるのを待つよりも、同じ思いを持つ人たちを日本中から集めて、自分たちでやったほうが早いと思うに至ったのです。ただ、それだけでは、実際の事業には辿り着きません。自分が考えることと現実のギャップに悩む日々が続きました。そんな時、NPO法人ETIC.の社会起業塾に参加し、そこで「1000人アンケート」に取り組むことになりました。何百人と声を聞いているうちに、自分が考えてきたのと同じことを感じている人、悩んでいる人が確かにいると実感できるようになってきたのです。
保育園が閉まるギリギリの時間に滑り込んでくるお母さんがいました。最初は相手にもされませんでしたが、「私も同じような状況で、保育園のお迎えが最後の1人で残している子供に早く帰らせてあげなければいけない、ご飯食べさせてあげなければいけないと思いながらも気ばかり焦り、家に帰ってから先生に一言『ありがとうございました』と言えばよかったなと後悔したことがありました」という自分の経験を話すと、急にぽろぽろ泣き出して・・・。
その一方、保育園や幼稚園の先生経験者が、近所の子供たちの面倒を見ている場面に出会いました。「大好きな子どもとかかわっているだけで、お母さんたちに『ありがとうございます』と言われると、癒されるんですよ」と言われるんです。
たくさんの声を聞くうちに、世間には、助けてあげたいと思う人と、助けてほしいと思う人たちは、こんなにいるのだと実感できるようになりました。そこまで見えてくると、たしかに難しいマッチングかもしれないけれども、絶対にニーズはあると確信に変わり、使命感となり、今日に至る、みたいな感じでしょうか。