5年の歳月が生んだ新しい課題【2】

永久寿夫(政策シンクタンクPHP総研代表)×熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

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3.ビジョンをつくれる人材の育成が復興の鍵

永久:東北はインバウンドツーリズムは盛んなんですか?

熊谷:まだまだですね。被災地の復興ツーリズムでインバウンド誘致を実現しようという声もあるんですが、震災遺構を残すことに抵抗のある人もいて、ほとんどが撤去されました。津波被害から回復しつつある姿を見ることはできても、当時の被災地で実際になにが起きて、どんな状態になったのかということを視覚的に体感できるものは、もうほとんど残されていないんです。なので、復興ツーリズムを唱える人たちは、一体なにを見せてなにを感じてもらおうとしているのか、そこがいちばん気に掛かるところです。

永久:震災博物館のようなものをつくる予定はないんですか?

熊谷:復興ミュージアムの構想はありますが、まだ形になってはいないと思います。

永久:ヨーロッパへ行くと、どこへ行っても博物館があって、アウシュビッツをはじめ、それが悲惨なものであったとしても、当時に近いかたちで残されていますよね。ベルリンも壁の一部が残してあって、そのすぐ傍に博物館がある。
 そうしたものの存在は、悲惨な経験をした人々にとっては辛い記憶を思い出させるきっかけとなることも事実ですが、教訓を得るという意味で、歴史的には非常に重要なものですよね。経験した痛みを忘れず、それを教訓にするということをしないと次の発展にはつながらなくて、また同じ過ちを繰り返すことになる。被災地に防潮堤や高台をつくって、津波被害にあった地帯にまた住宅を建てるということにもつながる話だと思いますけど。

熊谷:大槌町では、津波で壊された役場を残すかどうかで、いまだに論争が続いています。新しい町長が一旦は取り壊すと言ったんですが、反対運動が起きて、結局まだ結論が出ていない。陸前高田をはじめ多くがかさ上げ工事のために役場を取り壊してしまいましたから、シンボリックな存在を残すという意味で、大槌町役場にしかない価値があります。
 いまの流れでは残す方向にはならないと思うんですが、原爆ドームのように残して、見てもらうということも大事だと思います。やっぱり実物を目にしたからこそ感じることもあると思うので。だから、私個人としては、役場を残して、国内外の方にツアーなどで見てもらって、そんな状況からここまで立ち上がってきたんですよという姿を見てもらうことが大事だと思っています。

永久:こうした災害がいつまた起きるかわからないから、我々としても常に心掛けておかなければならないというシンボルにもなりますしね。
 そういう状況ひとつとっても、ビジョンをつくるのが苦手なんだなと感じます。いろんな意見や現実を積み上げた結果としてビジョンのようなものをつくるけれど、それはビジョンではなくて集約でしかない。「できることからやっていく」というのは、とても大事なことである一方で、その結果ビジョンなき町の再建になってしまうというリスクもあるんですよね。できることをやりながら、トータルのビジョンというものを見つけていかないといけないんだろうと思います。

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