5年の歳月が生んだ新しい課題【1】
熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)
4.「元に戻す」よりも革新的な地域づくりを
永久:ハード面の復旧をして、いざソフト面も含めた復興のフェーズに入ったら、状況が大きく変わっていて、首を傾げざるを得ないということですね。
日本全体にも言えることですが、被災地は新しい発想で地域づくりをしなければいけない状況で、震災はある意味新しいものをつくるきっかけでもあったのに、それを生かし切れずに逃がしつつあるんじゃないかと私は危惧しているんです。
復興庁がどれだけのビジョンをもって東北地域を復興しようとしているのか調べてみても、明確なビジョンはないんですよね。復興庁は調整の窓口でしかなくて、全体のビジョンをもてるようなところではない。その結果「元に戻す」ことだけに一生懸命になってしまったようなところがありますが、新しい国や地域のかたちをつくるということは、外側ががんばってどうにかなるものではなくて、いま必要とされているのは、地域の内側から、自発的に盛り上がっていくような雰囲気づくりだと思うんです。
「東北」とまとめて一括りにするのでもなく、それぞれの地域が考えるべきだと思うんですけど、そのためには権限やお金を集める力をそこに移譲しなければならない。そういったことが、これからはもっともっと必要になるんじゃないかと思っています。
熊谷:それは一番本質的なところだと思います。本来、その役割は県に期待するところが大きくて、市を名乗っていても、本来は市にもなれないような人口規模の自治体であったり、新しい展望で新しい取り組みを進められるような人材がいる地域と、そうではなく古き良き町を守り続けていくことに価値を見出している地域とでは状況が違っていて、だからこそそこに県の存在意義があったんだと思うんですけど、震災を通して、地元と県との距離が遠く感じることが多くなりました。
県はたしかに人もお金も出してくれているし、施策も手厚く打ってくれているんですけど、復興に緩急というか、優先順位をつけるということはなかなか難しい。たとえば、岩手県内に重要港湾が4つあるんですが、人口や産業規模で見れば、ひとつあれば十分なんです。だけど、いろんな経緯でいまだに4つある。そうすると結局、ひとつに絞れば十分な資源配分ができたものが、4つに散ってしまうことになります。これまでは国からお金が出てなんとかやれてきましたが、これから先、4つの港の復興を並列に進めるのは無理です。こういうとき、どの港に重点を置いてやるのか決めるのが県の役割だと思うんですが、それが地元任せになってしまっていて、優先順位がつけられていないんです。
永久:政治的には難しい判断で、一か所やると、ここも、あそこも、ということになる。お金があれば全部できるんですが、お金もない。お金がないから優先順位をつけられるかと言えば、それもできずに国から予算を持って来ることになって、借金がどんどん増えてしまうという構図ですね。
でも、この構図を繰り返していても仕方がないので、どこかでこの構図を壊して、日本の地域の先端モデルをつくっていかなければならないのではないでしょうか。国に頼ったいままでのやり方ではなく、かといって県やそれぞれの地域に権限を委譲して任せるのも、状況としてはいささか厳しいものがある。
実際に復興の優先順位をつけるとなったら、相当政治的な摩擦が起きることは、想像にかたくない。といったときに、ヒントはNPOや企業のCSR活動、あるいはボランティア活動にあるのではないかという気がしています。
震災の後、さまざまなかたちで東北のために動く人々がいましたよね。ああした活動をもっと世界的な規模にして、地域を盛り上げていく仕組みをつくる。そうすると、それぞれがいい緊張感をもって競走しながら、やわらかい自然淘汰が起こって、新しいまちづくりや地域づくりのモデルになるんじゃないかと考えています。
熊谷:たとえば、RCFの藤沢烈さんがやっているようなビジネスイノベーションフォーラムとか、NPO同士が連携して東北に新しい産業を興そうというような取り組みは、いろんなところで広がっていて、そこにはたくさんのチャンスがあると思うんですね。
それと並行して地域力の底上げというか、生活レベルの底上げを両立する仕組みをつくらなければいけなくて、民間ベースでつくり出せると理想的ですが、津波の被害が大きかった地域は、なかなか民間だけでは難しいだろうなというのが、率直なところです。
これまでとは違う流通経路で販路開拓をしているメーカーで、うまくいっているところもあるんですけど、それは地域を絞って差別化しているからうまくいっているのであって、面にして広げようとすると、差別化ができなくなる。というところで、いまうまくいっているモデルの次の成功モデルをどうつくり出すかに、みなさん苦労しているような気がします。
(第二回へ続く)