問われるのは環境変化に合った社会づくり

松谷明彦(政策研究大学院大学名誉教授)×荒田英知(PHP総研主席研究員)

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4.2020年五輪開催の功罪は
 
 
荒田 東京のそういう将来がおおよそ見通せているという中で、2020年の五輪開催が決まったということの功罪についてはどんなふうにお考えですか。
 
松谷 私は決まる前から絶対やるべきではないといい続けていて、決まった時には「最近の一番暗い話は、オリンピックが東京に来ることです」と講演でもたびたび触れました(笑)。後先も考えずによくそんなことをするなという感覚です。
 オリンピックだけであれば、致命的なインフラの増加とまでは言えません。しかし、オリンピックをきっかけにした、民間のビル建設ラッシュが始まりました。この“連れ子”が問題なのです。公共インフラであれ、民間インフラであれ、資源、特に日本経済の投資能力を食うことに変わりはありません。オリンピックをやるのなら、その分民間ビル建設を規制すべきでしょう。効率的で安全な街をつくるためには、ストックをどうコントロールしていくかが大事です。
 ヨーロッパの都市では、適正なストック量を考えて高さ制限をしたり、効率性と安全性を調和させて、サステナビリティーをどう高めるか、苦労してノウハウを積み重ねてきました。残念ながら、日本にはその発想が全くなく、やりたい放題です。それどころか、役所は容積率を割り増しして煽っている。五輪開催が決まって、民間が動き出した時に、役所がやるべきは、機先を制してコントロールすることでした。
 
荒田 住宅についても劣化が進むものと思われます。著書では、住居難民化する高齢者のために、耐用年数200年の公共賃貸住宅を国が整備して、安い家賃で高齢者に提供せよと提案しています。
 
松谷 これは、そうしないと本当に難民が発生するからです。インフラの劣化とは別の、街としての劣化です。
 
荒田 それが理想的な策なのかも知れないですが、一方で全国的に空き家問題があって、東京の空き家率は10%ぐらいで低い方ですが、それでも絶対数は相当あります。この空き家を放置しておくとスラム化につながるので、活用する方法はないものでしょうか。
 
松谷 無理だと思います。空き家はなぜ空き家になっているかというと、そこに人が住めないからです。人々の行動様式の変化から、その地域はアクセスが悪い地域になった、そのため流通・飲食施設も撤退したということで空き家になっているわけです。空き家の活用は、時計の針を元に戻そうとするようなものでしょうね。
 かといって、地下鉄・バス等のアクセスを確保し、再開発して、その地域を活用するほど東京の経済は拡大しないし、人口も増加しない。公園・緑地といった活用が適切だと思います。
 
荒田 じつに明快ですね(笑)。もう一つ、既存の公共施設のリノベーション(再利用)が全国的なテーマになっていますが、たとえば、公共施設の中で総床面積の半分くらいを占める学校施設などを公共住宅に転用するなどということは考えられませんか。
 
松谷 小学校を住宅にはリノベーションできないでしょう。公民館やオフィスにするというなら、多少は可能性があると思いますが。耐震性や耐久性からいっても、既存の公共施設はせいぜい30年しか持ちません。高齢者に安価に提供するためには、少なくとも200年ぐらいもつ住宅が必要です。それにはリノベーションでは無理で、最初から建てるしかないです。
 

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