地政学的要衝研究会
南西諸島の戦略的価値と米中対立

ゲスト報告者:住田 和明(第2代陸上総隊司令官、元陸将)

本稿は『Voice』2021年12月号に掲載されたものです。

地政学的要衝研究会」は、日本の対外政策や日本企業のグローバル戦略の前提となる情勢判断の質を向上し、平和と繁栄を考えるうえで不可欠の知的社会基盤を形成することをめざして、鹿島平和研究所と政策シンクタンクPHP総研が共同で組織した研究会です。第一級のゲスト報告者による発表をもとに、軍事や地理をはじめとする多角的な観点から主要な地政学的要衝に関する事例研究を行ない、その成果を広く社会に公表していきます。

なぜいま「地政学」なのか?

「揺るぎない事実を私たちに示してくれる地理は、世界情勢を知るうえで必要不可欠である。山脈や河川、天然資源といった地理的要素が、そこに住む人々や文化、ひいては国家の動向を左右するのだ。地理は、すべての知識の出発点である。政治経済から軍事まで、あらゆる事象を空間的に捉えることで、その本質に迫ることができる……」

優れた国際ジャーナリストでオバマ政権時代に国防政策委員会のメンバーも務めたロバート・D・カプランは、2014年に著した名著『地政学の逆襲』(朝日新聞出版)でこう述べた。進化するテクノロジーにより、人・物・金の国境を越えた移動が激しさを増し、情報が瞬時に世界中を駆け巡り、あたかも地図や地理の概念が意味をもたなくなってしまったかのように思われたグローバリズムのトレンドが色濃いなかで、カプランは地理の重要性を訴えた。

2021年の世界では、米中対立を中心とする大国間競争が本格化するなか、インド太平洋や南シナ海、一帯一路の交易路の確保といった地理的概念がメディアを賑わせている。カプランの指摘した地理の重要性に対する認識や、いわゆる「地政学」への関心が高まっている。しかし多くの場合、その内容は、地図を使った歴史解説や政治リスクの言い換えにとどまっている。なかには古典的な地政学を援用した興味深い国際情勢分析もあるものの、地理がもつ意味合いは政治環境や技術的条件などとの相互作用で大きく変化する。歴史的な観点を踏まえながら、今日的な条件のなかで、国際政治を左右する地政学上の要衝について具体的に検討していくことが必要だろう。

関連する戦後日本特有の事情として、政治においても経営においても、軍事面での素養を欠きがちである現実にも目を向けるべきだ。日本と海外の指導者の間には、地理と不即不離の関係にある軍事的教養について大きなギャップがあり、そのことは政治と経営とを問わず日本の指導者が国際情勢を理解する際の盲点となっているのではないだろうか。

こうした問題意識から、鹿島平和研究所と政策シンクタンクPHP総研は、地理的観点と軍事的観点に重きをおいて、国際政治上のホットスポット、とりわけ日本にとって死活的に重要だと思われる地政学的要衝を取り上げ、背景となる戦略的構図とともに分析し、日本にとってのリスクや課題を浮き彫りにすべく、「地政学的要衝研究会」をスタートさせた。

本研究会では、第一級の専門家による報告に基づいて主要な地政学的要衝に関する事例研究を行ない、社会に広く還元して日本の対外政策や日本企業のグローバル戦略のもとになる情勢判断の質を向上させ、平和と繁栄を考えるうえで不可欠な知的社会基盤を形成する一助としていければと考えている。

本企画を通じて研究成果を報告させていただく予定だが、事例研究の第1回目は、陸上総隊司令官などを歴任した住田和明元陸将の報告をもとに、我々の足元である南西諸島をめぐる地政学的現実に目を向けてみたい。これから取り上げていく事例の多くと同様、特定の地理的環境のなかで、米中両大国が当事国(この場合日本)を巻き込んでせめぎあう構図をこの地域でも明確に読み取ることができる。

「太平洋の要石(キーストーン)」と呼ばれた沖縄

「南西諸島」と呼ばれる地域は大きく分けて薩南諸島、琉球諸島(沖縄諸島、先島諸島)、大東諸島という三つの地域で成り立っている。沖縄は南西諸島のちょうど中間に位置し、九州南部からは約600km、台湾までも約600km離れており、約1,080kmの海域が広がっている。最西端の与那国島と台湾は約111kmしか離れておらず非常に近接しており、さらに南西諸島全域が東シナ海を挟んで中国大陸と対峙している【図1】。

では、南西諸島や沖縄は、米国にとってはどのような戦略的価値があるのだろうか?

じつは、太平洋戦争後、米国が日本を占領下に置いた初期の段階では、軍事的な真空状態にあった日本の前進基地という位置づけはあったものの、米軍が沖縄に対していまほど大きな戦略的な価値を見出していたわけではなかった。

それが中華人民共和国の成立(1949年)や朝鮮戦争(1950~53年)といった冷戦期国際情勢の変化を受けて、戦略的要衝としての重要性が増していった。米国からみれば、沖縄は米本土からは十分離れているうえ、朝鮮半島や台湾海峡といった潜在的な紛争発生地域に迅速に部隊派遣が可能な距離にある。沖縄はすなわち、米軍からみれば、極東の潜在的な紛争地に”近いが近すぎない”絶好の位置にあるということになり、しばしば「太平洋の要石(キーストーン)」と呼ばれてきた。南西諸島に卓越した軍事的プレゼンスを維持することは、米国のこの地域における抑止力と戦略的自由度の基盤をなしてきたが、近年の中国の急速な軍事力増強と拡張的行動により、こうした地政学的状況は一変した。

中国が宮古海峡の確保を狙う理由

一方で中国側からは、南西諸島はどのようにみえるのだろうか?

青島、寧波、旅順といった中国の主要な港から太平洋をめざそうとすると、いきなり長い壁のように立ちはだかっているのが南西諸島である【図2】。中国から太平洋に出るには、台湾海峡を下り、バシー海峡を通過するルートや日本海から津軽海峡を通るルートもあるが、最短かつ最も干渉を受けずに出られるルートは、沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡である。

中国人民解放軍は、台湾有事などにおいて主に米軍の介入を阻止するため、接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略をとっているとされる。中国は自国の防衛ラインとして第一列島線、第二列島線を設定し、第一列島線の内側への米軍の接近を阻止し、第二列島線と第一列島線の中間海域における米軍の作戦行動を拒否する態勢の構築をめざしている。

この中国の軍事戦略のなかで、南西諸島や宮古海峡の重要性は、南西諸島周辺の海底の地形や水深を示した地図をみれば一目瞭然だ。

日本が主張する排他的経済水域(EEZ)の境界線に当たる日中中間線より日本側に沖縄トラフが広がっている【図3】。この沖縄トラフの西側や北側、すなわち中国側は海底の浅い海である。黄海、東シナ海の沖縄トラフの手前までの海域は、水深が50~100mくらいしかない。

一方、中国側から日中中間線を越えて沖縄トラフに入ると、海底は険しくなり水深も深くなる。さらにそこから南西諸島を抜けると、より水深が深くなっているのがわかる。この海底の状況は、軍事的な観点でいえば、潜水艦の活動に大きな影響を与える。

南西諸島よりも南側に行けば一気に水深が深くなり、西太平洋への潜水艦の行動が容易になる。宮古海峡は、中国海軍が西太平洋に向けて展開するうえで出入口に当たる海域なのである。中国が、第一列島線と第二列島線の間の海域における米軍の自由な活動を拒否しようとすれば、この海域で潜水艦を自由に行動させることが必要だ。そのためには必然的にこの海域に行くための南西諸島地域の”チョークポイント”である宮古海峡の確保が不可欠になるというわけである。

中国は、日中中間線や沖縄トラフより南側の海域まで中国の大陸棚だと主張。この主張の正当性を確立するためにも、尖閣諸島周辺のこの海域での活動を常態化させ、少しずつ現状変更を積み重ね、さらなる拡大を追求している。

しかしこうした中国の活動の目的は、島の領有権問題に加え、太平洋への出入口である南西諸島や宮古海峡を確保することだと考えるべきだろう。

米国と中国という二大国が太平洋を挟んで睨み合う時代にあって、南西諸島は、その対立の最前線に置かれることが地理的に宿命づけられているといっていい。

米軍における南西諸島の戦略的位置づけの変化

中国がこのような軍事戦略に基づき着々と軍備増強を進めるなか、米軍にとっての南西諸島の戦略的位置づけも変化している。これまでは”近いが近すぎない”位置にあるとみられてきた沖縄が、いまや”近すぎる”存在になってきたのである。

中国のもつ弾道ミサイルの射程範囲を中国の沿岸部を中心に円でマーキングしてみると、DF-21Dという射程約1,500kmの対艦弾道ミサイルが南西諸島を含む第一列島線内をすっぽりとカバーしている。またDF-26Bという中距離弾道ミサイルは射程約4,000kmに及ぶことから、グアムも射程圏内に収めている。弾道ミサイルという科学技術の進展が、海という自然の障壁を越えて、第一列島線から第二列島線の間の全海域に脅威を与えている。

こうした中国のミサイル能力は、米国にとっての沖縄や南西諸島の位置づけを変えている。以前米軍は、グアムのアンダーセン空軍基地にB-52などの戦略爆撃機を常時配備して戦略的能力を前方に置いていた。しかし2018年にはこの方針を転換し、戦略爆撃機の部隊をグアムから1万km以上離れた米本土のマイノット空軍基地(ノースダコタ州)、エルスワース空軍基地(サウスダコタ州)やバークスデール空軍基地(ルイジアナ州)まで後退させた。

もちろん、戦略的能力が必要な事態になれば、米本土からグアムまで展開させるわけだが、当然、距離的、時間的な制約が生じることになる。また、沖縄に駐留する米空軍部隊も、有事の際には中国の中距離ミサイルや対艦ミサイルの被害を受けないところまで一度後退してから再度立て直して展開する作戦に変わった。

こうした米軍の部隊配置からも明らかなとおり、我が国の南西諸島は、東アジアの潜在的な紛争発生地域に「近すぎる」ことから従前に比し部隊の防護を考慮する必要が生じており、有事の際には、中国の中距離弾道ミサイルによる攻撃などを考慮しつつ、米本土、グアムやハワイから戦力を展開する際の最前線の拠点として機能する地域なのである。

しかし、このような認識のなかにあっても、米軍が海兵隊の部隊をいまも沖縄に駐留させていることは、軍事的には大きなプレゼンスだといえる。沖縄県うるま市キャンプ・コートニーに本部を置く第三海兵遠征軍は、海兵隊のなかで唯一海外に前方展開している部隊であり、有事の際にも沖縄にとどまり、自衛隊と島嶼防衛を分担することになると思われる。

脅かされる日本のシーレーン

我が国にとって南西諸島地域は、国防や安全保障の観点にとどまらない死活的な重要性を有している。日本は全貿易量の99%以上を海上輸送に依存している。物資だけでなく原油や液化天然ガス(LNG)といったエネルギー資源の海上輸送交通路、いわゆるシーレーンは日本にとって国家の生命線である。そして、日本にとって最大のシーレーンである南西航路は、マラッカ海峡やバシー海峡を通過して南西諸島のすぐ東側を同諸島に沿って北上して日本の太平洋沿岸に至る【図4】。このシーレーンを安定的に利用するには、南西諸島地域一帯の安定が不可欠であることがおわかりいただけるだろう。

しかしこの地域で不穏な動きが常態化していることは、すでに日本の報道等でも明らかなとおりだ。2012年以降、同諸島周辺海域で中国海警局に所属する船舶等が日本の領海への侵入や接続水域での活動を常態化させている。とくに最近では船の大型化が進み、中国の公船は1年を通じてこの海域にとどまり、プレゼンスを示すようになっている。

また、近年の日本の航空自衛隊によるスクランブル(緊急発進)の状況をみても、中国機に対するものが、ロシア機に対するものを上回っている。ただし、2020年度の航空自衛隊によるスクランブルの回数をみると、中国軍機に対するスクランブルの回数が2019年度と比べて200回以上も減少していた。中国は同年、台湾周辺での飛行回数を同程度増やしていることから、中国軍が台湾正面での活動を活発化させたために、南西諸島周辺に振り向ける航空戦力が不足したのだと推定される。

日本の南西防衛と今後の危機シナリオ

いうまでもなく、この地域において我が国は、軍事面でも米中対立に対して受け身の存在ではなく、当事者そのものである。日本は2016年以降、新たに陸自及び空自部隊を配備するとともに、各自衛隊による警戒・監視態勢を強化している。現在石垣島においても、陸上自衛隊の警備隊、高射特科部隊や地対艦ミサイル部隊を置くために駐屯地の造成が進められている。この陸海空の部隊の戦力の集中をいかにスムーズに行なうかが作戦のカギである。

とはいえ、この地域の戦力をすべて合わせても1万人に満たない部隊がいるだけであり、有事の際には、ここにさらに陸海空それぞれ追加の戦力を投入する必要がある。しかもその際に米軍とどのように共同作戦を進めるのかなど、今後さらに米国との間で調整しなければならない部分が多く残されている。南西地域の防衛の取り組みはいまだに緒についたばかりといえるだろう。

では今後、南西諸島地域でどのような事態が想定されるのだろうか? 南西諸島有事で最も可能性が高いのは台湾有事波及シナリオである。台湾からほど近い南西諸島は台湾有事に際して局外ではいられない。他方で、偶発的衝突などを契機に、南西諸島が単独で脅かされる可能性もある。米中対峙の最前線である南西諸島はさまざまなかたちで危機に巻き込まれる可能性があり、複数のシナリオへの備えが必要であろう。

まず懸念されるのは、中国が人民解放軍の活動をさらに活発かつ大胆に展開してくることだ。現在中国海軍の艦艇は日中漁業協定も考慮してか北緯27度線を越えて尖閣に近づくことは控えているが、将来ここを越えて南に進出してくる可能性は十分にある。また、中国の空母遼寧はすでに宮古海峡を越えて活動しており、今後は艦隊規模で太平洋に進出し、実弾射撃や実戦的な演習を活発化させることも予想される。

中国はまた、平時における非軍事的な活動も活発化させてくる可能性がある。たとえば、今年一月に制定した海警法に基づいて日本漁船の取り締まりを強化し、法執行の正当性をアピールすると同時に、この海域での活動の既成事実化を進めてくるだろう。

最近中国は、尖閣諸島魚釣島の詳細な地図を公表した。次のステップとして島の資源管理や生態環境の保護を目的に島に上陸してくる可能性もある。あるいはそうした目的のための監視機材の設置や、調査員の一定期間の常駐、そのための警備要員の配置などの動きに出ることも考えられる。さらにこのような目的で上陸しようとする不法侵入者を、海上保安庁が取り締まろうとすることに対し、中国側が海警法で取り締まるなどの事態も想定される。

ハイブリッド化する南西諸島の戦略空間

こうした物理的な危機が生じる前に、もしくは同時進行的に、情報をめぐる「戦争」や世論戦や心理戦を含む認知領域における「戦争」が展開される可能性もある。

中国人民解放軍はこれまでも、物理的な戦闘以前に敵の軍事情報システムを攻撃するため、陸・海・空・宇宙・サイバー・電磁波の戦場で主導権を握ることを重視してきたが、最近では「認知領域」も戦場として認識している。敵のセンサーやデータを操作・破壊することで敵の思考をコントロールすることを新たな領域の戦争と捉えている。

中国が、前述したような尖閣諸島への上陸を企てる際には、フェイクニュースの拡散などを通じて南西諸島の住民に対する世論戦、心理戦が展開され、いわゆるハイブリッド化された戦争を仕掛けてくることが予想される。南西諸島に関するあらゆる情報やサイバー空間を飛び交うデータが、地政学的状況に影響を与える重要な要素になるとすれば、日本としても看過することはできない。

自衛隊はこれまで南西諸島に警戒監視のための部隊配備を進めてきたが、軍事情報の収集にとどまらず、日本として、民間の漁船やネット上の監視カメラのデータ、SNSの情報などさまざまな情報アセットを活用し、この地域で何が起きているのかをリアルタイムで把握できる体制の構築が必要になるだろう。

狭義の軍事情報の面では、とりわけ南西諸島では上空からの情報収集能力の強化が課題だとされている。偵察衛星や無人機による情報収集体制の強化に加え、無人機が収集する情報をビッグデータに落とし込み、それをAI(人工知能)に解析させるなど、状況把握向上に努める必要がある。

さらに、南西諸島地域では、データ通信のためのインフラも不十分である。現在国際通信の99%を占めるのは海底ケーブルである。

南西諸島周辺海域を通過している海底ケーブルはきわめて多いが、沖縄以南の海底ケーブルの敷設状況は非常に脆弱であり、この海底ケーブルが切断されるなどの障害が発生すれば、この地域の生活に支障が出るだけでなく、日本のアジア地域向け国際通信や自衛隊の作戦にも障害となる危険がある。

沖縄本島には、グアムから沖縄、九州、仁川をつなぐ海底ケーブルが通じているが、沖縄本島でさえ冗長性のない海底ケーブルの構成になっている。台湾有事を想定すれば、沖縄と台湾を海底ケーブルでつなぐといったことも、安全保障の観点から国家として取り組むべき課題であろう。

南シナ海と東シナ海の地政学的連動

中国は東シナ海から南シナ海まで軍事活動を活発に展開させ、10年前とは比較にならないほど戦略的な縦深性を深めている。中国の脅威の増大を警戒することは必要だが、一方で、脆弱性が拡大していることにも注目すべきである。中国にとって、南シナ海と東シナ海の二正面での軍事的な対応は容易ではないはずだ。

米国もそうした認識のもとで兵力を分散させ、中国の対応を複雑にさせることを検討している。南西諸島を含む東シナ海だけではなく、当面のより緊迫している南シナ海と東シナ海を一体的に捉える地政学的思考が必要なのである。

東シナ海域における中国の行動を抑止する観点から、米軍が沖縄にいることは大きな効果があると考えられる。加えて陸海空の自衛隊も南西諸島地域へのプレゼンスを強化していることから、軍事的な抑止の観点からは、南シナ海よりも東シナ海のほうが戦力的なバランスを維持できているとみることも可能だ。

しかし、米国は東シナ海のことだけを考えているわけではない。中国との潜在的な闘争のエリアが拡大していることで、米国の考えが変わり、沖縄の米軍を動かすようなことがあれば、現在のバランスが崩れ、抑止の構造が不安定化するリスクもある。

日本の現在の防衛能力からすれば、東シナ海と同様に南シナ海まで関与するのは困難だ。両海域が地政学的に連動しているという観点から、南シナ海は米軍中心に、東シナ海は海上自衛隊が主体的に活動するといった役割分担を決め、この地域の防衛は日本が主体的に取り組むことを考えるべきだろう。

また、台湾有事を含めた南西方面の防衛体制はいまだ着手したばかりであり、日米で台湾有事を想定した役割や任務の分担を明確にし、必要な体制の構築を進めることも急務であろう。

南西諸島経路に依存しない資源・食料確保を

南西諸島は、米中対立の最前線に置かれることが地理的に宿命づけられており、不安定化のリスクを抱えている。急速な技術変化や紛争のハイブリッド化も、南西諸島をめぐる地政学的状況を複雑なものにしている。

不安定化の直接の要因が軍事、安全保障にある以上、日本にとって情報や認知の次元を含む対応により、領土・領海の防衛に万全を期すことが必要であることは多言を要すまい。加えて、先にも触れたように日本はこの地域を経由するシーレーンや海底ケーブルに資源、食料、国際通信等を依存しており、国家の存続を左右する生命線が我々の考える以上に脆弱であるとの認識が必要であろう。今後とも軍事的な対応を通じて安定化が維持されるのであれば問題はないが、それを前提とするのは楽観にすぎる。

日本は、自らの生存に不可欠な食料、燃料、医薬品や医療用品、あるいは国際通信などについて、南西諸島周辺を経由することなく一定程度確保することを考えるべきときではないか。

代替ルートにしても自給力向上にしても追加費用を要するものであるが、本稿で分析してきた南西諸島の地政学的な現実を直視するならば、費用と便益のバランスについて従来と異なる新たな視点で評価し直す必要があるだろう。

※無断転載禁止

住田和明(第二代陸上総隊司令官・元陸将)
ゲスト報告者
住田 和明(第2代陸上総隊司令官・元陸将)

地政学的要衝研究会メンバー

大澤 淳
(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員、鹿島平和研究所理事)

折木 良一
(第3代統合幕僚長)

金子 将史
(PHP総研代表・研究主幹)

菅原 出
(グローバルリスク・アドバイザリー代表、PHP総研特任フェロー)

髙見澤 將林
(東京大学公共政策大学院客員教授、元国家安全保障局次長)

平泉 信之
(鹿島平和研究所会長)

掲載号Voiceのご紹介

2021年12月号 総力特集「どうなる!岸田新内閣」

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  • 清水 真人 / 平成の政治改革と「昭和の古層」
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