【提言報告書】
2050年の国際秩序と日本の座標軸
― パワー構造安定化と「国際公共世界」強化の担い手として―

米中の戦略的競争の常態化、人々の行動と意識を変容させたコロナパンデミックの流行、ロシアによるウクライナ侵攻、中東におけるガザ紛争の勃発とイスラエル-イランの緊張への拡大と、近年「歴史の転換」を感じさせる出来事が相次いでいます。第二期トランプ政権が第一期以上に取引主義的で自国中心主義的な対外政策を大胆に採用し、関税など保護主義政策を実行に移すことになれば、国際秩序や世界経済にさらなる不確実性がもたらされることは確実でしょう。

当面の状況に対応することはもちろん重要です。しかし、日本が歴史的転換期を乗り切り、将来にわたって国際的な影響力を維持・向上するには、それだけでは十分ではありません。パワー分布の長期的な趨勢や国際秩序の複数のシナリオを見越した上で、日本の対外戦略を方向づけすることが不可欠です。

PHP「2050年のパワー構造と日本の対外戦略」研究会は、こうした問題意識に立ち、ある程度具体的な見通しが可能で、アジアの主要国が独立100年などの節目の年を迎える「2050年の世界」におけるパワー構造と国際秩序の変化を考察し、日本の対外戦略や世界で果たしていくべき役割を検討しました。本提言報告書はその成果をまとめたものです。

提言報告書は分析篇と提言篇から構成されています。分析篇では、まず近代国際秩序の強さをその成り立ちとその変質ともに解き明かし、次いで「大収斂」を経た世界の力の変化と拘束条件をふまえて、2050年国際秩序のシナリオや領域ごとの見通しを示していきます。そして、2050年の国際秩序において実現されるべき目標を明確にした上で、大国間秩序を補完する「国際公共世界」の強化を提唱します。「国際公共世界」は共存の原則を基礎として、力関係と合議・合意によって様々な規則や制度を設け、発展させるものであり、その中核的担い手として日本を含む自由民主中堅国家を想定しています。

続く提言篇では、分析篇における考察をふまえて、2050年の世界において日本がパワー構造安定化の一翼を担いながら、共通の原則や人間の尊厳が守られる国際公共世界強化を通じて建設的な影響力を発揮する具体的な方途を提示しました。

世界が不確実性を増す今だからこそ、日本がこれからどのような考え方に立脚するのか、諸条件の中で望ましい未来をいかにして実現していくのか、立ち止まって熟思する必要があるのではないでしょうか。本提言報告書が、これからの国際秩序を展望し、日本の戦略目標と戦略構想について自由闊達で真摯な議論を行なうにあたっての一助となれば幸いです。

【PHP「2050年のパワー構造と日本の対外戦略」研究会メンバー】

納家政嗣
(上智大学・一橋大学名誉教授、PHP総研客員研究員)※座長
伊藤 融
(防衛大学校教授)
佐藤百合
(国際交流基金理事)
山口信治
(防衛研究所主任研究官)
金子将史
(政策シンクタンクPHP総研代表・研究主幹)

(敬称略・順不同)

【内容】

<目次>

本提言報告書の趣旨と概要

分析篇

はじめに

第1章 近代国際秩序の強さ

第2章 力の分布の変化

第3章 「大収斂後世界」の前提条件

第4章 2050年の国際秩序の展望

  •  1)2050年の国際秩序の枠組みとシナリオ
  •  2)2050年の安全保障
  •  3)2050年の国際経済
  •  4)2050年の地球環境問題

第5章 国際「公共世界」の強化と日本の戦略

提言篇

提言「2050年のパワー構造と日本の対外戦略」

I. パワー構造の安定化と国際公共世界の強化を担う対外政策

  •  1)国連憲章をひな型とするプルリ外交の推進による国際公共世界強化
  •  2)日米同盟のさらなる成熟と内向き米国への「静かなヘッジング」
  •  3)自由民主主義中堅諸国とのパートナーシップ深化による「価値切り下げ」への対抗
  •  4)力の行使と国際公共世界の組み合わせによる中国との「協争的共存(coopetitive coexistence)」の多元的管理
  •  5)国際公共世界の担い手となる有力新興国へのテイラーメイドの関与
  •  6)国際公共世界の共通課題としての途上国のレジリエンス強化
  •  7)「自由で開かれたインド太平洋」を通じた国際公共世界の実践
  •  8)人的交流の拡大を通じた不確実性への適応

II. 四半世紀の平和的移行を実現する安全保障政策

  •  1)2050年においても主権と独立を堅持しうる「拒否戦略」の運用
  •  2)日米同盟の統合抑止力の強化と米国の後退期への備え
  •  3)政治的抑止力の基盤となる安全保障協力ネットワークの構築
  •  4)変質する核秩序への対応
  •  5)安全保障における国際公共世界の位置づけの確立

III. 繁栄とレジリエンスの統合戦略

  •  1)「新しい開放経済」を通じた国富創出と脆弱性管理
  •  2)変容する相互依存におけるポジショニングと戦略的不可欠性の獲得
  •  3)複雑化する脆弱性への集団的な対応強化と「レジリエンス優位性」の確保
  •  4)プルリラテラリズムを足掛かりにした国際制度形成

IV. 秩序移行期を生き抜く国内体制

  •  1)総合的な国力向上と領域横断的な政策統合
  •  2)状況認識力、知的基盤のアップデート
  •  3)急激な人口減少のソフトランディング
  •  4)多様性とレジリエンスを増進する多極連携型の国土と社会への転換
  •  5)2050年の世界に向けて自律性を保ち、イニシアティブを発揮する気概と新しい国民精神を

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