【提言報告書】
憲法論3.0
令和の時代の「この国のかたち」

PHP総研では、平成から令和に移行した2019年、「統治機構改革1.5&2.0」を公表しました。これらの検討のプロセスで明らかになったのは、「グランド・デザイン」としての憲法の重要性です。日本国憲法は、その公布からこれまでの間、改正されることはありませんでした。その是非についてはともかく、不磨の大典だとして憲法議論を放置したり、逆に憲法改正を自己目的化したりすることはあってはならず、むしろ、より良き社会や政治に向けて、憲法を活かしていかねばなりません。

「国のかたち」を示す憲法において、日本や世界を取り巻く近年の「変化」はきわめて大きなものです。
コロナ禍は、デジタル化の社会実装も相まった行動制限などに見られるように国家の権限と個人の人権、国と地方の連携などに関する問題を明らかにしました。とりわけ、人口減少が加速する地方では、自治体の能力も課題です。また、ロシアによるウクライナ侵攻が示すように、米国の覇権が揺らぐ中、国際秩序は転機を迎えており、東アジアにおいて力による現状変更や強制が行われる可能性は現実味を帯びています。自然災害も頻発し、いずれも、国家の統治のあり方に直結する問題です。
フィジカル空間とサイバー空間の融合が進展するSociety5.0においては、テクノロジーによる人間の支配に陥らないよう、そして、経済社会の持続的な発展と社会的課題の解決を同時に可能とするものでなければなりません。また、国家以上の力を持ちうるプラットフォーマーへの対応も求められます。

こうした数々の「変化」に、統治の主体たる私たちはいかに臨むのでしょうか。日々の社会や経済の土台である国家の繁栄を持続するため、いかに「国のかたち」を変容させていくのでしょうか。そのために必要とされる具体的な対応はなんでしょうか。

研究の成果の公開にあたっては、研究会として一本の提言報告書をとりまとめるのではなく、メンバーそれぞれの視座と視点で「論」を示すものとしました。多様な「論」によって、グランド・デザインたる憲法論そのものの広がりや厚みを具体的に示すべきだと考えたからです。

これらの「論」は、護憲/改憲にとどまるこれまでの憲法論である1.0、統治機構改革研究会が示した統治機構に関する憲法論ともいえる2.0に続くもので、さらなる地平を広げ、厚みを増す「憲法論3.0」と位置付けます。
この「論」をきっかけに、幅広い憲法論が大いに興されていくことを期待しています。

 

PHP「憲法」研究会メンバー

 

宍戸常寿
(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
曽我部真裕
(京都大学大学院法学研究科教授)
上田健介
(上智大学法学部教授)
大屋雄裕
(慶應義塾大学法学部教授)
山本龍彦
(慶應義塾大学法科大学院教授)
金子将史
(政策シンクタンクPHP総研代表・研究主幹)
亀井善太郎
(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)
(敬称略、順不同)

【内容】

<目次>

はしがき
はじめに いま、なぜ憲法論3.0なのか
統治機構改革1.5&2.0を越えて 亀井善太郎
1.
はじめに
2.
統治機構の課題と対応の方向性
3.
おわりに

 

Society5.0における立憲主義と法の支配 宍戸常寿
1.
立憲主義
2.
国家権力=政治プロセスの構成と憲法
3.
デジタル化と統治
4.
Society5.0とデジタル現存在への配慮
5.
データのガバナンス、データによるガバナンス
6.
Society5.0と法の支配・権力分立
7.
デジタル時代の人権保障
8.
国と地方の関係

 

「個人の尊重」から見る、これからの憲法 曽我部真裕
1.
はじめに
2.
グルーバル企業の権力と国家の役割
3.
多様な個人の尊重を可能にするための統治機構のあり方
4.
まとめ

 

日本の統治構造とウエストミンスターシステム 上田健介
1.
はじめに
2.
選挙制度
3.
議会のはたらき
4.
二院制
5.
内閣
6.
政官関係
7.
おわりに

 

地方自治と憲法 大屋雄裕
1.
現行憲法と地方分権改革
2.
将来像の不安
3.
自治体事務の現状
4.
内在的な課題
5.
保健所の分権化
6.
保健行政の現状
7.
問題解決の方向性

 

デジタル化と憲法 山本龍彦
1.
はじめに
2.
人権
3.
統治
4.
おわりに

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