【提言報告書】ハイテク覇権競争時代の日本の針路
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「戦略的不可欠性」を確保し、自由で開かれた一流国を目指す―
AIやビッグデータ、量子コンピュータ、ブロックチェーンなどの革新的技術に媒介されて、社会、経済、産業に巨大な変化がもたらされつつあります。他方で、そうした破壊的イノベーションのインパクトは経済や社会の領域にとどまるものではなく、米中を中心にした大国間競争と密接に相互作用しています。
ハイテクと地政学が密接に絡み合う状況は時にgeo-technologyと呼ばれています。現下のパンデミック危機も、安全保障や社会基盤、国民の生命にかかわる分野で他国に依存するリスクや体制の違いを際立たせるものであり、ハイテク覇権競争を本格化させる力学が働くことになりそうです。日本が人間中心のSociety5.0を目指す上でも、国家間の戦略的競争という大状況の中でそれをいかに実現するかという視点を持たなければなりません。
大国間競争と破壊的イノベーションの相互作用の影響は価値や体制の次元を含む幅広い分野に及んでいます。その全体像を理解し、それに即した新たな政策体系を構想するには、多様な専門知による学際的な検討が必要です。政策シンクタンク PHP総研では、技術戦略、国際政治、安全保障、国際経済法、産業政策、中国経済、憲法などのバックグラウンドをもつ研究者で構成されるPHP Geo-Technology戦略研究会を設置し、実務家や専門家へのヒアリングを行ないつつ、多面的な検討を重ねてきました。本提言報告書はその成果をまとめたものです。
破壊的イノベーションと大国間競争という新しい条件下で日本が一流国であろうとするならば、日本という国が何を大事にし、いかなる国をどのようなアプローチで目指していくのかについて、様々なステークホルダーを巻き込んで国民的な議論を行う必要があります。パンデミック危機による環境変化はそうした問いをいっそう切実なものとするでしょう。
この提言報告書が建設的な議論のきっかけとなるものであれば幸いです。
※5月発売の『Voice』2020年6月号で、本提言報告書に関連した特集を予定しています。
【PHP Geo-Technology戦略研究会委員】
- 村山 裕三
- (同志社大学大学院ビジネス研究科教授)*分析篇監修担当
- 川島 富士雄
- (神戸大学大学院法学研究科教授)
- 大橋 弘
- (東京大学公共政策大学院院長・経済学研究科教授)
- 森 聡
- (法政大学法学部教授)
- 山本 龍彦
- (慶應義塾大学法科大学院教授)
- 伊藤 亜聖
- (東京大学社会科学研究所准教授)
- 金子 将史
- (政策シンクタンクPHP総研代表・研究主幹)*提言篇監修担当
【内容】
<目次>
本提言報告書の趣旨と概要
[分析篇]
1.中国の台頭と米国の技術政策
- 1)対中安全保障政策の転換
- 2)中国の台頭と米国政権の技術面での対応
- 3)米国の技術政策の変化
2.米中技術覇権競争におけるデュアルユース技術の重要度の高まり
- 1)新技術の出現と軍民両用性の高まり
- 2)米国におけるデュアルユース技術政策の変遷
- 3)中国におけるデュアルユース技術政策の変遷
- 4)技術覇権競争の構図
3.日米技術摩擦との比較
- 1)米中技術摩擦と日米技術摩擦の共通性
- 2)米中技術摩擦と日米技術摩擦の相違点
- 3)国際経済法から見た相違点
4.「デジタル新興国」という視点の必要性
5.問われる米中技術覇権競争の中での日本の戦略
[提言篇]
- はじめに−マインドセットを再設定する
<社会的価値の次元での方向性>
- 1.新しい技術環境下における自由で開かれた社会のレジリエンスを強化する
<「戦略的不可欠性」を実現する個別政策領域の方向性>
- 2.国内外の技術環境を把握し、「戦略的不可欠性」を高める観点から守るべき技術、育成する技術を特定する
- 3.投資規制・輸出管理・調達政策等をアップデートする
- 4.デジタル社会、データ経済に自由で開かれた市場経済を適合させる
- 5.破壊的イノベーションが常態化し、デュアルユースが全面化する中で防衛・安全保障分野の産業基盤を強化する
- 6.政府の組織体制を抜本的に再構築する
<国際環境への働きかけの方向性>
- 7.技術環境とパワーバランスの変化に即して対外政策を再調整し、日本にとって好ましい国際環境の形成をはかる