PHP「AI社会と選挙ガバナンス」研究会

 

問題意識および目的

 「フェイクニュース」は、イギリスのEU離脱を巡る国民投票や米国大統領選挙などに影響を及ぼしたとして話題となりました。その世論誘導効果は、透明性や自律性との関係で問題となりえます。また、外国政府による選挙干渉・プロパガンダも、国家安全保障上のリスク生じ、対外的独立性という意味での主権にも関わる課題です。他方で、「フェイクニュース」は多義的概念であり、政治活動・表現の自由とも密接に関わるため、規制の導入には慎重な検討・分析が不可欠です。

 こうした問題は従前から指摘されていますが、新しい論点も含まれます。その背景には、情報通信環境の変化があります。SNSの普及などに伴って、生産・流通される情報量は増大の一途をたどり、情報過多が生じています。さらに、偽情報を拡散するアルゴリズム(ボット)の浸透や、偽造動画を量産するAI(ディープフェイク)の台頭なども指摘されています。

 対して、人間の注意力や情報処理能力は大きく変わってはいません。むしろ近年の認知に関する研究は、人間が種々の錯誤や自己欺瞞から逃れられないことを明らかにしてきました。公共選択論や計量政治学も、有権者が、無知で非合理的で周囲に流されて意思決定していることをデータで示しています。
 そこで、本研究会では、テクノロジーとサイエンスの発展を踏まえ、我々人間はどのような存在で、どうありたいか、また、制度はどうあるべきかという課題に取り組みます。

 具体的には、情報生態系という情報流通構造の問題として「フェイクニュース」を捉え、リスクを低減緩和するための制度提案に焦点を絞って分析します。
 そして、自然的事実とは異なるからこそ、規範的に制度を構築する必要があることに目を向け、認識論的民主主義(epistemic democracy)などの議論も参照しつつ、よりよい政策コミュニケーションのあり方を議論し、メディア法や選挙と政党に関する法制度などを検討します。提言報告書は2020年7月を目途に公表する予定です。

PHP「AI社会と選挙ガバナンス」研究会メンバー

小島慎司
(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
坂井豊貴
(慶應義塾大学経済学部教授)
笹原和俊
(名古屋大学大学院情報学研究科講師)
谷口将紀
(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
西田亮介
(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)
金子将史
(政策シンクタンクPHP総研代表・研究主幹)
工藤郁子
(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)
(敬称略、順不同)

【内容】

<研究会開催経緯>

研究会のキックオフとなる準備会合を2019年12月13日に開催しました。

本研究会を設置した問題意識や目的、想定される論点について、工藤(PHP総研)が説明し、メンバーで活発な議論を交わしました。
仮説として、日本において「フェイクニュース」問題は顕在化していないのではないか、認知科学の知見などを踏まえて理性的・自律的な人間像の限界と向き合わなければ政治的疎外感覚や政治不信を改善できないのではないか、などの見解が提示されました。また、今後の進め方について、前記の仮説を考察すべく、外部講師を招いてヒアリングを行いつつ、日本において「フェイクニュース」問題が顕在化していない要因を分析し、また、政治コミュニケーションに関するワースト・ケース・シナリオを作って検討することを当面目指す、との方針を確認しました。

準備会合 配布資料「PHP『AI社会と選挙ガバナンス』研究会について」 |PDF|

第一回研究会を2020年1月31日に開催しました。

笹原和俊先生(名古屋大学大学院情報学研究科講師)に、ご著書『フェイクニュースを科学する』化学同人(2018)の内容を起点として、刊行後の研究も含め、フェイクニュース現象の仕組みと関連する情報生態系についてお話いただき、メンバーと活発な議論を交わしました。
「フェイクニュース」は様々な態様があることが指摘されました。同時に、個々の情報の真偽の問題だけでなく、情報環境全体の構造的問題も重要であることが確認されました。また、偽ニュース拡散に関与する認知バイアスが紹介され、「エコーチャンバー」が生じる条件の分析とそれを緩和する取組みの紹介なども行われました。

第一回会合 配布資料「フェイクニュース拡散の仕組み:計算社会科学の見地から」|PDF|

第二回研究会を2020年2月21日に開催しました。

中川北斗氏(総務省総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政第二課)をお招きして、諸外国におけるフェイクニュース及び偽情報への対応と、総務省での取組みについてお話いただき、メンバーと活発な議論を交わしました。
アメリカ、EU、イギリス、フランス、マレーシア等の偽情報対応を概観いただきました。加えて、2020年2月7日に公開された「プラットフォームサービスに関する研究会最終報告書 <https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban18_01000075.html> 」の概要についてご説明いただきました。

第三回研究会を2020年4月9日に開催しました。

栗原さあや氏(Facebook Japan 公共政策部)をお招きして、フェイクニュースへの対応について、選挙のみならず新型コロナウィルス感染症への対応についてもご説明いただきました。オンライン会議システムを通じて、メンバーと活発な議論を交わしました。

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