緊急提言 包括的金融再興構想【2】
― 金融システムの現状についての基本認識 ―

(1)「詰んでしまった」金融システム
90年代の金融システムは、これまでに「隠蔽、先送り、場当たり」的な措置で何度となく危機を脱出してはきたが、97年11月の金融連鎖破綻事件をきっかけに、再び混乱の淵に追い込まれた。しかし、「30兆円の金融安定化措置」(98年2月)ならびに今般の「ブリッジバンク構想」(98年7月)によって、「今度こそ不良債権処理は完全に終結する」との見方が強調されている。しかし、96年6月に住専関連法が成立したときも「これで不良債権問題は峠を越した」との見方が行政当局筋(大蔵省、日銀)から強調され、国民も市場も結果としてダマされてしまった。

それでは、「ブリッジバンク構想」が登場した現在、日本の金融システム不安は万全な体制のもとで、解消に向かうのだろうか。1998年7月の現在、日本の金融システムは依然として、いわば将棋でいう「詰んでしまった」状態に追い込まれたままである。その理由や要因は、以下の諸点にある。

日本の金融システムが抱える不良債権総額は、公表される以上の規模であることはほぼ確実である。また、デリバティブなどによって、いわゆる「飛ばし」の形で隠蔽されている「簿外(債務)」の存在の可能性がある。

経済停滞化で「第Ⅱ分類」の劣化が一層進んでいる。さらに「第Ⅰ分類(正常債権)」の劣化が生じつつあり、金融機関のバランスシートは悪化している。

今後のデフレ経済化ならびにビッグバンをにらんだ一部金融機関の土地損切りの急増などから、地価は一段と下げ足を速める公算が大である。

大手銀行(マネーセンターバンク)のなかで、「債務超過」あるいはそれに近い脆弱な経営体質にあるところが存在する可能性がある。

大手銀行はゼネコンをはじめ大手企業、中堅企業などに協調融資体制を敷いているため、一行が破綻すれば連鎖反応が「マネーセンターバンク」全体に波及する。

上記「マネーセンターバンク」の動乱は国際金融市場に直ちに波及する。世界的な金融恐慌の発生リスクはかなり高い。

日本経済は、バブル崩壊に伴う正常化プロセスにあり、「膨脹信用」がかなり「収縮化」することは不可避である。また、2001年4月の「ビッグバン」時代の本格化に向けて、金融機関は資産健全化行動に乗り出し、リスク資産への管理を強化しつつある。急激かつ大幅なデフレの下方圧力に対して、財政面での緩和策が発動されたり、恒久減税措置がとられるとしても、ここ数年は景気低速の続く可能性が強い。とすれば、不良債権問題を2~5年間、居座り続けさせることは危険である。

以上(1)で見たように、総額も内容も曖昧かつ不正確で、しかも膨大な不良債権を抱え込む金融システムは、景気低迷のもとで突破口が見えない「大閉塞状況」に追い込まれているといってよい。まさに「詰んでしまって」いるのである。むろん、各種の金融安定化策を繰り出すことで、市場の動揺を封印し、激震を押さえることは可能である。つまり、日本の金融システム、とりわけ大手銀行(「マネーセンターバンク」)は一触即発の危機と隣り合わせにある。危機が発生すれば、まさに金融システム全体のメルトダウンは不可避的となる。

(2)「金融再生トータルプラン」および「ブリッジバンク案」の問題点
「詰んでしまった金融システム」との大前提に立てば、今般の政府の「金融再生トータルプラン(ブリッジバンク案)」は机上の作文の域を出るものではなく、切迫した現実問題の根本解決に有用なツール(手法)とはなり得ない。

基本的欠陥は次の諸点である。

[現行の政府案の問題点]

「破綻銀行」ならびに「善意で健全な取引先」の基準が明確でなく、現状の仕組みのままでは恣意的、裁量的にならざるを得ない。

ブリッジバンクは、米国の銀行再生方式の模倣だが、米国での事例は地域型の中小金融機関にほぼ限定されていた。地域中小企業を中心とする「健全な取引先」は、地域金融機関が破綻した場合、借り入れ先を失うリスクが高いため、ブリッジバンクは有用な場合もあり得る。しかし、大手銀行では優良取引先は他の有力銀行に逃避する可能性が大きい。したがって、ブリッジバンクの実効性には限界がある。

ブリッジバンクは実質的には2~5年間の「第Ⅱ分類凍結機関」の役割を担い、金融システムに不良債権を今後とも長く居座らせる結果となる。つまり、相変わらずの「先送り行政」の延長である。

2~5年間に再生できない金融機関が今後の経済状況のもとで増大することは間違いないが、その結果、「平成金融再生機構」が「金融版国鉄清算事業団」になるのは必至である。

破綻金融機関が2~5年間、結果として「救済」され、かつ取引先が曖昧な形で「救済」される可能性が強く、日本経済全体にモラルハザード症候群が蔓延する。

「臨時不動産関係権利調整委員会」の裁定について、法的な不服申し立てが急増し、混乱に陥り、不良債権処理の進捗が遅れる可能性がある。

債権が確立し、無税償却が可能だとしても、当該金融機関に処分能力が欠ける場合もあり得る。それを公的資金による資本注入で補うわけだが、その判定基準ならびに資金枠(現行13兆円)には問題がある。

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