自治体公共施設の有効活用
― コスト情報から始めるハコモノのバリューアップ ―

 昨秋以降の景気後退の影響を受け、国は追加経済対策を打ち出しました。再び補助金、交付金目当ての公共事業に飛びつけば、自治体は、急速に財政悪化した「いつか来た道」に逆戻りしかねません。加えて、公債費や扶助費が年々増加し、自治体の経営危機はむしろこれから本格化します。では、この危機をいかに突破すれば良いのでしょうか。
 PHP総合研究所は、自治体が運営管理している「ハコモノ」(建物+土地)とそれに要する「コスト」に着目し、それらの有効活用策について検討してきました。昨年7月に発表したハコモノにかかるコストパフォーマンスの評価手法(第一次提言)にひき続き、5月19日、『自治体公共施設の有効活用 ~コスト情報から始めるハコモノのバリューアップ』と題する11の政策から成る提言(第二次提言)を発表。この度、報告書としてとりまとめました。

・公共施設の有効活用とは?
基本的な考え方をQ&A形式で解説します。

「PHP・自治体公共施設の有効活用研究会」メンバー

(五十音順)

上野 淳
/首都大学東京大学院建築学域 教授
辻 琢也
/一橋大学大学院法学研究科 教授
根本祐二
/東洋大学経済学部 教授
穂坂邦夫
/NPO法人 地方自立政策研究所理事長、前志木市長
南  学
/横浜市立大学エクステンションセンター長、PHP総合研究所 客員研究員
望月伸一
/株式会社ファインコラボレート研究所 代表取締役
荒田英知
/PHP総合研究所 主席研究員
佐々木陽一
/PHP総合研究所 主任研究員
金坂成通
/PHP総合研究所 研究員
宮下量久
/PHP総合研究所 研究員

<事務局>

茂原 純
/PHP総合研究所 研究コーディネーター

提言骨子

 弊社が政策提言『自治体公共施設の有効活用』で提唱した方法により、次に挙げるようなハコモノの「コスト・パフォーマンス」の可視化が可能です。それによって的確な実態把握に基づく改善案の立案が可能になります。

(1)コストと実態の的確な把握(財務諸表とデータ把握)

正確な実態把握

 公共施設での行政サービスにかかるコストと、土地・建物のストック状況、および、そこで行われている行政サービスなどを把握した上で横断的に把握・分析します。

(2)将来コストの予測

 これまでの改修履歴、今後の改修予定などを勘案し、今後10年間にかかる公共施設のトータルコストを予測します。

将来コストの予測

(3)財産状況の多面的把握と課題の抽出(有効活用の基本方針)

 個別のハコモノの「コストデータ」と「実態データ」(土地・建物、利用、運営の各情報)をそれぞれクロスして、横断的、多面的にパフォーマンスの現状を評価し、その問題点などを浮き彫りにできます。 これにより、自治体内の同用途施設(例えば、図書館)の利用1件当たりの事業運営コストなどを容易に明らかにできます。さらに、これを比較すれば、各施設のコスト構造上、どこに問題があるのかが判ります。同様に、近隣自治体間で同用途施設、あるいは、機能的に類似した施設同士を比較すれば、自治体のハコモノのコスト構造について、「どこに問題があるのか」が、相対的に判ります。

財産状況の多面的把握と課題の抽出

(4)いろいろな観点からの改善案

 現在多くの自治体が「行政評価」に取り組んでいますが、そこでは指定管理者の導入、PFIの導入、大規模改修など、大枠の改善案しか出てきません。しかし、先のハコモノのコスト・パフォーマンスの分析・評価、また、将来コスト試算の各結果を得れば、具体的な改善案に直結する企画・立案ができます。
 企画・立案の際には、(1)使用・利用形態、(2)保有形態、(3)運営形態、(4)スペースの効率利用、(5)ライフサイクルコストの効率化、(6)集約・統合、(7)ITの活用、(8)満足度などの各観点から具体的な改善策を検討できます。その際、選択した改善策の効果計測の結果も検討材料に加え、自治体が掲げる地域経営ビジョンとの整合性をとりながら優先順位づけし、最終案を決定します。これらにより、個々のハコモノでなく自治体全体の観点で最適な活用を図ることができます。

財産状況の多面的把握と課題の抽出

事例、実績

  • ・「公共施設マネジメント白書作成支援業務」(福井県坂井市、2010~2012年)
  • ・「公共施設マネジメント白書作成研究業務」(茨城県取手市、2010~2011年)
  • ・「公共施設白書作成支援業務」(神奈川県鎌倉市、2011~12年)
  • ・「公共施設再配置計画策定支援業務」(香川県三豊市、2012年)
  • ・「公共施設再編成の行動計画策定支援等業務」(茨城県龍ケ崎市、2013年)
  • ・「公共施設再編成の推進支援業務」(茨城県龍ケ崎市、2014年~)
  • ・「公共施設マネジメント基本方針策定支援業務」(神奈川県綾瀬市、2013~2015年)
  • ・「市民討議会(公共施設マネジメント)企画運営支援業務」(神奈川県綾瀬市、2015年)
  • ・「ファシリティマネジメント推進計画 アドバイザー支援業務」(岐阜県恵那市、2015年)
  • ・「市民会館閉館後検証業務」(京都府舞鶴市、2016年) など。
  • その他、公共施設マネジメントに係る行政委員(神奈川県秦野市、千葉県八千代市、茨城県取手市、埼玉県入間市、東京都国立市など)多数。

【内容】

経営危機突破への処方箋
穂坂 邦夫

穂坂 邦夫氏
NPO法人地方自立政策研究所理事長(前志木市長)

 コスト・パフォーマンス分析は、これからの自治体経営にとって必要不可欠である。何故なら成熟社会(人と公共財)の加速は住民負担増の限界と行政需要の拡大に直面し、財源の確保が極めて難しくなるからだ。これらを打開する最大のパフォーマンスは「目に見えないムダの排除」で、あらゆる角度から「ムダの原因」をつきとめ、「摘出手術」をしなければならない。その最大のターゲットが膨大なコストを要する「ハコモノ(建物+土地)」である。

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