自治体公共施設の有効活用Q&A
自治体公共施設の有効活用についての基本的な考え方をQ&A形式で解説します。
Q.自治体に迫りくる経営危機とは?
過去数年にわたる好景気で一時的に税収が増えたにも関わらず、自治体の財政は好転しませんでした。こうした最中に起こった世界的な景気後退は、自治体の経営危機を一気に深刻化させる恐れがあります。
まず、2010年度以降、景気後退の余波で税収難が深刻化し、恒常的に多額の財源不足に陥る可能性が高いです。次に、膨大な量のハコモノの老朽化が自治体に対して、借金返済、運営管理費、将来の更新の負担増という打撃を自治体経営に与え続けていくことは必至です。最後に、政府の追加経済対策(15兆円)というバラマキです。自治体が公共事業に依存した経営モデルやその高コスト構造の転換に取り組まず、再び補助金、交付金目当ての公共事業に飛びつけば、自治体は急速に財政悪化した「いつか来た道」に逆戻りしてしまいかねません。
Q.なぜ、ハコモノの有効活用なの?
首都圏のとある市を例にすると、その保有財産の総評価額(約7961億円)のうち、行政財産は約7430億円(93%)を占めています。さらに、ハコモノ(約78万?)に着目すると、その約半分は、学校施設(約48%)です。
一方、この保有量にかかるトータルコストは約717億円で、市の年間歳出総額1200億円の約60%を占めています。その内訳は、人件費(22%)、物件費(14%)、投資的経費(23%)となっています。以上の比率は程度の差こそあれ、多くの自治体でもほぼ同じです。
つまり、自治体がハコモノを有効活用する政策的意義は、「歳出額の60%以上=財産の90%以上を占める経営資源を活用する」ことにあります。単純に言って、ハコモノを半減させれば、自治体の年間歳出額を30%以上減らすこととなり、それを住民のニーズに合った政策、施策に回すことができるかもしれません。
このように、自治体経営資源としての大きな比重を占めるハコモノに切り込み、その整備、維持管理のあり方を抜本的に変えれば、ハコモノに留まらず自治体全体の経営効率化につながっていくでしょう。ハコモノの有効活用とは、自治体経営改革そのものと言っても過言ではないのです。
Q.ハコモノのコスト・パフォーマンスを分析するには?
現在、各自治体で進められている公会計整備を機に、「コスト」と「事業」の実態を的確に把握すれば、それは自治体経営へ活かす重要なツールとなり、経営改善への大きな推進力となると考えられます。
具体的には、現在、庁内の所管部課がバラバラに管理している人件費・事務事業費などの「コスト情報」と、ハコモノの利用状況・運営状況などの「ストック情報」の集約・整理を行いて、それを開示すべきです。
これらを総合すれば、ハコモノにかかる年間のトータルコストを弾き出せます。つまり、「施設にかかるコスト」(大規模修繕費、賃借料、減価償却費、維持管理費等)と「事業運営にかかるコスト」(人件費、業務委託費、物件費等)の両面から、それぞれのハコモノのコストの構造と問題点などを明確化できます。そうすれば、(1)コストと比較してサービス(便益)が適正か過大か ⇒ (2)期待された効果を生んでいるか ⇒ (3)収支差額から当年度のサービスコストの全てが税収で賄えたか ⇒ (4)事業を継続すべき否かなど、行政執行の具体的評価が可能になります。
Q.ハコモノの有効活用で何がどう変わるの?
多くの自治体はこれまで、「乾いた雑巾を絞る」と形容されるほど、厳しい行財政改革に取り組んできました。しかし、これも見方を変えると、手を付けやすい「変動費」だけを削減しているに過ぎません。構造的には従前の自治体経営と何ら変わっていないのですから、勝算のない消耗戦が続くだけです。
これに対し、ハコモノのコスト・パフォーマンスに基づく改善策を実施すれば、自治体経営を大きく改善することが可能です。
改善策の実施にあたっては、事前にいろいろな改善案を選択した場合の効果計測も可能ですから、費用対効果を重視したり、自治体が『基本構想』で掲げる地域経営ビジョンを重視したり、メリハリのある経営も可能です。