金融危機についての緊急提言【2】
― 不良債権の実態―

(1)不透明な不良債権関連データ

1990年代初めからのいわゆるバブル崩壊によって、日本の金融システムは膨大な不良債権を抱え込むに至っている。この間、各々の金融機関は不良債権処理を進めてきているし、政府も住宅金融専門会社や破綻金融機関の処理、さらに金融機関経営の立て直しなどに努めつつある。

 しかし、金融システムの正常化や再建にあたって、大前提となる信頼性を持つ不良債権関連データについては入手不可能なばかりか、不良債権の計測自体も恣意的、裁量的でその的確性は疑わしい。さらに、不良資産の推定の根拠となる地価想定や追い貸しなどが曖昧なうえに、土地など担保評価も適切さに疑問がある。

 巨額な不動産関連融資を行っているノンバンク、多額な債務保証を行っている大手建設会社(その関連子会社を含む)、さらに農協系金融機関など不良債権の実態を的確に知るデータは見つからない。

 不良債権の実態把握にとってまずもって不可欠な基本的データがないことは、驚きというよりも恐ろしいことではないか。それが「隠蔽」であれば、公開を迫れば足りることではあるが、合理的な基準による信頼できる計測の「欠落」は金融行政の「怠惰」ならびに政府の行政責任の「放棄」ではないか。

 実際に以上の問題は幾つかの金融機関の経営破綻が表面化した段階で明らかになり、愕然とさせられる。例えば、95年8月に破綻した兵庫銀行の場合、96年3月期の公表不良債権額は609億円だったが、定義は異なるものの回収不能額は7900億円で関連会社を入れた不良債権は1兆5000億円に達していた。96年11月に業務停止命令を受けて破綻した阪和銀行の場合も96年9月期の494億円に対して1900億円になっている。

(2)実質不良債権の推定

 信頼に足るデータが不在のもとでは、われわれは日本の金融システムの不良債権の実態ならびにその深刻な状況を知るすべがない。大蔵省や個々の金融機関や業界などの発表をベースに集約すれば、日本の金融システムが抱える不良債権総額は(破綻先+延滞先+金利減免先+経営支援先)は38兆600億円である(参考図表1を参照)。

 この38兆円というデータが実態に近いかどうか評価することは誰にもできない。ただ、この推計値が上記(1)などの事由で過小推計であることを否定するのは難しい。欧米の調査機関や格付け機関などでは日本の金融機関の不良債権総額として50~60兆円(IBCA)とか140兆円(VERIBANC)などがある。

 ひとつのラフな推計手法として東京三菱銀行の事例を用いることができる。ニューヨーク株式市場に上場しているため、東京三菱はSEC基準で不良債権を計上している。連結ベースと3ヵ月以上の延滞債権ベースというのが日本での公表計数と異なる点だとされている。96年9月期の不良債権額はSEC基準では1兆8524億円、日本基準では1兆1921億円で日米比は約1.6倍。この倍率を掛けることで、不良債権総額ならびに大手20行(都銀10行、長信銀3行、信託7行)について不良債権関連データを推定してみた(図表2参照)。不良債権総額は約60兆円になる。東京三菱銀行の不良債権は日本の金融機関の平均値ではなく、少ない部類に入るから、1.6倍はミニマムの倍率と考えておくべきだろう。いずれにせよ、不良債権比率(不良債権総額÷総貸出額)は公表ベースで6.10%と危険ライン5%を大きく上回る。

 そこで、大手20行の公表不良債権を実質化して、その実態を可能なかぎり把握すべく、各行の回収不能額などを推計してみた。

公表不良債権額×1.50=実質不良債権

実質不良債権額×0.75=回収不能債権  
ここで0.75とは担保価値の減価率(共同債権買取機構の計数)とする。

回収不能債権-引当金(債権償却特別勘定)=要償却額

(債権償却特別勘定+株式含み益)÷回収不能債権=カバー率  
ここで株式含み益は平均株価=17000円の場合とする。

要償却額÷業務純益=償却年数


 以上の推計(図表2参照)によって、20行の公表不良債権比率を横軸にカバー率および償却年数を縦軸にし、散布図を作成してみた(図表3参照)。

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