若い力が「質的価値」で日本を変える

野並 晃(日本青年会議所会頭)& 亀井 善太郎(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

本稿は『Voice』2021年2月号に掲載されたものです。

全国691の組織が異なる色の旗を掲げることで、ひいては日本に活力を与えたい――。日本青年会議所の新会頭に就任した野並氏がめざす日本と地域の在り方とは

多彩な色の旗で「未来の日本」をつくりたい

亀井:野並さんは今年1月より日本青年会議所(JC)の会頭に就任されるにあたり、「質的価値」というスローガンを掲げています。この言葉に込めた想いをお話しいただく前に、まずは新会頭としての意気込みからお聞かせいただけますか。

野並:私がもっとも意識しているのは、「JCとして明確な一つの旗印をたてることはしたくない」ということです。歴史を振り返ると、社会全体が一つのキーワードに向かう時代があったと思います。しかし昨今では、ダイバーシティやインクルージョン(包摂的)などの言葉が用いられているように、さまざまな価値観が生まれています。そんなときに、あえて一つの方向にまとめようとすれば、それは時代錯誤で矛盾や衝突を生むでしょう。だからこそJCも、全国の組織を一つの旗印のもとにまとめるべきではないと考えているのです。

JCは日本全国に691の組織がありますが、それぞれの土地に固有の文化や歴史がありますし、いま抱えている課題だって異なるでしょう。だからこそ、一つの価値観を押し付けるのではなく、それぞれの地域が自分たちの色の旗を掲げてほしいのです。

亀井:たしかに現代は、「時代は○○に向かっている」などと、わかりやすいキーワードで表現するのが難しい時代です。鹿島平和研究所とPHP総研が昨秋に刊行した『日本の新時代ビジョン』(PHP新書)でも、「円の時代」から「楕円型社会」へのシフトを一つのメッセージとしました。前者は東京一極集中に代表される社会ですが、これからの時代は複数の中心をもつべきで、それを楕円型社会と表現したのです。のちほど詳しく伺いますが、野並さんが掲げる「質的価値」は、一つの尺度ではない多様な焦点=価値をもつことで豊かな社会を実現する、という発想だと理解しています。

野並:おっしゃるとおりです。もしかしたら「この色でいく」というトップダウン式のほうが、効率的でわかりやすいかもしれない。しかし、一色で塗りつぶすことにはメリットとデメリットがあります。ならば、やはりさまざまな色を認めたうえでバランスをとるべきとの結論に至ったのです。

JCでは、かねてより各組織の多様性を大切にしてきました。たとえば、2015年度からはSDGs(国連が定めた持続可能な開発目標)に取り組んでいます。SDGsには17の目標と169の個別具体的ターゲットがありますが、これもつまりは、SDGsという枠組みのなかで、各人が自分の立場や状況にあわせて取り組みを決めるという発想でしょう。

亀井:あえてお聞きすると、「多様性を認めて好きな色を選んでもらう」という姿勢は、たしかに包摂的ではありますが、しかしある側面では、「自分の旗は自分で責任をもってたててください」という突き放した言い方ともいえないでしょうか。

野並:菅政権も「自助・共助・公助」という言葉を用いていますが、まず大切なのは、自分の足で立とうとする意志ではないでしょうか。JCでも、まずはその地域にいる人間が、「どうやったら自分たちの町は元気になるだろうか」と、真剣に考えなくてはなりません。JCのメンバーだけでは煮詰まってしまうならば、地域の方々に話を聞きにいく。あるいは他の地域の方にも議論に入ってもらうべきかもしれない。そうして自分の手と足で解決策を見つけて実行しなければ、どんな色の旗をたてても本当の意味では輝かないでしょう。厳しい課題であることは承知していますが、私は若い世代によって構成されるJCの各組織がそうしたチャレンジを続けることが、地域が元気になり、やがては日本の活力を生むことだと信じています。

亀井:JCの強みは日本JCが全国の各組織の活動を後押ししたり支援したりする点にあると感じますが、それも各地域独自の活動があってはじめて有効に機能するのですね。そして日本JCのメンバーは、必然的に自分の出身地以外の地域のメンバーと関わるわけですから、交流するなかで、自分の地域の「当たり前」がじつは特色であり魅力であることに気付く。そしてやがては地元に戻り、地域の旗をたてるために活動する――。このJCの循環は、日本社会全体が参照すべきでしょう。

量のモノサシを越えて

野並:私が掲げている「質的価値」は、まさしく各地域にそれぞれの旗をたててもらいたいという願いを込めて用いている言葉です。なぜ「質」という言葉を用いているのかといえば、それは反対語である「量」についてお考えいただければイメージしていただけます。

量とは、どんな単位を用いるにしても、客観的かつ明確な判断軸で物事を評価することです。必然的に、A地域は100でB地域は50、C地域は30という具合に順位がつけられてしまう。それならば、BやCはAよりも劣っていると本当に言い切れるのか。地域の魅力とは、そんなに単純なものではないでしょう。

亀井:非常に重要なお話です。現代社会では、とかく何事も量ではかろうとしますが、その習性が思考や行動を歪めている側面があります。量で考えれば往々にして東京がいちばんとの結論になってしまう。しかし令和の時代においては、建物でいえば大きかったり高かったりすることが必ずしも価値を表すとはかぎりません。私は、平成を「率の時代」と捉えています。経営ではROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)のような考え方が広まり、そうした指標によって優劣がつけられました。しかし、数字を突き詰めた先に待つのは規模の縮小やコストカットです。これでは元気が出ません。

とはいえ、「量」ではなく「質」に価値を見出すのは指標がないだけに難しい。JCではその点をどう考えているのでしょう。たとえば、野並さんはシウマイでしられる崎陽軒の経営者ですが、地元・横浜の質的価値とは何でしょうか。一般的には、歴史や風土がそれにあたると考えられますが。

野並:「三日住めば浜っ子」という言葉があるように、横浜という土地がもつ力が大きいのは間違いありません。ただし、私は質的価値という言葉を細かく要素分解したくありません。いまでは土地をもたずとも、デジタル空間にだって価値は存在します。そんな時代に「質的価値の本質は土地の風土である」といえば、その瞬間に特定の色の旗をたてることになる。もちろん、人や土地は質的価値の重要な構成要素です。しかし、安易に定義すれば、かえって可能性を狭めてしまうかもしれない。

先代の会頭である石田全史さんは、2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた福島県浪江町の青年会議所所属です。同町では180名以上の方が命を落とされており、震災後に土地を離れざるを得ない方も少なくありませんでした。石田さんの頭には浪江JCの解散もよぎったそうですが、しかし、たとえば郡山に住んでいても浪江JCに所属するメンバーもいるそうで、いまも活動を続けています。土地は一つの重要な要素ですが、しかしそれがすべてではないことは、石田さんの姿をつうじて私も感じたことです。

亀井:なるほど。JCがめざす質的価値とは、まず大前提として量ではない。そして、人や土地の価値はもちろんあるけれど、場合によっては先祖が住んでいた場所を移らざるを得ない人もいる。「土地の力」と表現しないとすれば、生まれた場所であったり、祖父母が生きた土地であったり、企業に置き換えれば従業員の方が暮らしているというような「根っこの力」といった表現が適切なのかもしれません。

野並:たしかに「根っこ」という表現は、私が思い描いているイメージに非常に近いです。

亀井:本誌で「巻頭言」を連載されている人類学者の長谷川眞理子さんは、あらゆる自分の感覚は、幼いころに和歌山の山と浜で遊んだ身体感覚から形成されているとお話しされています。彼女は東京大学やイェール大学で教鞭を執られてきましたが、自分の芯、つまり根っこは生まれ育った和歌山にあるというのです。

野並:いまのお話をふまえて、質的価値をあえて定義するならば、「それぞれのメンバーが自分たちの『根っこ』を考えること」というメッセージになります。それは、時間であったり、場所であったり、人であったり、別の要素であるかもしれない。さらにいえば「根っこ」はさまざまなところに張り巡らせたり、場合によっては二つの根を張ったりすることもできる。いずれにせよ、自分の根っこと向き合うことは、JCはもちろんのこと日本人全体にとって大切なことではないでしょうか。

「質的価値」を誰と共有するのか

亀井:質的価値を考えるうえで、もう一つ重要な視点が、その価値を誰と共有するかでしょう。自分たちの根っこを再確認しても、その価値を誰にも伝えなければそれは自己満足にすぎず、人も地域も廃れてしまう。野並さんは質的価値を共有する相手に誰を想定しますか。

野並:これもやはり、JCとして「この人と共有しましょう」などと一つのスローガンを掲げたくありません。全国691の組織がそれぞれ異なる相手と共有しても構わないし、もちろん同じであってもいい。つまりは、各JCが知恵を絞って相手を見つけるべきなのです。

私の身近な例で恐縮ですが、崎陽軒であれば「横浜のおいしさを創りつづける」ことを掲げ続けています。あえて「日本」といわず「横浜」としているのは、私たちは価値を共有する相手を横浜市民の皆さまだと考えているからです。崎陽軒はシウマイをつくる権利、そして売る権利を横浜市民の皆さまから与えていただいています。すべてはその横浜市民の皆さまに喜んでもらうかたちで、価値を提供し続けたいと考えているのです。

亀井:崎陽軒が横浜市民に与える価値とは、具体的にはシウマイを食べる体験になるのでしょうか。

野並:もちろん、シウマイ弁当を食べていただくことは一つの価値です。ですが、私はもっと幅広く考えています。たとえば、仕事や観光、デート、もしくは野球観戦などさまざまな理由で横浜に出かけたついでに崎陽軒のシウマイを購入される方も少なくないでしょう。私としては、そうした横浜の思い出の傍に、シウマイがあるかたちが理想です。さらにいえば、シウマイの折詰を購入された方は、帰ってご家族で食べたり贈り物にされたりするでしょう。その際も、シウマイとともに購入された方の横浜の思い出が共有されていれば嬉しいです。

亀井:ある意味では、横浜という土地を「借景」にしてシウマイを届けているわけですね。だからこそ、崎陽軒はあくまでも「日本」ではなく「横浜」を根っことしている。たとえば、大事なプレゼンテーションが上手くいったビジネスパーソンが、新幹線での帰り道にビールを片手にシウマイ弁当を食べる経験は何物にも代えがたい(笑)。そしてその方は、横浜での仕事とともにシウマイを大切な思い出にするでしょう。

「現場」があるから解決策と活力が生まれる

野並:とはいえ私は同時に、質的価値を難しく考えすぎて、頭でっかちで身動きがとれない状況だけは避けるべきだと強調したい。崎陽軒のシウマイにしても、創業者の曾祖父はもともと「横浜の名物をつくろう」くらいの気持ちだったといいます。そこに後付けのようなかたちで質的価値が加わった。価値とはゼロからつくる必要はなく、地域をはじめとする根っこのなかにすでにあるケースがほとんどです。いわば価値の原石を再発見して、いまの文脈から光をあてればいい。逆にいえば、いまの文脈と結びつかなければ輝きは半減します。

亀井:他のJCの方から聞いた話ですが、明石ではタコを生業にしている方が、歴史を調べ、先人の声に耳を傾け、その知恵を使い、タコを家庭でも美味しく食べられる方法を編み出した。そして、タコを食べる体験価値をストーリーとともに伝え、クラウドファンディングにもチャレンジした。彼らはタコにどう光を当てようか試みてきたのです。この姿勢は地域や職に関係なく、私たちに求められるものです。

野並:今日は私が崎陽軒の人間だからか、食のたとえ話に偏ってしまいましたが(笑)、どの地域やジャンルでも質的価値は追求できます。先人がその営みを続けてきたからこそ、いまも日本の各地に独自の魅力があるのです。バトンを渡された私たちは、とにかく漕ぎ続けなければいけません。崎陽軒のシウマイにしても、売り方は時代とともに試行錯誤してきました。折詰からスタートして、弁当やお土産用の商品を開発したり通販を拡充したりしてきた結果、いまも営業できています。

亀井:食についていえば、核家族化や個食化と時代ごとに食べるシーンが変わっていますから、いかに対応するかが問われ続けますね。同じことが食以外のジャンルにもいえるわけで、それぞれが自分たちの質的価値に向き合うことでしか解決策は生まれません。

ここまでお話を伺ってきて感じたのは、「現場」があることの大切さです。どの世界でも、将来について楽観論と悲観論のどちらを語るにせよ、極力具体的な議論をしなければ意味がない。現場に立たなければ、いま何が起きていて何が課題なのかがわからず、解決策も導き出されない。抽象論ばかりでは日本に活力は生まれません。その意味では、JCは日本の691の地域に拠点が置かれ、皆さんが現役でそれぞれの持ち場で働いているわけですから、莫大な現場の情報が集まる貴重な組織です。

野並:JCには各都道府県にブロック会長がいて、担当地区の課題を認識しています。そのうえで、今年は35の会議と委員会を発足させました。多様な地域出身の人間が集まり、議論しながらそれぞれの課題と向き合うことで解決の糸口を見つけたいと考えています。

亀井:もう一つ、私がJCに期待したいのは世代的な断絶の防波堤になることです。地域の課題を解決する際には、自分たちの頭のなかだけでは答えは見つかりにくい。そのときに、JCならではの横の連携を活かすとともに、地域の先輩の声に耳を傾けることがヒントになるはずです。もちろん、先輩たちも後輩の声に真摯に耳を傾けなければなりませんが、それが結果として地域の文化の継承につながれば素晴らしいことです。

野並:インプットの重要性は私も認識しているつもりです。人は自分が知ることのなかでしか行動できない生き物です。だからこそ「これは自分には必要ない」「自分たちとは違う」と感じた意見だとしても、とりあえずは引き出しにしまうべきでしょう。

JCは、いわば691のエンジンをもつ組織だといえます。各地域の課題や解決策を持ち寄りながら、それぞれが自分たちの色の旗を掲げることで、よりよい日本の未来に寄与していきたいと思います。

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野並 晃(日本青年会議所会頭)
野並 晃(日本青年会議所会頭)
1981年生まれ、神奈川県横浜市出身。慶應義塾大学大学院経営管理研究科卒業。キリンビール株式会社勤務を経て、2007年に株式会社崎陽軒入社。現在同社専務取締役。13年、一般社団法人横浜青年会議所入会。20年、日本青年会議所副会頭。21年からの1年間、同会頭を務める。
"亀井
亀井 善太郎(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)
1971年生まれ、神奈川県伊勢原市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。日本興業銀行(現みずほ銀行)、ボストン・コンサルティング・グループ、衆議院議員などを経て現職。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授やNPO法人アジア教育友好協会理事なども務める。

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