中国における国益論争と核心的利益

前田宏子 (政策シンクタンク PHP総研 国際戦略研究センター主任研究員)

Talking Points

  • 「台湾は中国の核心的利益」という言い方は胡錦涛政権期に定着したが、政権発足時には異なる使い方をされていた。中国政府は、新たな時代の米中関係を象徴する言葉として、「核心的利益」に新しい定義を与えようとしたが、それが国内外で議論を呼び、中国国内でもさまざまな解釈が提示されるようになっている。
  • 中国において「核心的利益」という言葉は、国家利益の定義を精査する過程で誕生したというより、台湾問題の中国にとっての重要性、さらに他国(特にアメリカ)への警告と牽制のために用いられた、極めて政治的な用語だった。しかし、本来は中国独自の意味で用いられていた「核心的利益」を、より一般的な国益定義に収斂させようとする過程で、言葉の使用や解釈をめぐる矛盾・混乱が起こっている。
  • 中国国内で「核心的利益」を拡大しようとする強硬派の主張は世論に対し影響力をもつ一方、学術的、論理的に「核心的利益」を分析しようとする見解の中では、この言葉の使用について慎重な姿勢が目立つ。新しく登場した利益・問題を核心的利益と呼ぶべきか否か、核心的利益と認めるべきではあるが宣言すべきでないのか、「核心的利益」でなく別の名称で呼ぶべきなのか、中国国内でも議論や問題意識は様々に分かれている。今後、この言葉の定義がどのように収束していくかは、中国がどのような対外政策方針を展開していくのかによって定まる。
policy_v6_n48

本文を読む
PDF

View more

注目コンテンツ