朝鮮半島統一にまつわる極東のパワーシフト【1】
― シミュレーションの報告と提言―

はじめに

 昨今の東アジア情勢は、ますます不透明の度合いを増しています。ブッシュ米新政権発足後、特に米国と中台との関係、北朝鮮およびロシアとの関わり方において、クリントン前政権とは一線を画した新たな動きが見られる一方、国家ミサイル防衛(NMD)構想との兼ね合いで、中国、ロシアなどでは新たな対米姿勢構築の動きも見られます。東アジアにおける中国およびロシアの動きは、全体としては対米協調的に推移しておりますが、潜在的には依然として脅威であり続けているとする見方もあります。特に昨今の中国側の軍備拡大および若返りによって、その脅威度は高まっており、中台関係においては、中国の台湾への武力行使の可能性が否定できない状況には変化がありません。

 また、近い将来、世界最大のエネルギー消費地となるアジア諸国、特に中国におけるエネルギー需要の伸びが、地域の安全保障にどのような影響を及ぼすのかといった新たな視点も見過ごせない論点の一つでしょう。中国における急激なエネルギー需要の伸びと、その需要を満たすために中国が取る行動は、その如何によってはアジア最大の不安定要因となり得ます。

 その一方で、朝鮮半島に目を移すと、2000年6月の南北首脳会談で盛りあがった半島の和平ムードが、今後どのような展開を見せるかについては未知数でありますし、また南北朝鮮が統一することになったとしても、それがどのようなプロセスを経るのか、また統一される国家がどのような性格を持つのかによって、東アジアの安全保障の状況は、いかようにでも変化し得る事を忘れてはなりません。

 以上の観点から、PHP総合研究所は2000年4月、軍事、外交、経済、国際政治、国際法、国内法の専門家とともに、朝鮮半島統一にまつわる東アジアの力学変化を探るための研究会を立ち上げ、半島統一前、統一過程、および統一後のそれぞれの動きに対する関連諸国の対応と、日本の取るべき選択を浮き彫りにするシナリオ作成に着手、本年2月に最終シミュレーションを敢行いたしました。本報告書は、そこで浮き彫りにされた問題点を整理し、解説を加え、提言の形でまとめたものです。

 本シミュレーションの特徴としては、北朝鮮の核とミサイル問題が解決されないままに朝鮮半島が統一を迎える場合と、事前に何らかの形で核およびミサイルが管理されている場合の二つの状況を想定し、それぞれの場合における周辺国の行動と日本の対応を探ることに重点がおかれました。その結果、核がらみの危機が突発的に発生した場合、日本は主体的関与をなし得ないこと、また北朝鮮の核は日米関係を弱め、かえって中国、ロシアと米国とを密接に結びつける働きをしかねないことが、具体的な問題点として浮上しました。逆にいえば、朝鮮半島統一以前から日本が積極的に半島の核の問題に関与しておかなければ、日本は自国の安全保障の重要な部分を占める半島の軍備の問題に関与し得る道を閉ざされかねないという研究結果でした。

 同時に、統一朝鮮の初期に、国際監視軍や国際平和維持軍などといった国際的な枠組みが必要になった場合、日本がどのような形でそれに参入するのかといったPKOがらみの問題、さらには、在韓米軍撤退時に必然的に問われることになる在日米軍の意義と、アジア太平洋地域の安全保障に対する日本の関与の姿勢、またそれにまつわる法整備などといった重要課題に関しては、朝鮮半島統一への具体的なプロセスが始まる前に、日米双方で十分に協議し、方向性を定めておくべきでしょう。

 これら、本報告書が指摘する論点を、関係者の方々に今後十分に検討していただき、各方面での法整備に役立てていただけるならば、望外の喜びであります。

平成13年4月5日
PHP総合研究所
シミュレーション会議代表
橋本光平

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