マニフェスト白書2010
転換期にあるマニフェスト選挙
参院選前6月20日に実施されたマニフェスト検証大会(21世紀臨調主催)で我われが発表した民主党政権の実績評価のタイトルは“「損ねた信頼、増やした借金」~「友愛」マニフェストの軋(きし)み明らかに~”であった。マニフェストで掲げた政策の実現可能性が低い一方、コストの方は高くついているということである。
これについては、すでに昨年(2009年)総選挙時のマニフェスト検証大会で危惧されており、政権交代を果たした後はマニフェストに拘泥することなく、状況に応じて再検討を行い、きっちりと説明責任をはたしながら修正を加えていくことが望ましいという指摘がなされた。自公政権は、総理交代のたびになし崩し的にマニフェストを変更したにもかかわらず、それについて有権者に説明することがなく、総選挙で敗北することとなった。指摘は、この教訓を生かすべしという、初めて政権を担う民主党に対する「馬のはなむけ」でもあった。
はたして民主党は、今回の参議院選挙に向けてマニフェストを大幅に変更してきた。内容の是非はともかく、変えたこと自体は評価すべきではあろう。しかし、変更の理由をマニフェストに示さなかったのみならず、せっかく掲載した自己評価と政策変更の関連も説明しなかった。これでは、普天間問題や政治とカネの問題で支持率を下げたなかで、起死回生をねらった安直な変更であったと捉えられても仕方ない。教訓を活かさず、有権者を侮ったわけであり、敗北は当然の結果と言える。
参院選マニフェストの評価については、本来すべての政党について行なうべきであるが、マニフェスト発表と公示の期間があまりにも短く、さらに多くの政党が参戦したため、すべてを評価することはかなわず、二大政党のものを評価するにとどまった。報告書のタイトルは“「『決定力』不足のマニフェスト」~民主も自民もディフェンス重視、日本の未来を切り開くのは誰か~”とした。つまり、どちらのマニフェストも日本の将来を託したいと思うほどのインパクトがあるものではなかったということだ。
民主のマニフェストの内容については、政権をとって現実的になった部分や欠落していた分野への言及がなされている点で評価できるが、一方で、唐突に「最小不幸社会」といった新たなコンセプトをあらわしたにもかかわらず、総選挙時の「友愛」との関連性を示さず、前述の政策部分の変更も含めて、昨年の総選挙からの変更理由を説明していない点がもっとも大きな欠陥である。
自民のマニフェストの内容については、構造改革路線に替わる自民党の新しい旗を打ち立てるにはいたらず、財政規律重視で民主党が後追いしたこともあり、民主との違いが目立たなくなったのが特徴となっている。たしかに、長年の統治経験を背景に、包括的かつ具体的な政策を提示してはいるが、逆に言えば、野党に転じたにもかかわらず、与党に対してパンチのある代替案を提示しきれず、これまでのものをそのまま踏襲しているだけとも言える。言葉が過ぎるかもしれないが、与党ボケのマニフェストである。
マニフェスト選挙が行なわれて久しいが、それで日本の政治がよくなったかと言えば疑問である。地方を見れば、マニフェストが自治体の総合計画に反映され、自己評価や第三者評価がなされ、きっちりとPDCAサイクルが形成されているところもある。また、個々の立候補者が好き勝手なことを言っていたマニフェスト以前の選挙に戻った方がよいという人もなかろう。だが、マニフェストが、少なくとも国政においては、うまく機能していないのは事実である。そのためマニフェストという言葉自体が負のイメージを帯び、選挙公約という名前が復活したり、アジェンダという新たな呼び方も登場している。
いまマニフェスト選挙は転換期にある。マニフェストを選挙のための看板ではなく、理念とビジョンとそれに向けた具体的な改革や政策を示す本来の姿に立ち戻らせると同時に、多様な利害を背景にして当選した政治家たちを結晶させる核としなければならない。そうしなければ、政治全体が失った信頼は回復しないのではなかろうか。『マニフェスト白書2010』は、マニフェスト検証大会で発表した報告書のほかに、検証にかかわったPHP総合研究所の研究員による論考を掲載している。いずれも、現在のマニフェスト選挙のあり方に疑問や限界を感じながら、新たな発展に期待をする主旨のものである。
2010年8月
PHPマニフェスト検証委員会
代表 永久寿夫
【内容】
-目次-
はじめに:転換期にあるマニフェスト選挙 永久寿夫
第1部:2010年参院選後の日本の政治課題について考える
- 1.消費税の前に「道州制」を超党派で協議せよ 荒田英知
- 2.「一括交付金」から中央省庁の関与を排除せよ 金坂成通
- 3.「超党派的な外交・安全保障の可能性を追求せよ 金子将史
- 4.学校現場の課題解決に直結する「教員の質と数」の充実策が必要だ 亀田 徹
- 5.日本の未来を切り開くカギは政党のガバナンスを正すことにあり 永久寿夫
- 6.「第三の道」達成には、市場主義とのあわせ技が必要 松野由希
- 7.消費税増税の前に納税者番号制を協議すべし 宮下量久
第2部:『損ねた信頼、増やした借金』
- ~「友愛」マニフェストの軋(きし)み明らかに~
- 新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)主催
- 「政権実績・参院選公約検証大会」(2010/06/20)報告書
第3部:『「決定力」不足のマニフェスト』
- ~民主も自民もディフェンス重視、日本の未来を切り開くのは誰か~
- 新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)主催
- 「政権実績・参院選公約検証大会」(2010/06/20)報告書
第4部:資料
- I.個別政策の評価方法
- II.2009年民主党衆議院選挙マニフェストの個別政策実績評価
- III.2010年参議院選挙マニフェストの個別政策評価(マニフェストの要件を備えているか)
- 1.民主党マニフェスト
- 2.自民党マニフェスト
- IV.各党「マニフェスト」のHPアドレス
詳細については、写真の提言書(A4版、ページ数約90ページ)がございます。
1部・実費¥1,000(税・送料込)を切手にて申し受けます。
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第1部:2010年参院選後の日本の政治課題について考える
21世紀臨調主催「政権実績・参院選公約検証大会」にてマニフェスト評価を発表
6月20日、「政権実績・参院選公約検証大会」(主催:21世紀臨調)において、政権の実績と、参院選にむけた民主・自民のマニフェストを検証した結果を発表しました。
「政権実績・参院選公約検証大会」(2010/06/20)
- <発表内容>
- 1.前回総選挙における民主党マニフェスト再検証
- 2.民主党連立政権の実績評価
- 3.参議院選挙に向けた各党公約の検証(民主党・自民党)
- 4.マニフェストの現状と共有すべき論点・課題
-発表内容1・2・4の報告書-
「損ねた信頼、増やした借金~『友愛』マニフェストの軋み明らかに~」PDF
-発表内容3の報告書-
「『決定力』不足のマニフェスト~民主も自民もディフェンス重視、日本の未来を切り開くのは誰か~」PDF