コロナ禍は見過ごしてきた課題を一気に進めるチャンス

放課後NPOアフタースクール 代表理事 平岩国泰 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、さまざまな自粛に先駆けて、全国の小中学校の一斉休校が発表されました。これによって、子どもたちの日中の居場所はどのように変化したのでしょうか? 変える人No.15にご登場いただいた放課後NPOアフタースクールの平岩氏にオンラインでお話を伺いました。(取材日:2020年6月19日)
 
1、休校中の子どもたちの居場所として
 
――感染拡大防止のため、政府の要請で3月から全国の学校が一斉休校になりました。小学生向けに放課後プログラムを提供されているアフタースクールは、どのように対応されたのでしょうか?
 
平岩:3月2日から一斉休校が始まると同時に、アフタースクールは朝から開校することにしました。通常は放課後だけなので、14時半頃のスタートですが、3月からはずっと、学校の始業時間と同じくらいの8時から開けています。
 
 毎年、夏休みや春休みなどの期間には朝から開けていますので、それ自体ははじめてのことではないのですが、今回は2月27日木曜日に急に一斉休校が決まり、翌週月曜日からの対応を迫られました。スタッフは14時半からの準備しかしていないので、週末もかけて大急ぎで準備して、3月2日月曜日どうにか朝から開けることができました。実はそこから3,4,5,6月と、ずっと朝から開け続けています(※6月19日時点)。
 
 3月20日過ぎからの春休みは毎年朝から開ける準備をしていますから想定どおりですが、4月1日から新一年生が入ってきますよね。「一気に人数が増えて大変だ」というのも毎年あることですが、今年は感染拡大防止にも気を使わなければならないのでとくに大変でした。
 
 本来は新学期が始まれば放課後の運営に戻るはずだったのですが、4月7日に緊急事態宣言が発令されたので、4月5月もずっと朝から開け続けました。6月からは学校が再開され、放課後に戻って一息つけるかと思いきや、分散登校ということで、両親が仕事に出かけてしまうご家庭のお子さんは朝からアフタースクールが必要です。
 
 という感じで、朝からずっと開校している状態も4か月目になりました。
 
――もともと一斉休校は、感染拡大防止のための施策だったと思います。アフタースクールの場合は学校施設を利用されているので、スペースも比較的取りやすかったのではないかと思いますが、一般的な学童は学校よりはるかに密な状態のことが多いですよね。混乱はありませんでしたか?
 
平岩:マンションの一室などにある学童はまさにそうだったと思います。私たちはもともと学校の中で分散して過ごすモデルだったので、こういう状況でも対応しやすかったのですが、それぞれの学校がどのくらい施設を使えるかというところに左右されました。
 
 私たちもふだんからメインで使っている部屋だけに全ての子どもが集まるとギュウギュウになってしまいますが、休校中の校舎は当然ガラガラに空いています。だから、せめて分散して教室で過ごさせてもらいたい。でも、そうすると人手が必要になりますよね。アフタースクールのスタッフだけでは限界があるので、学校の先生たちにも一部手伝っていただきたいというお願いをしたのですが、実はほとんどのケースでだめでした。
 
 ふだんから使っている体育館などは今回も使えたんですが、教室で10人ずつに分散して過ごしたいという提案は、「学童と学校は違うので」ということで簡単に断られてしまいました。
 
 学校と学童が協力しあうべきときでしたが、平時からそうした体制をつくっていないと、緊急時に急にやろうと思ってもできないということがよく分かりました。
 
――アフタースクールくらい学校に入っていても厳しかったんですね。
 
平岩:世間の学童よりは学校との距離もかなり近いほうだと思いますが、今回のケースではふだん以上のことをお願いすることはできませんでした。
 
――利用する子どもの人数はどのような状況だったのでしょう?
 
平岩:3月から4月のはじめまでは大きく減りませんでしたが、緊急事態宣言以降はだいぶ減りました。感染症対策に従事される医療関係者のご家庭と、いわゆるエッセンシャルワーカーと言われるご家庭の利用に限ったので、通常の1割くらいの人数でした。
 
――保育園なども登園自粛になったりしていましたね。
 
平岩:自治体によって案内の仕方が違っていたのですが、今回いちばんスムーズだったのは、一度学童を閉じるという方法だったと思います。一旦閉じたうえで、それでも必要な人は再申請をして利用してくださいという流れです。そうするとやはり利用者は1割くらいに減ります。
 
 当時は私たちも自分たち自身の感染症のリスクがあったので、子どもたちもなるべく家で過ごしてもらい、登校する人数が少ないほうがありがたい状況でした。
 

2、オンライン化で生まれた距離を超えた友情
 
――子どもたちの様子はいかがでしたか?
 
平岩:一斉休校の通達は本当に突然のことだったので、木曜日に決まって、翌週の月曜日から休校で、「えっ金曜日来て終わり?」という戸惑いが見られました。突然だったのでどうやって過ごしたらいいかもわからないし、学校側も混乱していました。ですので、学校と子どもの連絡体制もできておらず、3月以降一度も学校や友人と繋がっていない子も数多くいました。そこで、私たちが率先して機動力を発揮して、「つながりたい人たちはどうぞ」とオンラインで友達や私たちと繋がる場を設けると、とても喜んでくれました。
 
 子どもたちもまさに社会と隔絶されたような状況になっていましたが、誰かとつながっておしゃべりができて、画面越しにでも友達の顔を見て、みんな同じような感じなんだということが分かれば、安心できるんですよね。
 
 学校は 「誰かひとりでもつながらない子が出ることは許されない」という足かせがあって、なかなかオンラインに踏み切れなかった。悪平等という指摘もありましたが、行政が公平性を大切にするのも理解できますから、私たちが率先して機動力を発揮し、どんどんやれることをやっていきました。つながれない子もいるかもしれないけど、つながれる8割、9割の子をカバーしようと。それがやれたのはよかったなと思います。
 
――通常のアフタースクールでは、スポーツをやったり、アートをしたり、遊んだり、子どもたちがいろんな放課後の過ごし方をしていたと思います。オンラインではどのようなことをされていたんですか?
 
平岩:前半はオンラインでつながっておしゃべりしたり、クイズやなぞなぞを出したりといった程度だったんですが、後半はダンスなど、習い事のようなものも再開していきました。学校のリアルな場ではそういった活動は休止していたんですが、オンラインでは先行して始めましたし、リアルでも7月をめどに再開しようと考えています。子どもたちもすべて中止ばかりではいけませんので。
 
――アフタースクールに来ているお子さんは、どのように過ごしていたんですか?
 
平岩:午前中は学校から出た課題をやったり、学校によってはオンライン授業を受けたりもしていました。午後はめいめいの好きな遊びをしたり、校庭や体育館で体を動かしたりしていました。
 
 おもしろかったのは、オンラインで全国のいろんな学校や学童の子どもたち同士がつながれたことです。オンラインでつながった先にはいくつもの学校や学童の子たちがいて、違う学校同士の子どもたちが友達になったりするんです。東京の子と岩手の子が友達になったりして、ゴールデンウィーク頃に岩手の子が「これから桜だ」と言うのを聞いて東京の子たちが驚いていたりして、ああこういう効果もあるんだなと思いましたね。
 
――アフタースクールが入っている学校に限らず、いろんな学校とつながられたんですか?
 
平岩:オンラインでコンテンツを提供するにあたって、自分たちが運営しているアフタースクールに加えて、せっかくだから全国の学童さんもよかったら参加して一緒に遊びませんかと呼びかけたんです。そうすると色々な地域の学童さんが参加してくれました。そういう全国のつながりができたことも大きな収穫ですね。
 
――オンラインコンテンツの提供はどのようにされたんですか? Zoomとか?
 
平岩:本部で配信部隊をつくって、Zoomでつながってというかたちでした。最初は単純になぞなぞを出すとか、そんな感じだったんですが、映像に向いた企画をするようにしていきました。
 
――自宅にいる子どもは、家庭にあるパソコンやタブレットを使って参加していたのだと思いますが、学童にいる子どもたちはどうやって参加していたのでしょうか? 学童でデバイスを持っているのか、子どもたちがスマホなど持っているものなのか。
 
平岩:本当は各地の学童が持っているデバイスを使いたいんですけど、それがあまりなかったんですよね。そもそも持っていなかったり、持っていても事務用の一台しかなかったり、行政に確認したら目的外使用は認めないと言われてしまったり。結果的にはタブレットをこちらから貸し出して参加してもらったところもあります。

3、ふだんからやっていないことは緊急時にもできない
 
――休校中の子どもたちの学習支援に関する課題として、物理的にプリントを配布している学校が多いと聞いていますが、オンライン授業に切り替えるにしても、デバイスを持っていない家庭や固定回線を引いていない家庭も少なくないと言われています。さらに3月、4月はZoomのセキュリティ面の脆弱性が懸念されていて、学校現場や行政では使いにくかったそうですね。
 
平岩:そうですね。保護者の方まで含めれば、ご家庭になんらかのデバイスはあるケースが多いですし、回線も大体なにかしらある。それでもどうしても対応できないというご家庭も一定数出てはきますが、そういう子たちは学校に来て、学校のデバイスや回線を使えばいいのではないかと思っています。全員が同一のデバイスでなくても、スマホがあれば画面は小さくても見られますし、テレビにつないで映すこともできます。
 
 それでもどうしても難しいという場合は、個別にフォローできると思うんです。私たちは色々な学校の対応を今回見ましたが、対応ができた学校とできていない学校では、完璧でなくてもできることからやろうとしているか、完璧でなければ始められないといってできない理由を探そうとしているかという姿勢の違いが最初にあるように思えました。
 
――みんな同じラインにそろうまで何もできません、とするのか、できるところからやってみて、零れ落ちたら個別にフォローしますとするかの違いは大きいですね。
 
平岩:結果的に、今回は私立校と公立校の対応の差が大きかったです。私立は学費もいただいているので、なにかやらなければならないというプレッシャーがあったのかもしれません。それがスタートラインだとしても、やれることから探すか、できない理由を探すかという姿勢の違いが、今回は私立と公立の間で、対応に大きな差を生んだのではないかと思います。
 
 
――私企業に近い私立の学校のほうが、理事長の考えで動けるので、意思決定は速そうですね。
 
平岩:ある私立校では14時半まではそれぞれの教室で先生が子どもたちを見て、14時半以降はアフタースクールで、という対応を3月からずっと続けていました。公立校でも一部そのように対応している市がありました。登校している子どもたちも少ないので学年でまとめていることが多かったのですが、午前中はクラスメイトと先生と教室で過ごし、放課後はアフタースクールで、と一日の中で変化のある過ごし方をできたことはよかったと思います。誰かに過剰に負担がかかりすぎるのはよくないし、子どもたちも、密を避けるということももちろんありますが、固定した部屋や固定した関係で一日中いるのはつらいですから。
 
 結果的にはそれが理想のモデルだったと思います。学校は文科省、学童は厚労省と一般的には管轄が違うので、公立の場合はそれを超えた方が判断しないとこのような連携は生まれません。私立はその縦割りの壁がないことは有利でした。一方公立でも市長や教育長のリーダーシップがあれば十分に可能でした。
 
――そうした連携のかたちはコロナの前からできていたのでしょうか?
 
平岩:そうですね。ふだんから学校との関係ができていたし、学校中の教室を使ってアフタースクールをやるのも当たり前だったので、人の面でも場所の面でも、連携が日ごろからできていました。そうなると緊急時の対応も早いですよね。
 
 逆に言うと、ふだんからやっていないことは、緊急時に急にはできませんよね。
 
――給付金のこともまさにそうですよね。マイナンバーと口座を紐づけておけばよかったのに、それがなかったから、本当に困窮している人にいきわたるにも時間がかかっています。
 
平岩:マイナンバーも本来はこういうとき使えるように、平時から準備しておくべきだったのだろうと思います。導入のときにつまづいてしまったのが今の状況を生んでしまっていて、それでも主旨を説明してしっかりと進めておくべきだったと思います。オンライン授業も同じではないでしょうか。
 
――オンライン授業が平時から整備されていれば、不登校でも授業を受けられるかもしれないし、毎年のインフルエンザなどで学級閉鎖になっても授業を止める必要もなくなりますよね。
 
平岩:最近の夏の暑さを避けるためや、自然災害などで学校が再開できないときにも使えますし、オンライン学習ならではの利点としては、外国のゲストに参加してもらうとか、ほかの学校や学年とつながって同時並行で授業を行うこともできますよね。
 
 そう考えると、オンラインはオンラインでこれからも使っていって、リアルの授業とハイブリッドしていくことは絶対に必要ですよね。コロナ前までは、構想はありながらも、ちょっと脇に置いておいて、という感じだったと思いますが、一気に進めるチャンスだと思います。
 
――学校でなくても、企業の会議や営業活動、在宅勤務など、オンライン化はできない、うちでは無理といっていたところもやらざるをえなくなって、やってみたらこれまで挙げられていたできない理由は思い込みだった、ということに気が付いた面も多々あったと思います。
 
平岩:その通りだと思います。この取材もまさにそうですよね。すぐつながれて、お互いに移動の時間や交通費を使う必要もない。大きいですよね。
 
――アポイントはむしろ取りやすくなったとさえ思います。

4、オンライン授業の可能性
 
――子どもたちはオンラインに適応していますか?
 
平岩:子どもたちの適応は本当に速かったです。おもしろかったのは、小学校でZoomで授業をしていたら、「Zoomごっこ」のような遊びが流行りだしたことです。先生役と生徒役に分かれて、子どもたちが授業ごっこをしているんです。ブレイクアウトルームも軽々と子どもが使いこなしています。
 
 いまの小学生は本物のデジタルネイティブですから、放課後の遊びでもタブレットを使って映像をつくったりしている子も多いですね。大人とは感性が違いますし、タブレットもどんどん進化して、直感で操作することができますから。
 
 幼稚園生も使いこなしていますよ。ミュートとか当たり前に切り替えています。
 
――アイコンの感じでわかるんですね。アフタースクールは低学年を中心に小学生が対象だと思っていましたが、幼稚園生向けのコンテンツも提供しているんですか?
 
平岩:幼稚園のアフタースクールを2つ運営していて、おうちにいる幼稚園児向けにオンラインでのプログラムの提供を少しずつ始めました。もちろん、親御さんが横にいながらということになりますが、最初につなぐところだけやってしまえば、あとはもう親御さんが席を外しても成立しています。
 
――子どもたちの学習状況などはどうですか? 今年小学校に入学した新一年生は、入学式もできず、ずっと休校という状態が続いていたと思います。ある程度の年齢からなら、教科書を読んでおくとか、プリントを解くといった自主学習もできると思いますが、基礎的な読み書きや四則計算をこれから習う子では、それも難しいですよね。
 
平岩:一年生は今回保護者の方が特に大変だったと思います。また読み書きのスタートも例年と比べるとどうしても遅れがあると思います。でも、十分取り戻せるんじゃないでしょうか。ここからどうするかですよね。
 
 オンライン授業は、通常の授業のペースと比べると6割くらいの進度という感覚です。どんなにやっても、オンラインで6時間目まできっちりやるのは難しいので、通常の3,4時間目くらいまでの感じですね。
 
 しかし、いい意味での余白が生まれるので、いろんなことを考えたり、復習も含めた自習をやったりしていけば、取り戻せないほどの遅れを恐れなくてもいいのではないかと思います。やっぱりリアルに学校に来てもらったほうが、学習の生産性は高いと思いますが、オンラインだと通学時間やそれに伴う準備時間は得をしますし、精神的な安息を得る子もいるでしょう。そして何と言ってもオンラインは世界中につながりますし、オンラインだからこそ授業に参加してくださる社会人などもいます。だから、ハイブリッドが理想だと思います。
 
――オンラインとリアルでは、子どもたちへの目の行き届き方は違いますか?
 
平岩:オンライン授業でよく言われていたのは、ふだんなかなか手を上げられない子でも、チャットで発言しやすいということ。「いまのところわかりにくかった」といったコメントが入れば、先生もそれを確認しながらフォローしていけます。子どもたちからのフィードバックをもらいながら授業の軌道修正を繰り返していくという点ではオンラインのやりやすさもありますし、当然リアルにはリアルのよさがありますし。
 
 コロナが収束してからも、私は週に1日くらいはオンラインで授業する日があってもいいんじゃないかと思っているんです。もう少し少ないペースでもいいから、とにかく続けていくべきです。これでいきなりコロナ前に戻って、リアル100-オンライン0にしてしまうと、また次に災害が起きたとき同じ混乱が起きてしまいます。それだけは大人の責任で避けていきたいです。
 
――避難訓練じゃないけど、練習として、という感じですね。
 
平岩:そうです。そう考えると、生産や流通が通常モードのときにデバイスをそろえておくべきだし、どの家庭がつながりにくいかといったことも確認しておくべきです。デバイスに関しては、予算を組んで購入する方法ももちろんありますが、現物の寄付を募るとけっこうな数出てくるんじゃないかと思うんです。タブレットが家に余っているという人もいますよね。そういう方や企業にお願いしたら、提供してくださる方もいるのではないでしょうか。
 
――ガジェット好きだと、最新モデルが出るたびに買い替えるという人もいますからね。
 
平岩:一人一台以上のデバイスがある家庭もありますよね。そういう方にお願いして使っていないデバイスの提供をお願いしたら、持っていない家庭の分もカバーできるのではないかと思っています。
 
 
*第二回「教育現場と子どもの世界のニューノーマル」へ続く
 
 
平岩 国泰(ひらいわ くにやす)*1974年、東京都生まれ。2004年、第一子誕生を機に放課後NPOアフタースクールの活動を開始。子どもの放課後を安全で豊かにするため、学童保育とプログラムが両立した「アフタースクール」を展開。プログラムは地域の大人を「市民先生」とし、子どもたちに提供している。衣食住からスポーツ、音楽、文化、学び、遊び、表現まで多彩な活動を展開し、現在までに参加した子どもは累計のべ100万人を超える。グッドデザイン賞を4度受賞。2019年6月より、学校法人新渡戸文化学園の理事長に就任。
 

関連記事