コロナ危機が寄付と投資に与える影響

日本ファンドレイジング協会 代表理事 鵜尾雅隆 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

 コロナ危機はソーシャルをめぐるお金の流れにも大きなインパクトを与えています。「変える人」では、2015年10月の「変える人」No.22にご登場いただいた日本ファンドレイジング協会の鵜尾雅隆氏に、コロナ以前の近年のソーシャルセクターのお金の流れの状況や、コロナ危機を受けた動向をお話いただきました。
 
――日本ファンドレイジング協会も加盟している新公益連盟では、新型コロナ対策のクラウドファンディングに取り組まれています。ソーシャルセクターで取り組めるコロナ対策には、どのようなものがありますか?
 
鵜尾:時間の流れで言うと、初期ステージと中間ステージとこれからのステージに大きく分けられます。初期ステージは医療従事者支援でした。医療機関にマスクを届けますとか。ダメージの大きい中小企業や居酒屋を支援する取り組みもありましたが、この状況下でだれがどう見ても困っている人に対する支援が始まったのが3月末から4月でした。ヒットしていたのはマスク支援でしたね。
 
 4月の後半に入って、給付金が出るという話が出てきたあたりから、弱者支援が増えてきました。貧困者やホームレスが新たに生まれるかもしれないとか、シングルマザーが大変だとか、DVが増えているといった課題が共有されてきて、直接的なコロナの感染拡大防止ではないけれど、困っている人たちに対するケアをしようという寄付キャンペーンが増えてきたというのが、第二ステージとしていま起こっていることです。
 
 パラレルに少数あるのが、「経営が危機的状況です」というので、団体の存続の危機に面して支援を求めるクラウドファンディングですね。
 
――非営利で活動されているソーシャルセクターの団体の場合、財務状況が健全だったとしても、一般の営利企業と比べると内部留保がないのではないのかと思うのですが、全体感として状況はいかがですか?
 
鵜尾:岡山NPOセンターが、全国のNPO約1,000団体の調査をしているんですが、その中では8割の団体がコロナの影響を受けているという回答があったということです。財政的な影響は千差万別なんですが、例えば、事業型の団体の場合で言えば、イベントができないとか、請け負っていた企業研修が止まってしまったとか、けた違いの収益減が起こっているケースがあるのは事実です。事業収入型でやっているNPOで、人が動くモデルでやっているところは影響が大きいと思います。
 
――その意味では寄付型のNPOのほうが事業型NPOと比べると安定しているのでしょうか。
 
鵜尾:寄付型の場合はまた別の軸があって、コロナ関連の寄付に法人寄付が流れてしまって、企業の協賛が止まったり、アドホックにもらえていた助成金がコロナシフトになってためにもらえなくなったりといったことが起きています。寄付型の団体でもコロナ支援に関係しているところはお金がむしろ増えていると思いますが、関係のないところは下がっているという傾向があるようです。
 
 また、寄付型の団体でも、支援者とイベントで接点を持ってファンを増やしているところが多いので、そういう団体の場合は接点がつくれなくなって支援が減ったり、そうしたイベントの際に冠スポンサーとして企業からもらっていた寄付がもらえなくなったりして、イベントがなくなると寄付収入がなくなるということもありますね。
 
――コロナ関係の活動をしている団体というと、どのようなところがありますか?
 
鵜尾:最初は医療系でしたが、日本は医療系の非営利団体は少ないので、いまは弱者支援がメインですね。貧困世帯の子ども支援、ホームレス支援、子ども食堂といったものです。子ども食堂も食堂は開けないので、家庭訪問をしたりしていて、そうした活動に対する寄付が伸びていたりもします。
 
 子どもたちが学校に行けていない中で、Eラーニングを支援する活動もあります。貧困世帯にはパソコンもなかったりするので、パソコンを貸与してEラーニングをできるようにしたり、情操教育やキャリア教育をやるようなNPOも出てきています。アート系の団体も寄付が集まっていますね。
 
――新公益連盟が行っているクラウドファンディング以外にも、ソーシャルセクター全体として横で連携した動きなどはありますか?
 
鵜尾:資金の受け皿としては、「新型コロナ寄付プロジェクト」(Yahoo!、トラストバンク、パブリックリソース財団の連携)や「全国47基金」などがありますが、支援組織自体の新型コロナ関連での新たなネットワーク組織はあまりないと思います。震災は災害の拠点がはっきりしているので、東日本大震災のときには、全国のNPOなど支援活動をしている団体のネットワーク組織ができたりしたのですが、いまは1億2,000万人全員被災者みたいな状況なので、それぞれがそれぞれのかたちで動いているというかたちで、情報共有は進んでいますが、それをコーディネーションするような動きはあまりない状況なのだと思います。
 
 

――前回の取材から約5年が経ちました。2015年当時、「善意の資金10兆円規模を目指して、2020年までに必要なインフラを設計する」と伺っていましたが、この5年間でソーシャルセクターのお金の様子はどのように変わりましたか?
 
鵜尾:この5年間で、3つの軸で大きな変化がありました。一つ目は、遺贈寄付が伸びていること。二つ目は、社会的インパクト投資が伸びていること。三つ目は子どもたちへの社会貢献教育が拡大していることです。
 
 一つ目の遺贈寄付ですが、去年、一昨年はほとんどの主要雑誌や新聞で、遺贈寄付の特集企画が組まれました。かつては、相続の話自体がタブーのように扱われていましたが、相続税法の改正にともない、「終活」を取り上げる媒体が増え、ありとあらゆるメディアで、「相続」は売れる企画になったという流れがあります。相続税法改正により、きちんと対策をしていないと、相続税率が高くなってしまうので、真剣に考える人が増えたんですね。相続税対策を行う上で、2割くらいの方は遺贈寄付を選択肢として考えるという数字があるので、相続税について考える人が増える流れの中で、遺贈寄付に関する関心も高まっています。
 
 二つ目のインパクト投資は、社会的リターンと経済的リターンの両方を追いかける投資です。これも伸びてきていて、日本でも4,000億円を越え、早晩一兆円を越えていくだろうと見ています。投資家の行動変容が起きているということです。
 
 三つ目の軸は、子どもたちへの社会貢献教育ですが、今年度から高校で、SDGsの教育が始まります。今年からSDGs教育が入り、2022年からは「公共」という授業が高校で必修化されます。これは地域貢献などさまざまな社会貢献を教えるもので、2年ほど前に中教審で決まった流れです。
 
 このように、お年寄りの行動変容、投資家の行動変容、子どもの教育という3つの軸で変化が起きています。
 
――遺贈寄付を選択される方は、相続人のいない方が多いのでしょうか。
 
鵜尾:いわゆる法定相続人が全くいないというケースが多いわけではありません。子どもはいなくても、兄弟や甥、姪はいるなど、なんらかの相続人はいるケースが多いのですが、生涯未婚率が20-25%に達している中、引き継ぐ相手、より正確に言えば、「引き継ぎたいと思える相手」がいないという方は増えています。自身の遺産が会ったこともないような親戚に渡るということに対して、それでいいのかな、と思うんですね。兄弟や親せきと疎遠になっているような人だと、「あの人には渡したくない」というケースも少なくないです(笑)。お子さんがいらっしゃって、基本はお子さんが相続するけれども、1割は社会貢献に充てたいという方ももちろんいらっしゃいます。
 
 核家族化などで引き継ぎたいと思える人がいないという人が増えていることに加え、社会貢献意識の高まりの中で、自分の人生の意味を考えて、なにか次世代に残していこうと思ったという方が増えてきた、ということだと思います。
 
――寄付先はどのようなところが多いですか?応援している活動団体を指定されるのか、あるいは基金や財団に寄付したりされる方もいるのでしょうか。
 
鵜尾:いまのところは団体を指定される方が多いと思いますが、基金のようにされる方もいらっしゃいます。「子どもの貧困の解決を支援したいのだけど、10年くらいかけて継続的に活動を支援してほしい」など、どこかの団体というよりも、特定の課題に対して高い関心をお持ちの方は、基金を選択されることがあります。
 
――団体を指定される場合は、やはりもともと応援している団体があるのでしょうか。それとも、「こういう分野で活動している団体に寄付したいけれど、どの団体がいいですか」といった相談があるんですか?
 
鵜尾:海外では大半の人が人生の中で自分が応援している団体、ここが好きだという団体があるので、遺贈寄付の先もだいたいそうなるのですが、日本の場合は違っていて、自分が応援したいという心に決めた団体がない状態で、自分が死んだあとのこと考えて、寄付したくなって情報を探すケースが多いですね。大手の団体で、年間何百件という寄付を受けている団体でも、そのうちの半分くらいが、はじめての寄付として遺贈寄付を受けているというケースもあるんです。「ネットで見て」とか、「名前を見たことがあったので、調べてみて」といったかたちです。
 
 日本ではこの状態がおそらくあと5年ほどは続くと思うのですが、世界的には非常に珍しい現象で、海外の人に話すと「そんなことがあるんだ」とびっくりされます。人生の集大成としての社会貢献ですから、一見さんのところに支援しようとは普通思わないだろう、人生の初めての寄付が遺贈寄付なんてことがあるんだ、と。そのくらい急速に遺贈寄付への関心が高まっているということでもあります。寄付体験を積む前に、関心のほうが先に高まって、寄付経験がいきなり遺贈寄付になるということですね。
 
 寄付経験があっても、共同募金会や赤十字といった仕組みの出来上がった団体に寄付されてきた方が多いと思いますが、人生の集大成を考えるときに、「それでいいんだっけ?」と思って、いろいろ考え始めるということですね。
 
――寄付先は認証NPOではなく認定NPOが多いのでしょうか。
 
鵜尾:その傾向はありますが、実は認定NPOであろうと認証NPOであろうと、遺贈寄付を遺言でやる分には、寄付者のご家族にとっては税法上まったく扱いが変わらないんです。遺言で寄付が決まっていると、寄付分は相続財産から切り離されることになりますから。ですから、寄付金の行き先が認定NPOだろうが認証NPOだろうが、企業だろうが個人だろうが、相続財産から切り離されるので、相続税もかからないんです。相続人が、いったん相続したお金を、被相続人の遺志に従って寄付するということになると、10か月以内に寄付すれば相続税から切り離されるんですが、その場合は認定NPOでないと税制優遇の対象にはなりません。
 
 基本的に認定NPOのほうが信頼度が高いと思われているので、公益社団・財団や認定NPOが寄付先として選ばれやすいということはあると思います。その最大の理由は、永続的、あるいは長期的に活動してくれる組織でないと心配だということです。せっかく遺言状を書いて寄付の意思を示したのに、亡くなる頃には解散していたなんてことがあると残念ですから。
 
――末期がんなどの場合、自分の死期も予想しやすくなると思いますが、そういうケースでは、寄付先にあらかじめ知らせておくんですか?
 
鵜尾:受け取る側に事前に知らせているということは実はそれほど多くないと思いますが、受け取ってもらえるかどうかの確認や相談があるケースもあるようですね。
 
 以前ある団体から聞いた話では、末期がんでお亡くなりになる直前の方から遺贈寄付のお申し出があり、通常は寄付を受け取ってから出す感謝状を、その方の生前に出されたそうです。そうすると「自分の生きた意味があった」と涙を流して喜んでくださったそうで、人生の集大成で誰かのために何かするということが、やはり人間の幸せとつながるんだなという感じがします。

――インパクト投資についてお伺いします。こちらも伸びているということでしたが、どういうかたちで投資が行われているのでしょうか。
 
鵜尾:これはいわゆる出資ですね。ベンチャーキャピタルに対する通常の出資と同じようなかたちだったり、債券のかたちであったり、かたちはさまざまですが、パーセンテージは高くなくても経済的なリターンも期待する投資です。投資ですから、もちろん返ってこないリスクもあります。ただし、社会的な課題解決もリターンとして期待する、というものですね。
 
――となると、NPOには投資はできないので、投資先は株式会社になるのでしょうか。
 
鵜尾:株式会社形式でソーシャルビジネスに取り組んでいるところになりますね。
 
――そうした寄付、投資の両面について、新型コロナウイルス感染症の影響はありましたか?
 
鵜尾:寄付に関しては、実は最近寄付に関する取材の依頼が非常に増えています。4月末から3日に1回くらい取材を受けているような状態です。
 
 これは給付金の支給が決定したことの影響が大きいようです。給付金が全国民に出ることになったので、自分は必要ないので寄付すると言っている方も多いんです。5月1日に発表になったある財団の調査によると、21%の方が、一部でも給付金を寄付したいという意思を示しているそうです。
 
 そういうこともあり、いま寄付のプロジェクトがたくさん立ち上がっていて、たとえば三菱UFJファイナンシャルグループがあしなが育英会に5億円寄付したり、有名Youtuberが自ら1億円を寄付してみんなに寄付を呼び掛けたりだとか、いろんな動きが出ています。東日本大震災ほどではないですが、いま寄付が盛り上がっているということは間違いないです。
 
 インパクト投資に関しては、いまの段階では動きはそれほどありません。いまはまだ緊急対応なので、政府の補助金的なお金や寄付の話が重要なフェーズです。
 
 世界的には、現在の経済危機を受けて、とにかく仕事を復活させなければならない、失業者が大量に出てくる中で、セルフエンプロイメント、自分でスモールビジネスを起こす人たちを増やしていかなければ経済が回らないという危機感があるので、失業した人がスモールビジネスを始めるための投資などは、これから世界中で出てくると思います。
 
――日本でも出てくるでしょうか。
 
鵜尾:日本でのインパクト投資がどういうふうになっていくか、いまはまだ読み切れないところがありますが、リーマンショックと経済危機という意味では似ていますよね。今回のほうがダメージが深いですが。日本にもリーマンショックの影響はもちろんあったんですが、欧米と比べると、そこまで深刻なダメージにはなりませんでした。短期的には寄付額が下がったりもしたのですが、長期的には資本主義の限界といった議論が起こってきて、むしろ富裕層は寄付や社会的投資をするようになっていきました。弱者に対する共感や連帯感のようなものが生まれたというか、みんなでこの難局を乗り切ろう、という思いが広く共有されたんですね。
 
 いまの日本もそのときと似ている空気があって、「みんなで応援しよう」とか「アーティストが苦しいならみんなで支えよう」といった動きが見られます。日本社会はこれまで過度な個人主義のようなものが強かったんですけど、自己責任とは言っていられない状況になりましたから。シングルマザーも、貧困も、自己責任を問うてもしかたがなくて、誰もが失職する可能性があるという状況で、社会的な課題や弱者に共感して寄り添いやすい空気が日本全体に生まれているように思います。これはインパクト投資にとっても寄付にとっても追い風と言える状況なんじゃないかなと思います。
 
――5年前の取材では、日本国民は体験の共有によって変わりやすい面を持っていて、国民の51%以上が同じような感情や体験を共有すると一気に物事が動くことがあるというお話を伺いました。その意味で、東日本大震災も大きな経験だったと思いますが、今回の新型コロナウイルス感染症は日本全国どころかグローバルに全世界が先進国も途上国も関係なく同じ体験を共有しているということがとても大きいように思います。
 
鵜尾:世界中のつながりも深まっていますし、物理的な分断や距離はできていますが、みんなで力を合わせてやっていこうという機運は高まっています。とくにソーシャルセクターでは、海外との壁がなくなって、かえって会議が増えています。
 
 コロナはこのグローバル時代は言葉通り世界中を旅してしまうので、日本だけ抑え込んだところで、ブラジルで感染が拡大すれば日本にも跳ね返ってきてしまうし、アジアで起こっても当然そうですから、他人事ではないんですよね。だから、いい意味での連帯感が世界の共有言語になっていくというか、「情けは人のためならず」ということですよね。

――お金の流れでいうと、新型コロナウイルス対策として休眠預金を活用した助成も行われるということですね。
 
鵜尾:休眠預金等活用法に基づく助成金や出資金の上限はもともと年間40億円だったのですが、最大50億円までコロナ対策で使えるようになりました。
 
――休眠預金の活用に関する法律ができたことの影響はどうでしたか?
 
鵜尾:昨年活用が始まってまだ初年度が始まったばかりですので、影響の評価はこれからなのだと思います。今回の新型コロナ関連対策の増額分では、状況に鑑みてさまざまな手続きを簡素化することになったようです。
 
――補助金については、「手続きにのっとって正しく使われたかどうか」にばかり評価軸が置かれていて、その結果どんなインパクトが生まれたのかにあまり目が向いていないという反省があったと思うのですが、実はこれは日本の働き方にも通じる話だと思っています。朝決まった時間に会社に来て、決まった時間までそこにいることが大事で、その結果なにをしたかももちろん評価されるけれど、それ以上に来てそこにいることが重視されていたようなところがありましたが、コロナの影響で在宅勤務の導入が進んだことによって、そうした慣習が大きく崩れたように感じます。プロセスが見えにくくなったことによって、プロセスよりもなにをしたのか、その成果に着目せざるを得なくなった。そういう流れが、補助金や休眠預金などについても適用されるといいですよね。
 
鵜尾:NPOセクターに限らず、日本社会全体に言えることだと思いますが、いい意味での成果指向というか、結果が出ていればそのプロセス自体をがちがちに管理するという発想から離れるということが大事だと思います。
 
 テレワークや自由な働き方もそうした発想がベースで必要になりますよね。補助金などでは、もちろん適切な資金の使用は必要ですが、日本の補助金制度は大変厳密で厳しい管理を求めていると思います。その点を柔軟化させて、限られた資源をより変化につなげるとともに、現場で本質的な活動の質の向上に役立つような、評価のモデルの進化が必要だと考えています。新型コロナの状況下で、限られた社会資源をどう有効活用して、困っている人たちを最適に支援していけるかがより問われていると言えるでしょう。
 
――NPOに限らず一般企業でも、コロナ禍を受けて活動内容や事業内容を見直したり、在宅勤務などの働き方の工夫をしているところも増えていますが、そうした動きは進んでいますか?
 
鵜尾:オンライン化は急速に進みましたね。もともとNPOセクターは子育て世代の女性が多いので、一気に在宅が進みましたし、NPOセクターの人がオフィスにいるという様子を見なくなりました。
 
 ファンドレイジング協会でもセミナーや研修をしていますが、オンライン化したことで、むしろ集客力は上がって、参加する人が増えました。東京で開催していたときは、東京まで来なければいけなかったんですけど、オンラインなら北海道からでも沖縄からでも参加できるので、いままで会えなかった人たちとたくさん会えるなと感じています。
 
 ただ、NPOセクター共通の課題としては、事業型であれ寄付型であれ必要な共感性をどうつくっていくかというものがあります。企業から業務委託を受けるにしても、企業の人と会って話をする中でパッションに共感してもらって一緒にやりましょう、ということになるので、いまは過去の貯金でやっているところはあるんですが、オンラインでは新規の関係性の開拓がなかなかしにくいところがあります。NPOは企業や支援者にとって絶対に必要なサービスではなく、気持ちが乗ったら応援しますというケースが多いので、オンラインでは気持ちを乗せにくいというところが課題です。
 
――すでに親しい相手ならともかく、オンラインだと少し距離を感じてしまうかもしれませんね。
 
鵜尾:そういう中でNPOのファンドレイジングを見ていると、真正面を見てしっかり語り掛けるというようなスタイルの映像をYoutubeにあげて発信するようなところに、やはり寄付が集まりやすいようです。
 
――コミュニケーションの取り方や関係性の作り方の前提が変わっていきそうですね。
 
鵜尾:これまではリアルで行ってきたファンドレイザー研修も、非常事態宣言が出そうだったので、開催3日前になってオンライン化することを決めました。満足度が下がるんじゃないかとどきどきしながらやってみたんですが、オンライン化してから開催直前にばたばたと追加申し込みがあって、満足度も高かったんです。
 
 4月にも、「ファンドレイザーはいまなにを考えるべきか」というオンラインセミナーをやったんですが、そこには130名くらいが参加しました。これまでリアルで開催してきたときは、どんなに集まっても50名くらいだったんですが、エルサルバドルから参加されている方もいました。全国どころか世界中から参加する人がいて、「オンラインでなかったら参加できませんでした!」と喜んでもらえました。
 
――物理的な距離の壁は逆に一気に超えられた感じがありますね。
 
 
→後編(「2020年は『選択する寄付元年』になる」)に続く
 
鵜尾 雅隆(うお まさたか)*認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会代表理事。
GSG 社会インパクト投資タスクフォース日本諮問委員会副委員長、(株)ファンドレックス代表取締役、全国レガシーギフト協会副理事長、寄付月間推進委員会事務局長、非営利組織評価センター理事、JICAイノベーションアドバイザー、大学院大学至善館特任教授なども務める。JICA、外務省、NPOなどを経て2008年NPO向け戦略コンサルティング企業(株)ファンドレックス創業、2009年、課題解決先進国を目指して、社会のお金の流れを変えるため、日本ファンドレイジング協会を創設し、2012年から現職。認定ファンドレイザー資格の創設、アジア最大のファンドレイジングの祭典「ファンドレイジング日本」の開催や寄付白書・社会投資市場形成に向けたロードマップの発行、子供向けの社会貢献教育の全国展開など、寄付・社会的投資促進への取り組みなどを進める。
2004年米国ケース大学Mandel Center for Nonprofit Organizationsにて非営利組織修士取得。同年、インディアナ大学The Fundraising School修了。
著書に「寄付をしようと思ったら読む本(共著)」「ファンドレイジングが社会を変える」「NPO実践マネジメント入門(共著)」「Global Fundraising(共著)」「寄付白書(共著)」「社会投資市場形成に向けたロードマップ(共著)」「社会的インパクトとは何か(監訳)」などがある。

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