「よさそうなこと」ではなく「本当に変わること」を

NPOマネジメントラボ 代表 山元圭太

山元氏スモーキーマウンテン写真
山元さんの原点とも言えるスモーキーマウンテン(写真提供:山元圭太氏)

山元さんのインタビュー第1回、第2回はこちら:「NPOの経営マネジメントのプロになりたい集めたいのは『お金』じゃなくて『仲間』
 
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高まり始めたNPOマネジメントのニーズ
 
 山元さんが経営コンサルティングファームとNGOかものはしプロジェクトでの実務経験を活かし、学生の頃からの目標であったNPO向けの組織マネジメント支援を始めたのは、かものはしプロジェクトに入職して3年が過ぎた頃――いまからおよそ3年前のことだった。
 
「経営コンサルティングファームに勤めていたころは、それが事業として成り立つイメージが湧きませんでした。NPOの財政的な厳しさも、そういうNPOに対するマネジメントでは十分な収益があげられないこともわかっていたので、仮に社内でNPO向けのプロジェクトを立ち上げようとしても、まず承認されなかったと思います」
 
 営利企業を対象としたコンサルティングと同等の報酬をNPOから得られるとはとても考えられず、入社式でも「3年で辞めてNPOの経営コンサルになりたい」と宣言し、ことあるごとに直属の上司や担当役員にもその夢を話していたため、周囲からの理解はあったが、それでも「うちでやるのは厳しいね」「それはお金になるのか」と言われ続けていた。
 
「コンサルを辞めてすぐにNPOのマネジメント事業を始めなかったのは、その時点では何より僕自身もまだまだ力不足だったし、そういうものが事業として成り立つような市場の空気もまだ感じられなかったから。だけど、3年前にいろいろなご縁が重なって、支援を始めてみたときには、有償でもニーズがあるのかなということがわかりました。実は、それまでは副業で、企業さんに対する支援を個人で続けていたんです」
 
 山元さんがかものはしプロジェクトへの転職を決意した理由のひとつが、「ちゃんと生活していける給与」ということは第二回でご紹介したが、実は、入職時に副業も認めてもらえるよう交渉していて、かものはしプロジェクトもそれを快諾してくれていた。
 
「土日とか平日の夜に企業さんに行って、内定者研修や新入社員研修、採用の仕組みづくりのお手伝いをしていたんですが、だんだん申し訳なくなってきてしまって。というのは、経営コンサルティングファームにいた頃の経験をもとにいろいろと提案をさせていただくわけですが、コンサルをやっていたときと違って、その情報や経験が更新されていかないんですよね」
 
 このままではクライアントにも申し訳ないと考えていたところに、NPO支援へのご縁がつながった。NPO支援への手応えを感じ始めていた山元さんは、思い切って企業への支援に充てていた時間をすべてNPO支援へと切り替えていった。
 
「さらに、いろんなところにセミナー講師として呼んでいただいたり、ファンドレイジングのお手伝いをしたりしていく中で、NPOマネジメントという事業の展望が見えてきたので、2013年4月1日に、個人開業届を出して、『NPOマネジメントラボ』という屋号で、NPOの組織マネジメント支援に取り組んでいくことにしました」
 
 かものはしプロジェクトの日本事業統括ディレクターとして従事する傍ら、NPOのマネジメントを始め、自分自身の成長とマーケットの成熟を実感した山元さんは、ついにかものはしプロジェクトの職を辞し、2014年9月1日、NPOマネジメントラボの代表として、本格的にNPOの組織マネジメント事業をスタートさせた。

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ミッションからのストーリーが描けているか
 
 山元さんが行っているマネジメント支援の中身は、3つに大別される。
 
「ひとつはNPOの経営戦略全般。経営戦略を10のステップに分けて一緒に立案し、実行、適切な更新ができるまでお手伝いをします。ふたつめはファンドレイジング。具体的に資金調達の成果を上げていくお手伝い。3つめは人材。採用戦略やクレドの作成、ボランティアマネジメントといったヒューマン・リソースのマネジメントのお手伝いです」
 
 はじめからこれら3つに分けてメニューを用意していたわけではないが、クライアントのさまざまな個別ニーズにこたえているうちに、ほとんどの課題がその3つに集約されていった。
 
「顕在化しやすいのは、やっぱりお金と人の問題ですね。最初はどちらかの課題について声を掛けていただくことが多いんですが、いちばん多いのはやっぱりファンドレイジング」
 
 ファンドレイジングは、ポイントを押さえながらその団体が行っていることを整えていくことで、比較的成果があがりやすい。だが、山元さんの本領発揮はここからだ。
 
「成果が出てきたら、『これをさらに伸ばしていくにはどうするか』『そもそも、この資金はなんのために調達するのか』と踏み込んだ話をさせてもらえるようになってきます。そうすると、そもそも取り組む社会問題の構造分析が十分にできていないとか、ミッション達成のための仮説がないとか、成果が定義できていないとか、その活動のためにはこの金額でほんとうに足りるのかとか、逆に集め過ぎじゃないのかとか、いろんな課題が見えてきます」
 
 洗い出された課題について、ファンドレイジング支援と並行して戦略を整えていくと、ファンドレイジングの成果もさらに上がる。
 
「それはそうですよね。寄付を集める側の腑に落ちる度合が全然違いますから、寄付を呼びかけるときの思いのかけ方も違ってくるんですよ。そうすると、資金調達の成果があがるだけでなく、人材が定着しやすくもなります。自分たちが日々なんのためにがんばっているのかも共有できるので、一体感も強くなります」
 
 人の問題もお金の問題も、結局はミッションからのストーリーが描けていないことが問題の本質である場合が多い。しかし、それは組織にとっていちばん触れられたくない部分であり、最初からその部分に言及しても、なかなか聞き入れてはもらえない。
 
「だからまずは、ファンドレイジングやヒューマン・リソースのお手伝いから入って、関係構築ができてから、一緒に本質的な部分の整理をし直していって、さらにファンドレイジングやヒューマン・リソースの部分の成果を伸ばしていく、っていうパターンになりがちです」

NPO経営戦略
画像提供:NPOマネジメントラボ

「社会を本当に変える力」を磨く10のステップ
 
 ファンドレイジングのお手伝いをするときに、山元さんが心掛けているのは、財源のバランスだ。NPOの財源は、寄付、会費、助成金、委託金、事業収入と多岐にわたる。
 
「NPOの持続可能性ということを考えるときに重要なのは、どの財源を持つか、ではなく、どの財源もバランスよく持つこと。寄付や会費とのシナジー効果も含めて財源の設計をして、事業はこう伸ばしていこう、寄付はこう拡大していこう、という考え方をしています」
 
 NPOマネジメントラボがコンサルティングをする上でこだわっているのは、そのNPOの事業や規模を大きくすることではなく、ほんとうに社会を変えられる組織にすること。そのために最適なファンドレイジングを設計する。
 
「ほんとうに変えるっていう力を磨いていただきたいし、ほんとうに変わるっていうところを見たいというのが、僕らNPOマネジメントラボのやりたいことなんです。本気で社会を変えたいと思っているチェンジメーカーの想いをかたちにしていくお手伝いをするということが、僕らのミッションだと捉えているので、そのために必要な役割を担っていきたい」
 
 山元さんが徹底して追求するのは、「リアルチェンジ」。「よさそうなこと」ではなく、「本当に変わること」をしていくこと。
 
「フィリピンのごみ山で出会った7歳の男の子が僕の原体験なんですが、『あの子を救えそうなこと』ではなくて、『あの子を救えること』がしたい。じゃあ具体的になにをしたらいいのか、それは誰ができるか、その人にそれをしてもらうにはなにが必要なのか、それを踏まえて自分たちはどう動くべきなのか、ということを常に考えています」
 
 そうした思いを根底に、自らも現場を経験し、いろいろな団体や人の話を聞き、NPO支援に携わる中で見えて来たのが、山元さんが掲げる「NPO経営戦略の10のステップ」だ。
 
「これはいまの僕に見えているステップなので、また今後変わっていくかもしれませんが、いまは大事だと思っています。そもそもどういう社会、どういう世界を実現したいのかというミッションがあって(存在理由)、なぜいまそうなっていないのか(問題構造)、じゃあどうすればそれが実現できるのかという仮説を立て(問題解決仮説)、その中で自分はどういう役割を担うのか(役割定義)、逆にほかの部分はどういう人たちと手を組むのか。自分の役割の中でどんな成果をどれだけ出すのか(成果目標)、それをするために何が必要で(必要資源:資金・人材・ネットワーク)、それをどう賄うのか(資源調達)。さらにそれをどういう体制で進め、(組織基盤)、アクションし、(実践実行)、最後にそれを盲信しないように定期的に振り返って更新する(カイゼン)仕組みをつくる。これが一気通貫しているかどうかがすごく重要だと思っています」
 
 この10のステップを一緒に考えていく上で重要なのが、トップダウンとボトムアップのバランスだ。どちらかに偏った瞬間、クライアントとの信頼関係が揺らぐ体験もした。
 
「あるべき論だけを上から言い続けても、現場サイドは『そんなことはわかっている。具体的にどうしたらいいんだ』ということになりますし、現場サイドから言い続けるだけでも、上の人たちに鬱陶しがられたりする。ただし、現場でがんばって業務改善をしても、それがその団体のそもそものミッションに合致したものかどうかという疑問もつきまとう。だから、バランス感覚を大事にしながらも、やっぱりできれば上から整理していきたい」
 
 こういう場面では、経営コンサルタントとしての経験と、現場での実務経験の両方をもつ山元さんの強みがいかんなく発揮される。自らの経験をもとにしたプランニングは、クライアントの納得度も信頼度も高い。

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自分がいなくても機能する組織を
 
 大学生で初めてボランティアに参加して以来、「社会を変える」成果を生み出すことを追求する姿勢は一貫している。山元さんの言葉の一つひとつに説得力があるのは、現場経験、コンサルティング経験、それぞれの土台がしっかりしているからなのだろう。
 
「大学のときから12年くらいずっと一気通貫しているっぽく見えるストーリーですからね(笑)」
 
 新卒で入社したコンサルティングファームで、人事部を選んだのにも、いまにつながる思いがある。山元さんが就職活動中に意識していたキーワードとして、「人」と「組織」があった。その2つについて、現場で通用する泥臭さ、生きた強さを身につけたかったのだと、山元さんは言う。
 
「学生当時NPOを見ていて必要だと思ったのは、課題解決のためのプロはいるんですから、その人たちが自分たちの力で自分たちの現状を打破することができる環境をつくることでした。僕はどこか特定の団体にいることは当時からイメージしていなかったので、その団体の問題は自分たちの力で解決できる力を身につけていただけないと、支援者がいなくなったら終わりっていうことになってしまったら意味がない。だから、いかに個人のモチベーションやポテンシャルを引き出して、組織としてちゃんと機能できるようにするかという力を身につける上で、人事部での経験は武器になるかなと思ったんです」
 
 これだけ一貫していると、大学生の頃から描いていた夢、確固たる目標を持って、そのときどきで自分に必要な経験を積み、自分の目標に近づくためにタイミングを見計らいながら転身し、キャリアを積み上げてきたのかと思えるが、意外にもそうではないのだと言う。
 
「よくそう言っていただけるんですけど、自分の感覚的にはちょっと違います。目標を明確に持ってそれを軸にブレイクダウンして一歩ずつ階段を上って行くっていう考え方を『キャリアアンカー理論』というんですが、もうひとつ、『計画的偶発性理論』というものがあります。キャリアは偶然の積み重ねであるという考え方です。キャリアは前には広がっていない。自分が歩んできた後に積み重なっているのがキャリアであると」
 
 自分は後者であると、山元さんは言う。ただし、自分にとってプラスとなる「偶然」は、計画的に起こすことができるそうだ。
 
「そのために常にもっておくべき心構え、心の姿勢というものがあります。好奇心とか、オープンマインドとか、冒険心とかいったものなんですが、そうしたものを持ちながら自分の関心のあるところに向かって歩みを進めて行けば、気づいたらあなたにとっていいキャリアが集められる。それが計画的偶発性理論です。僕もそんな感じで、自分がワクワクすることをしたいと思っていろいろやっているうちに、いまの場所にたどり着いた。ポイントとしては、ことあるごとにいろんな人に自分がしたいことを言いまくっていたことがあるかもしれません」
 
 常日頃からやりたいことを口にしていると、役に立つ情報や人脈を紹介してもらったり、具体的な機会を与えられたりと、周りのサポートも得られるようになっていく。これは、ソーシャルセクターに限らず通用するキャリア形成のヒントなのかもしれない。最後に、これからの取り組みにかける山元さんの思いを伺った。
 
「ミッションが達成できる、問題解決がほんとうにできる組織をつくるお手伝いをしたい。実現能力を磨くっていうことがいちばん大事で、そこを徹底した上で、そのために必要な仲間を集めるために、ファンドレイジングやマーケティングを正しく使えるようにしていく。そういう団体を増やしていきたい。ほんとうに社会を変えていく力のある組織が、それにふさわしい仲間や費用など、最適な資源をきちんと手に入れて活動していける状況をつくっていきたいと思っています。まだ始めたばかりですが、いろんなことを吸収しながら取り組んでいけたらと思います」
 
【写真:永井浩】
 
山元 圭太(やまもと けいた)*NPOマネジメントラボ代表。日本ファンドレイジング協会認定ファンドレイザー。元NPO法人かものはしプロジェクト日本事業統括ディレクター。 1982年滋賀県生まれ 同志社大学商学部卒。卒業後、経営コンサルティングファームで経営コンサルタントとして、5年間勤務の後、2009年4月にかものはしプロジェクトに入職。日本部門の事業全般(ファンドレイジング・広報・経営管理)の統括を担当。「社会起業塾イニシアティブ(NEC社会起業塾) コーディネーター(2011〜2013年)」「内閣府復興支援型地域社会雇用創造事業 みちのく起業 コーディネーター(2012年)」として、日本各地のソーシャルベンチャーやNPOの支援も行なう。
 現在は、NPOマネジメントラボ代表として、「本当に社会を変えようとするチェンジメーカーの『想い』を『カタチ』にするお手伝い」をするために、キャパシティ・ビルディング支援や講演/セミナー、コーディネートを行っている。専門分野は、ファンドレイジング、ボランティアマネジメント、組織基盤強化、NPO経営戦略立案など。

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