ソーシャルなお金を生み出す仕組み

京都地域創造基金 理事長 深尾昌峰

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深尾さんのインタビュー第1回はこちら:「市民活動を支える地域のお金の流れをつくりたい
 
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寄付者の思いと活動団体をつなげる
 
 「カンパイチャリティ」は、よりたくさんの人に活動を知って参加してもらうための、消費活動と寄付を結び付けた取り組みだが、ほかにも京都地域創造基金には様々なプログラムが用意されている。たとえば事業指定助成プログラムは、一部の人々が気づき始めたばかりの社会課題に取り組んでいる、草の根的な団体を助成するための寄付プログラムだ。
 
「草の根的に活動していて、認定NPO法人はまだまだとれない、寄付も自分たちだけで集めるのは難しい、といった団体を応援するプログラムです。京都地域創造基金を通して寄付をすることで、寄付者は税制優遇を受けられます。我々は、その寄付を助成というかたちで、草の根的な団体に渡す」
 
 厳しい審査を経て助成先を選定し、集めた寄付を分配する役割を負っているが、寄付税制を悪用した事例になってしまってはいけないと、関係機関と慎重にやり取りを重ね、いくつかの条件の下、このプログラムは実現した。
 
「このプログラムのメリットは、みんなで面になってお金を集めることができる点です。小さな団体は、認定NPO法人をとれたとしても、単体ではなかなかリーチを広げられません。そこで、みんなで事業を並べて面にすることで活動を広げていこうということで、こうした仕組みをつくっています」
 
 寄付を集める際には、「私たちの団体はこの社会課題を解決するために、こういう活動をしたいんです」ということを明示する。
 
「我々も税制優遇という仕組みを社会からお預かりしている身ですから、活動実態や寄付の使い道はもちろん、情報開示への姿勢やきちんと成果が出せるかどうかといったことを、かなり厳しく審査して、取り組ませていただいています」
 
 この姿勢は、冠助成事業にも一貫している。冠助成とは、企業や個人とのタイアップによる助成金プログラムだ。企業や団体、個人で独自に基金を組成し、寄付先の選考や事務的な業務は京都地域創造基金で行う。助成の対象となる団体や分野を指定でき、寄付者の思いをストレートに反映できるプログラムとなっている。
 
「ユニークなものでは、地域単位の基金があるんですよ。京都に城陽市というまちがあるんですが、ここは高度経済成長期に関西各地の埋め立て地の土砂採石場となったところです。いまではほとんど採石はされていませんが、山はえぐれたまま放置され、惨憺たる景色になっていました。それを緑で再生したいという声が、地域に住む方々の中で起こり、みんなでお金を出し合って取り組もうということで、『城陽みどりのまちづくり基金』がつくられました」
 
 たとえば、業者の協力の下、まちの自動販売機を寄付型に換え、ジュース1本ごとに、10円が寄付に回るような仕組みを地域の中でつくり出した。こうして集まった寄付は、城陽市内で「みどりをいかしたまちづくり」に取り組む団体の活動資金に充てられている。

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画像提供:京都地域創造基金

遺産を社会のために使いたい
 
 また、現在力を入れている取り組みのひとつに、遺産の問題がある。自分の遺産をどうしたいかというアンケートでは、当然ながら「子どもに残したい」という人が最多だが、日本ファンドレイジング協会の調査では、40歳以上で遺産寄付の意思がある人は、21.0%にのぼる。
 
「つまり、遺産を地域のため、社会のために使いたいと思っている方は、実はたくさんいるということです。なのに、私たちの界隈ではあまりそんな話は聞かない。これはなぜかというと、どうやっていいかわからないからなんです。どこに寄付をすればいいのかわからない」
 
 これはどうにかしなければいけないと、京都地域創造基金は「遺産・相続地域活用センター」を設置した。
 
「司法書士や税理士といった専門家の方々にご協力いただいて、相談ダイヤルをつくりました。お問い合わせはかなりいただきます。ですが、日本の社会では、土地なんかを我々の財団のようなところに寄付していただいても、税金の問題などさまざまな制約があって、積極的に活かす体制がまだできていません」
 
 実は、自治体側が、市民からの土地の寄付を断るケースは多い。寄付者の多くは、「この土地を公園にしてほしい」といった思いをもって寄付を申し出る。そうすると、公園にする費用を捻出できない自治体は、断らざるを得なくなるのだ。
 
「しかし、日本社会のいまの構造を考えると、高齢者がもっている資源をいかに世代間で共有して、次の世代につなげていくかということも非常に重要なテーマです。最近では空家率の高さも社会問題になりつつありますが、そうした問題も絡んでくる話です。人口減少時代の、そうしたものの新しい活用方法を、そろそろ私たちの社会は真剣に考えなければいけない。そういう思いもあって、遺産や相続の活用に関する取り組みを行っています」
 
 創設から5年、京都地域創造基金に寄せられた寄付は、2億円。
 
「私自身は、ぎりぎり60点、まあ合格点だと思っていますが、同時にもっとやれると思っています。市民が寄付する機会をいかにつくっていくか、カンパイチャリティのように、『ありがとう』といって寄付してもらえるような環境をどうつくっていくか。そうしたことを考えていくと、その先には、新しい自治のかたちが見えてくるんだろうと思っています」
 
 寄付をベースとしたソーシャルなお金の流れを創り出すことによって、税金ではできない領域の課題に取り組むことができ、新しい公共空間が生まれてくる。そしてそこが豊かになっていくことで、住みやすいまちや、そこでの幸せな暮らしが実現できる。深尾さんが思い描くのは、そんな未来だ。

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地域で生み出したお金を地域に還元する再エネ事業
 
 寄付を集めるばかりではない。地域で循環するお金を自ら生み出そうと、深尾さんが取り組んでいるのが、再生可能エネルギーとまちづくりを一体化させた事業モデルだ。
 
「いま、かなりの数のソーラー発電設備が田舎にできていますが、そのほとんどが東京資本です。地域でつくられた電気が売られ、そのお金がぜんぶ東京に集まっている。要は、ここでも地域から収奪が行われているわけです」
 
 このままでは、大きな資本をもっている人たちが田舎の土地を安く買いたたき、地域からの収奪という構造が進むことになる。その状況に違和感を覚えた深尾さんは、売電収益を地域社会で循環させ、地域が抱える社会課題の解決に向けるモデルが必要ではないかと考えた。
 
「それで地域貢献型メガソーラーを考案しました。和歌山の地域づくりにかかわっていたということもあって、和歌山県の印南町に、7億円をかけて1850kWのメガソーラー発電所をつくりました。2013年の11月から稼働を始めています」
 
 印南町は、人口9,000人弱のまちで、漁民住宅をつくる予定で埋め立てたものの、東日本大震災以降、居住が想定されなくなり、塩漬けになっている土地を抱えていた。
 
「町長さんが地域貢献型メガソーラーの構想に賛同してくださり、その土地を貸していただけることになりました。もう一か所、和歌山県の畜産試験場の跡地も入札で払い下げていただけて、印南町の海と山の両方にソーラーをつくらせていただきました」
 
 この事業を運営しているのは、深尾さんが代表取締役社長を務める株式会社「プラスソーシャル」。非営利型の株式会社を標榜し、定款で株主への利益配当を禁じている。売電で得た利益は、公益財団等、公益性のある団体へ寄付することが定款に明記されている。
 
「『こんなのは株式会社とは言えない』と公証人さんにもずいぶん言われましたが、なんとか認めていただきました。ただ、専門家によると、株主が配当を要求する裁判を起こしたら負けるだろうということです」
 
 だが、株主は深尾さんひとりだけ。そういうことであれば、この構造が覆されるリスクはない。
 
「このプロジェクトでは、20年間でおよそ5億円の収益を見込んでいます。つまり、年間でだいたい2,500万円です。そこから税金や諸経費をひいた金額を行政が取り組めない領域の社会課題の活動資金として、地域に戻していこうと考えています。このモデルが、社会的投資市場を形成するための、ひとつの先駆けになっていければいいな、と」
 
 気になるのは、資本金300万円の株式会社プラスソーシャルが、どうやって7億円もの事業費を工面したのかだ。
 
「最初は銀行に貸してくださいって言いに行ったんですが、当然だめでした。それで、信託という仕組みを活用し、社会的投資といったものを日本で根付かせるきっかけにしたいと思って、いろいろ考えました。そこで、まずは自分の勤め先でもある龍谷大学に話を持ちかけてみたんです」
 
 「大学としての社会的責任を果たすことにもなる」という深尾さんの訴えを受けて、慎重な議論を重ね、龍谷大学は3億5,000万円の出資を決定する。
 
「審議には半年くらいかかりましたが、結論にはしびれました。この大学の構成員でほんとうに良かったと誇りに思いました。もともと、龍谷大学は資産運用にはかなり慎重です。厳格な資産運用規定をもっていて、リスクの高いところにはぜったいに投資しない。今回の投資に関しては、私がつくったばかりの会社ですから、格付けもなにもありません。だけど、社会的投資ができるように学内の運用規定を変えてまで、協力してくれたんです。これはすごいことだと思います」
 
 3億5,000万円を信託として20年間預かり、国債よりも低いレートで設定された利子を、毎年大学に支払うというかたちだ。
 
「残りの3億5,000万円は、信託会社と私の会社で信託事業体を組成し、金融機関からお借りしました。そうしてできた7億円の資金をもとに発電し、売電で出た利潤は、NPOの活動資金として地域社会に戻していくというモデルで動かしています」
 
 龍谷大学の決断が、社会的投資市場を形成するひとつの先駆けになってくれたらいいと、深尾さんは願っている。現在、地域金融機関から融資を受けて、600kW規模の第2号案件も建設中だ。
 
「最初は難色を示した地域金融機関も、モデルができたことで『いいですね』って言ってくれて。この2号案件の収益は、『祇園祭ごみゼロ大作戦』を支えるファンドの形成にあてます」 
 
 「祇園祭りごみゼロ大作戦」とは、京都で7月に行われる宵山行事期間中の屋台の食器で使用される食器を、使い捨て食器から、洗浄して繰り返し使用できるリユース食器に切り替える取り組みだ。2号案件の収益は、このリユース食器の購入などの初期投資にあてられる。
 
「こういう、3.11以降のエネルギーの問題と地域社会を一体として考えながら、地域でお金を生み出して、それを地域の中で回していく、地域社会の課題を解決する資金にあててていくっていうスキームを、どんどんつくりたいと思っています」

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収入では測れない豊かな暮らし
 
 プラスソーシャルの活動を始めるにあたり、域内総生産の10%近いお金がエネルギーコストとして地域から流出していることに深尾さんは気がついた。
 
「逆に言うと、固定価格買取制度を越えて、再生可能エネルギーをきちんと地域化できれば、その10%は流出しなくていいんですよね。自分たちの地域でつくったものを、自分たちの地域で循環させていく。都市部では無理でも、再生可能エネルギー源がたくさんある農山村なら、たとえばエネルギーフリーのような暮らし方が実現できるかもしれない」
 
 そうすると、その町の生活コストは下がり、その分豊かな生活を送ることができるようになる。収入そのものは高くなくとも、都会とは違う価値観で、豊かな暮らしを実現することが可能だ。
 
「そうした生き方とか価値観の転換も含めて、いま考えているのは、お金の流れとか地域の経済圏みたいなものを意識した地域づくりです。『地域が地域であり続ける』ために、その域内の経済をどう回していくか。いまのように補助金でいろんなものを支えましょうというやり方は限界に来ているので、地域の中からお金を出さずに、域内の暮らしをいかに豊かにするかとか、そのまちのライフスタイルに合わせた仕組みづくりをやっていかないといけないと思っています」
 
 ところが、信用金庫の預貸率は、この15年間で20%以上下がっている。つまり、地域にお金が流れていないということだ。そんな地域が補助金型の行政から脱するために、社会的投資という領域をどう広げていくか。キーワードは「投資」と「ローカル」だ。
 
「信用金庫の預貸率で下がった20%は、国債等に流れています。それをどう再び地域にシフトさせていくか。たとえば、プラスソーシャルの第2号案件への出資をお願いするとき、『国債より儲からないけれど、地域のためになります』というと、かなり反応がよかったんです。100万、200万とか金融機関に預けていてもほとんど利息なんてつかない。だったらまちづくりに投資して地域が活性化するほうが、地域の商売にとってもプラスになるという回路はみなさんお持ちなんですよね」
 
 そうした投資のインセンティブは、直接的な儲けというよりも、「社会的な利益」ということになる。たとえば、貧困層の子どもたちを支援することで貧困の悪循環を断ち切り、彼らが将来にわたって生活保護を受給することなく暮らしていけるようになれば、社会にとって大きな変化だ。
 
「要は、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の地域版をつくりたいんですよ。だけど、クロスセクターベネフィットのように、成果が見えにくいものだってある。そうしたものも含めて、『社会的な収益』というものをどう測るか、その評価の軸を考えていくことが、今後必要になってくると思います」
 
 たとえば、地域の古い体育館をコミュニティスペースとして生まれ変わらせ、そこでいろんなメニューを展開すると、その運営自体では利益が出なくとも、市民が元気と健康を維持・回復し、結果として医療費が下がるということが考えらえる。
 
「そうやって、縦の構造だけでは成果が見えづらいものでも、地域に対する投資という関係性で見ると、一定の評価ができるはずなんですよね。そういうところまでもっていければ、まだまだ地域にはポテンシャルがあるし、若い世代がもっといろんなチャレンジをできるようになる。真の地方創生は、若い世代が地域で希望を持って生きていけるようになることだと思うんです」
 
 将来消滅すると言われている地域が日本全国にいくつもあるが、こうした流れが大きくなり、暮らしやすいまちづくりが住民自身の手によって行われていくようになれば、地域はきっと元気を取り戻すに違いない。

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リスクがあるから必死になる
 
 こうした社会的投資の仕組みがなかなか浸透しない理由のひとつには、ビジネスサイドの戸惑いがある。「これってお金儲けになるんですか?」ということだ。
 
「純粋な寄付やチャリティならCSR部門、儲かる話なら投資部門の担当になるんだけど、『資金はそれなりに回収できるしプラスアルファもあります。だけど一般的な金融商品ほど儲かるものではありません』ということになると、どちらが引き取ればいいのか困ってしまうようなんです」
 
 こうした戸惑いや課題を解消するためには、投資のインセンティブをどうつくっていくかが大切になってくる。
 
「投資減税のような制度を整備していくこともひとつだと思います。なぜそこに投資するのか、投資の環境を整えてあげれば、投資する側も乗りやすくなるはずです」
 
 また、安心して投資してもらうために、プロジェクトファイナンスとして格付けをとることも深尾さんは考えているという。
 
「次につくるソーラーの案件では、敢えて格付けをとってほかのふつうの金融商品と勝負してみようと思っています。格付け会社による評価がきちんとあれば、そこに投資してみようという人たちが現れてくるはずですから。これまでになかった新しい仕組みなので、私が一から信用をつくるより、既に社会に流通している信用の仕組みを借りるほうが世の中にとってもわかりやすいと思うんですよね」
 
 また、信用金庫が地域を支えるコミュニティ・バンクとしてきちんと機能するよう、地域金融の再編を促していくことも重要だ。
 
「今後の人口減少時代においては、地域金融というものがキーになってくると思います。お金自体は実はあるんです。問題はそれを使う地域側の知恵と出す側の器量。このくらいのリスクで、社会的な収益というリターンがこのくらい得られるならやってみようよっていう考え方ができていけばいいなと思います」
 
 多少のリスクがあったとしても、地域の住民や企業でリスクをシェアすれば、「このくらい薄いリスクなら、やったほうがいい」ということにもなるだろう。また、実はこのリスクがあるということが後押しになる面もある。
 
「補助金だとリスクが0だから、失敗しても痛みがない。うまくいかないのは社会のせいだ、しょうがないって言っていればいい。それは補助金の限界なんです。だけど、自分でリスクをとって出資する人がひとりでもいれば、そんなことは許されない。小さくてもリスクがあれば、そのリスクを回避するためにみんな死にもの狂いになるんです。緊張感も生まれるし、総力戦度合みたいなものが本気モードになっていくので、そういうほうが健全なんじゃないかなって、思いますね」
 
 地域の人々がほんとうに必要とするものを自分たちで議論しながら生み出し、そこにファイナンスがついてくるという仕組みができていけば、日本の地域社会は大きく変わっていくはずだ。

(第三回「市民はもっといろんなことができる」に続く)
 
 
 
深尾 昌峰(ふかお まさたか)*1974年生まれ。大学在学中に起きた阪神・淡路大震災でのボランティア活動をきっかけにNPO活動に携わる。1998年にきょうとNPOセンターを設立、初代事務局長を務める。以降、日本初のNPO法人放送局の設立、公益財団法人の設立など、さまざまな活動に精力的に取り組んでいる。公益財団法人京都地域創造基金理事長、特定非営利活動法人きょうとNPOセンター常務理事、特定非営利活動法人京都コミュニティ放送副理事長、社団法人全国コミュニティ財団協会会長、龍谷大学政策学部准教授。
 
【写真:長谷川博一】

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