ソーシャルな志を、ビジネスのしくみとして成り立たせる

福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会 半谷栄寿

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半谷さんと社団法人を支える地元の若手人材

半谷栄寿さんのインタビュー第1回、第2回はこちら:
自然エネルギーを復興の原動力に
何としてでも、復興を成し遂げる

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キャリアパスの場として
 
 2013年3月11日に施設が完成した南相馬ソーラー・アグリパーク。5月には、運営の母体となる一般社団法人「福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会」が、本物の太陽光発電所と植物工場を舞台としてユニークな体験学習を本格的にスタートさせた。小中学生向けの体験学習が中心だが、高校生や大学生、若い社会人の育成にも力を入れている。
 
「福島市や郡山市から2時間もかけて高校生が南相馬にやってきて、社会的な事業について一緒に語り合っています。福島大学とは、復興のための社会的な事業をワークショップ形式で考え出していく新しい場づくりに、共同で取り組んでいます」
 
 福島大学とのワークショップでは、学生から興味深い提案があったという。
 
「福島の果樹園の風評被害を払拭して農業と観光を復興させるために、『果物食べ放題のフルーツパスポートを発行して、いろんな果樹園に足を運んでもらおう』というアイデアが出されて、ディスカッションを行いました。新しい事業をつくるという視点と議論は、大学生が社会人として成長していくための経験になります」
 
 福島市にある桜の聖母短期大学からはインターン生を受け入れている。
 
「このインターンの学生から、植物工場で採れた野菜を粉末化してクッキーに入れて販売したらどうか、という提案があったんです。いま実現に向けて、市内のお菓子屋さんに試作してもらっているところです。いわば復興野菜の復興クッキーですね」
 
 若い社会人の育成という点でも、2013年4月に社団法人に入社した3名は、福島大学の新卒2名と地元の女性1名であり、さらに10月には三菱商事から若手社員が社団法人に出向している。
 
「三菱商事さんから大変な心意気をいただいて、入社5年目の若手に2年間も出向してもらうことになったのです。福島の復興に人材の面で貢献すると同時に、この人材がキャリアパスをしっかり積めるように鍛えているところです」
 
 それぞれにキャリアを積んで人生を前進してほしいという願いのもと、南相馬ソーラー・アグリパークのグリーン・アカデミーは小中学生から若い社会人にいたる人材育成の場として機能し始めている。

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南相馬ソーラー・アグリパークでの体験学習の様子

太陽光に加えて多様な自然エネルギーの体験を
 
 順調に歩みを進めている南相馬ソーラー・アグリパーク。ますます発展してくために乗り越えていかなくてはならない課題もある。
 
「これから先を考えると楽しみでもあるんですが、大きな課題が3つあると捉えています。ひとつめの課題は、人材を育成するための体験をさらに広げる施設の拡充です。経済産業省などの支援を受けて、まず、水力発電の体験装置を2014年2月末までにつくることにしました。子どもたちが自分の力で水車を回したときの発電量と、水をくみ上げて水車にぶつけたときの発電量を実験して、比べてみる装置です」
 
 子どもたちが水車を回した場合の発電量は、実はほとんどない。一方、子どもたちがくみ上げた100リットルの水を3メートルの高さから水車にあてて回すと、30ワットほどの発電量が見込める。
 
「子どもたちがポンプで水をくみ上げることで、自分たちで“位置エネルギー”をつくる。この体験が、水の持っているエネルギーに実感をともなわせると思うんです。あくまでも体験にこだわった装置とプログラムを作っていこうと」
 
 同じく2月末には、風力発電の体験装置も完成する予定だ。体験のための舞台が、さらに整うことになる。
 
「もうひとつ、自然エネルギーについて福島県の大型マップをつくります。県内には、水力や太陽光、風力など自然エネルギーの発電施設が、これからどんどんできていきます。子どもたちは、この大型マップにウォークインして、それぞれの施設をあたかも回遊するように楽しく体験します」
 
 福島県を東西10メートル、南北7メートルの大きさで表す大型の自然エネルギーマップをつくる。そこに、太陽光、風力、水力などのモニュメントを先端にあしらった高さ1メートルほどのポールを立てて、自然エネルギーの伸展を表現するのだ。
 
「福島県は『自然エネルギー先駆けの地』を復興のひとつのテーマにしています。その取り組みや成果を実感してもらい、そして自然エネルギーへの関心と理解を深めていくゲートウェイの役割を担っていきたいと考えています」
 
 子どもたちのために、未来のために、そして地域のために、おもしろい体験を生み出して実践につなげる。半谷さんの決意と情熱にブレはまったくない。

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発表の場が思考力と実行力を育む

週末スクールを人材育成の新たなプロセスに
 
「ふたつめの課題は、平日の学校単位の体験学習やサマースクール・ウィンタースクールに加えて、2014年5月から週末のスクールを立ち上げ、軌道に乗せることです」
 
 この週末スクールは、2か月間に4回開催し、最終回では発表の場を設ける。東北大学大学院、いわき明星大学、環境ジャーナリストの枝廣淳子さんらとカリキュラムを練っているところだ。
 
「『発表する力』つまり自分の考えや思いを伝える力というのは、『考えて行動する力』を身につけていく上でとても大切だと、体験学習の現場で強く感じているんです」
 
 人前に立ち、自らの取り組みの結果を発表することに二の足を踏む人は少なくない。そのような場面で前向きに取り組めるかどうか。考える力や行動する力を育む上で、そこが大きな分かれ道になると半谷さんは言う。
 
「なにを発表するか、どう伝えるか、場がセットされたら前向きに考えるようになる。有言実行という言葉がありますが、一度みんなの前で発表すると、行動するようになりますよね。発表の場数を踏むことは、発表する力と同時に思考力や実行力を育てることにつながると思っているんです」
 
 人材育成の教育効果を可視化することも、週末スクールの目的のひとつ。グリーン・アカデミーの人材育成の成果は、つまるところ地元の復興に意欲的に取り組む人材を生み出せるかどうかに表れる。
 
「数年が経つと、いまの小中学生も高校生や大学生になります。そのときには、週末スクールの卒業生に、高校生や大学生として週末スクールそのものの運営に積極的に関与してもらいたい。体験から一歩進んで、今度はいわば経営経験を積んでもらう。その中から、地域の課題にもっと積極的に関与しようっていう人材が必ず生まれてくると思うんです」
 
 成長に応じて新たな場と機会をつくり出し、次の成長を促す。その積み重ねによって、地元復興を担う人材を必ず育てることができると、半谷さんは確信している。

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植物工場の前で子どもたちにしくみを説明する半谷さん

受益者負担とCSR支援の好循環を成功事例に
 
「最後の課題は、受益者負担メニューの確立です。いまはありがたいことに寄付と補助金で経費を賄えています。これを3年以内に、必要経費の4割はここを訪れる大人の方にご負担いただくという目標を、なんとか達成させなくてはと考えています」
 
 受益者負担を導入する目的は、利益を上げることではなく、お金を通して関係者がお互いにとっての価値を確認しあうためだ。
 
「逆説的に言うと、受益者負担をしていただけないということは、お金を払ってまでここに来る価値がないということですよね。つまり、子どもたちの成長のために役に立っていないということになります。そんな状況で寄付頼みの運営をしようとしても、ぜったいに寄付そのものが続くはずがありません」
 
 一方、一定の受益者負担が確保できるようになれば、価値のある取り組みと認められたひとつの証となる。
 
「企業や団体にしてみれば、寄付をするからには、自分の組織のCSRが標榜できるっていうのが大前提ですよね。その価値があると評価されれば、寄付は続けてもらえる。そのためにも、評価に値する“受益者負担の確立”が求められると思うんです」
 
 半谷さんがめざすのは、受益者負担と企業・団体のCSR支援の好循環のしくみをつくり出すことだ。
 
「ソーシャルな復興事業を継続していくためには、一種のビジネスとして事業性を確立する必要があります。受益者負担は、そのための大きなターニング・ポイントであり、重要な指標になると考えています」
 
 受益者負担メニューの本格導入に向けて、すでに大人の施設見学は有料化されて定着しており、半谷さん自身への講演依頼も増えている。企業研修も受託し始めている。教育旅行の受け入れについても、旅行会社が営業をスタートさせた。
 
「寄付や補助金が現在より少なくなったとしても、そのことによって復興のための人材育成が中断されるようなことがあってはなりません。いろいろな受益者負担によって資金を確保して人材育成を継続し、復興に貢献していくこと。これが私の最大の課題だと思っています」
 
 受益者負担とCSR支援の好循環を目指して、南相馬ソーラー・アグリパークの経営は、早くも次のステージに移ろうとしている。水力発電など体験学習のための施設も整い、週末スクールなど人材育成プロセスの充実にも余念がない。こうしたソーシャルな志を、いかにして事業として成り立たせ、継続していけるか。それはきっと、被災地でがんばっている人々が共通して目指しているはずのことだと、半谷さんは言う。
 
「そのためにも、私たちは成功事例をつくらなくてはいけない。好循環をここからつくり出していかなくてはいけない。必ず、何としても成し遂げます」
 
 成功が仮に小さなものであったとしても、そこには必ず縁が生まれる。縁が結ばれていけば、地域に大きな流れが満ちてくる。志と事業を結びつけ、体験学習と人材育成を行った、その先にある未来を南相馬で実現するために、半谷さんは、今日も子どもたちと向き合い続けている。
 
 
 
【半谷栄寿(はんがい えいじゅ)】1953年福島県小高町(現・南相馬市)生まれ。1978年に東京電力に入社。同社にて数々の新規事業を手掛ける傍ら、1991年に環境NPOオフィス町内会を設立し、古紙リサイクルや森林再生に取り組む。2010年に同社執行役員を退任。2011年9月に福島復興ソーラー株式会社を設立。さらに2012年4月には一般社団法人福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会を立ち上げる。そして2013年3月11日、南相馬ソーラー・アグリパークを完成させ、自然エネルギーの体験学習を通して子どもたちの成長支援と人材育成を開始。現在に至る。
 
【取材・構成:熊谷哲】
【写真:shu tokonami】

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