金融危機についての緊急提言【3】
― 金融システムの「行き詰まり」―

(1)覆い隠せない銀行間格差

 図表2および図表3から明らかなように、総体としての不良債権問題の深刻さも看過できないが、とりわけ大手銀行間の格差がもはや放置できず、一部銀行の動静が株式市場や為替市場そして金融市場、さらに国際金融市場において不安定要因となっている。このままでは「セル・ジャパン」や過度の円安化さらにジャパンプレミアムの拡大、そして大量の資本流出(キャピタル・フライト)などが金融不安の引き金になりかねない。

 具体的には、平均株価が17000円を割れば、経営不安が幾つかの銀行で一気に高まり、これが金融危機に火を付けるリスクが現実化することである。

(2)「何とかなる症候群」とバッファー装置の欠如

 不良債権の実態が的確に認識されていないわけだから、その場の対処で「何とかなる」と、これまで考えられてきた。実際に不良債権問題が表面化してだいぶ経つが、金融危機も発生しなかったし、償却も進展してきているし、景気も95年度、96年度とゼロ成長を脱している。だから、政府筋が従来のやり方に固執するのもわからないでもない。 しかし、「ゼロ成長脱却」は1ドル=100円~115円の安定的円高、0.5%の超低金利政策、そして約14兆円の追加大型財政出動といった特効薬が金融システムの機能不全に伴う「資産デフレ圧力(地価の下落傾向や株価の低迷化)」を緩和した結果にすぎない。現に2%台の成長復帰といっても異常ともいえる超低金利政策を外せない状態ではないか。つまり、不良債権が溜まった金融システムは間接的には日本経済の活力を蝕み(資産デフレの居座り)、直接的には金融不安、さらに金融クラッシュを勃発させかねないのだ。

 つまり、株安は金融機関の含み益を激減させ、金融機関の償却力を大きく減退させ(図表2のように96年9月期の大手20行の株式含み益は約15兆円だが、平均株価が17000円だと含みは約4兆円に激減)、金融危機のリスクを増大させる。個別金融機関だけでなく、預金保険機構の責任準備金も潤沢ではないし、業界の支援体制も弱体化している。日銀の日常的な対市中銀行融資は限界があるほか、日銀法25条の日銀特融も不透明で問題がある。また、資金運用部資金の有価証券運用の統計をみると、金融債運用残高が96年10月末で10兆5千億円に達し、1年間で約3兆2千億円も増加していることがわかる。こうした資金運用部(郵貯など国民の貯蓄)の資金運用によって、金融債の買い支え(一種のPKO)が行われているとしたら、不透明といわざるを得ない。景気も「そこそこ」で株式市場や為替・金融市場も小康状態にあれば、バッファー装置が不十分でも、確かに「何とかなる」で済む。特に、円高前提のもとでは資本逃避のリスクは小さかった。

 しかし、「騙し騙しを続けてきた」不良債権問題は円安化のもとでさらなる株安や地価低下を呼び、いまや金融危機のトリガーになる恐れが強まってきている。不透明な手法で現実を覆い隠すことは、もはや無理があるのだ。日本の金融システムには鋭利なナイフが迫っている。

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