財政構造転換にむけての提言【1】
― 問題意識―

【1.問題意識(財政構造転換と立法による財政改革の必要性)】

 政府活動の「相対化」、徹底した財政の「市場化」に対応した財政体質の構築を実現するため、財政構造の転換に取り組む必要がある。

 政府活動の「相対化」とは、政府活動のパフォーマンスを民間のそれとの比較を通して、客観的に評価・検証することである。国民への奉仕を目的に正当化されてきた政府活動が、利権まみれ・汚職の温床となったことで、政府に対する国民の信頼は大きく揺らいでいる。政府への国民的信頼を回復するためには、政府活動の「相対化」を実現する必要がある。

 加えて、金融市場改革の進展によって資本の完全移動性が達成された暁には、政府活動の中身・財政のパフォーマンスが市場の評価にダイレクトにさらされる時代が到来する。そうした時代を目前にして、効率のよい財政構造を築き上げること、すなわち、財政の「市場化」を早急に実現することが喫緊の課題となる。

 財政構造転換の目的は、単に赤字を削減することではなく、抜本的な体質改革を通じて、行財政の透明性と信頼性を実現することにある。すなわち、①財政民主主義を確立し、②国際標準化された世界市場のなかで日本の経済・社会を再生させることによって、財政の機動力を回復することである。

 とくに、規制緩和、省庁再編や地方分権も含めた行政改革、そして、財政構造改革の真価が、98年4月の外為法改正をはじめとした金融市場改革のなかで、国内外から本格的な評価を受ける段階に入る。さらに、今年夏の東京都議会議員選挙にはじまり、来年の参議院議員選挙、そして地方選挙と続く政治日程を控え、橋本政権がいかに利益誘導型の予算編成から脱却できるか、7月から本格化する98年度予算編成を通じて、具体的に検証されることになる。

提言の全体像

 また、財政構造の転換を早期に実現していくためには、総理の強いリーダーシップに加え、国会が「全国民の代表機関」としての本来の役割を自覚し、「立法による財政改革」を推進することが必要となる。そのため、財政改革の目標を法律をもって公示すると同時に、その達成に向けたサポート制度を確立することが求められるのである。

 本提言は、こうした認識のもとに、現在取り組まれている財政改革が抱える基本的な三つの問題点を明確にし、「財政構造転換法」をはじめとする「立法による財政改革のあり方」を提示することを目的としている。

(第1の問題点)数値目標達成のためのサポート制度が欠如している

 財政再建にむけて、歳出削減の規模や財政赤字のGDP比率等、数値コントロールの目標を掲げることは、内外に公約し、改革を押し進める上で不可欠である。

 しかし、数値目標を掲げ、歳出削減のみを追求するのであれば、イギリスで行政効率化を目指して実施された、80年代の「Financial Management Initiative(FMI:財政管理対策)」が頓挫したのと同様の状況に陥らざるを得ない。財政管理対策が頓挫した理由は、行政組織や権限配分の見直しを抜きにして、コストの削減、行政の効率性を求めた結果、行財政の体質を改革するに至らなかった点にある。

  日本の80年代の財政再建策が、膨張体質を温存させる結果となった理由の一つもこの点にある。このため、政策順位や財政体質を見直す改革には結びつかず、いわゆる利権の鉱脈・既得権の温存を強めるだけに終わっている。単に、公共事業の計画期間を延長するだけでは、単年度の歳出規模の削減には資することがあっても、政策順位や財政体質の見直しにはつながらない。

 財政構造転換の本来の目的は、単に歳出規模や赤字額を削減することではなく、政策順位と財政体質の見直しによる財政の機動力の回復にあることを忘れてはならない。そして、この目的を達成するためには、制度的な裏付けが不可欠であるが、今日の政府の財政改革の取り組みにはその裏付けが欠如しており、この点は大きな問題といえる。

(第2の問題点)日本版エージェンシー制度が財政民主主義を形骸化させる

 改革論議に新たな視点を与える手法として、「エージェンシー制度(独立行政法人)」の導入が指摘されている。しかし、イギリスにおけるエージェンシー制度の本質を理解することなく、日本の既存体質に合わせて解釈し制度を適用することは、逆に特殊法人を中心とした行政の外延部を今まで以上に肥大化させる危険性がある。それは、機関の自律の名目で、現在の既得権体質を抱えたまま国民のコントロールを希薄化させることを意味する。

 自律したエージェンシーを機能させるためには、単にエージェンシー機関自身の運営の機動性だけを確保しても意味がない。一般会計をはじめとした現在の予算会計制度や補助金行政、公務員制度等の見直しを一体として実施することが不可欠となる。こうした取り組みが一体となって実現しなければ、財政民主主義注1は一段と形骸化することになる。

(第3の問題点)行財政への信頼性を希薄化させる「税」と「保険」の混同

 財政構造の転換を議論する際には、国民負担率の問題を避けて通ることはできない。国民負担率については、その水準が重要なテーマとならざるを得ないが、その際、「税」と「保険」の違いを十分認識する必要がある。

 橋本内閣は、「増税なき財政再建」の方針を再び掲げている。しかし、税負担を抑制する一方で、本来税で負担すべき財政需要を、保険料負担の引き上げで賄うことがあってはならない。今日の年金制度、医療保険制度、さらには導入が検討されている介護保険制度においても、「税」と「保険」の混同が進んでいる。このことは、社会保障をはじめとした行財政制度全体に対する国民の信頼性を失わせる。

注目コンテンツ