金融システム再生に向けての提言【2】
― 「10兆円交付国債プラン」の問題点は何か ―

 今般、自民党の緊急金融システム安定化対策本部によって取りまとめられた金融システム安定化のための「10兆円交付国債プラン」は、以上の意味においてまたまた市場や国民を欺く彌縫策の域を出るものではない。これは一見10兆円という大がかりなプランゆえに錯覚を与えかねないが、「問題の本質」が先送りされ、さらに事態を悪化させるのは必至だ。それだけではなく、ひいては日本の金融システムに構造的劣化をもたらすリスクすらある。

 このプランの問題点は大略以下の通りである。

90年代の金融危機をここまで放置してきた「行政責任」がまったく不問に付されていること。つまり、信用がここまで低下した根因は、政府に対する国民の信頼の低下だということを、政府はまったく自覚していない。

何故に10兆円なのかについての算定根拠がまったく不明で、「つかみ金」のような印象すら抱かせる。

交付国債10兆円の財源が不明確であること。「NTT株の優先的売却ならびにその他の財源」としているが、極めて曖昧だ。

預金保険機構の「日銀借り入れ」を10兆円に引き上げたが、日銀に処理財源を一時的にせよ、常時依存する手法は健全とは思えない。これでは日銀引き受け国債発行と何ら変わらない。

交付国債10兆円ならびに政府保証による「日銀資金10兆円」の使途が不明確で曖昧であること。預金者保護と金融機関の経営再建支援との区分を仕組み的に明確にすべきである。

経営不振や悪化した金融機関を、「貸し渋りの防止」や「地域経済の混乱防止」の大義名分で救済・延命することに伴うリスクをどうチェックするかが、すべて当局の裁量判断に委ねられていること。これでは結局「第二住専問題」を引き起こし、日本の金融システムを劣化させるだけになる。

公的資金投入を預金者保護にとどめず、証券投資家保護、保険契約者保護にまで安易に行う危険性があること。つまり、原則や基準が不明確な公的資金投入は結局のところ国民へのツケを増加させるだけとなる。

巨額な公的資金投入(10兆円交付国債など)によって、金融システムがいかに刷新されるかがまったくみえず、単に97年11月の金融破綻事件に伴う金融不安の除去という「絆創膏効果」しか期待できないこと。これでは金融システムの「本質的問題」の解決にメスが入らず、ビッグバン構想とも矛盾する。

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