緊急提言 包括的金融再興構想
― 要 旨―

1.「金融再生トータルプラン」の基本的問題
 今般まとまった「金融再生トータルプラン(ブリッジバンク創設を含む)」は、以下のような基本的欠陥から、結局は不良債権の早期処理ができず、金融システムを再生させるものとはならない。いってみれば、これまでの金融安定化策と同様に、今回の「金融再生トータルプラン」も問題の先送りに終わるのではないか。仮に、このプランが機能するとしても、破綻金融機関や破綻企業の「国家的救済」により、日本全体にモラルハザード症候群が蔓延する結果となる。

「金融再生トータルプラン」の基本的欠陥を要約すれば次の通りである。

「ブリッジバンク」が、結局は第・分類債権の処理を2~5年「先送り」させることになるため、金融システムに不安定性が居座る。

「ブリッジバンク」に伴う破綻金融機関の「認定」や健全な借り手の「選定」の基準が、恣意的、裁量的に陥る危険性がある。

「金融再生トータルプラン」においては、関連機関の権限関係が不明確であり、どこの機関の誰が統括するか不明である。金融監督庁は基本的には金融機関の経営に対する事後的監視・監督機関であって、金融機関経営の再建を図る人材を抱えてはいないし、職務も異質ではないか。

金融機関の認定ならびに借り手の選定にあたって、隠されている簿外債務について自己申告を義務づけ、後日それが判明した場合の責任や罰則を明確にしておかなければ、「ブリッジバンク」は伏魔殿化しかねない。

兵庫銀行の破綻処理に伴って、その「受皿銀行」として創設された「みどり銀行」が失敗に終わったことの教訓は全く考慮されていない。

「ブリッジバンク」は米国の事例をモデルにしているが、これが機能するのは地域型中小金融機関であって、日本の「マネーセンターバンク(大手19行)」規模の大手銀行に適用するのは不可能である。全国ベースの優良借り手は「ブリッジバンク」から逃避し、借り入れ継承の難しい借り手のみが残ることになるためである。

米国の「ブリッジバンク」は、ペイオフに関わるコストを、「ブリッジバンク」を創設するかどうかの一つの重要基準としているが、日本の場合ペイオフについては全く考慮されていない。

90年代の金融行政の失敗は、今や否定の仕様がない。現在の日本経済の混迷、閉塞の最大の原因は、現在に至るまで政府・金融当局が不良債権問題の完全解決を怠ってきたことにある。しかも、不良債権の総額について信頼に足る推計値はなく、景気低迷のもとで、不良債権は現在もなお増加傾向にある。そして、「金融再生トータルプラン」のタイムスケジュール(2~5年)ならびに内容では、日本の金融システム危機(メルトダウン)がいつ生起してもおかしくはない。まさに、危機は迫りつつあるといってよい。特に、「マネーセンターバンク」の崩壊が、国内はもとより国際的な連鎖を引き起こすことは必至である。

それは、不良債権、株安以外に大手銀行の財務悪化から、経済・金融危機を発生させる要因が目白押しのためでもある。

例えば、円安化に伴う銀行の自己資本比率低下、長期金利の急反転、過去の簿外粉飾損失の表面化、1999年4月からの国際会計基準の導入(簿外取引の表面化)、ジャパンプレミアムの上昇、1999年4月からの大口2年定期貯金の大逃避に伴う金融危機などが控えており、今後の景気悪化によって、これらマグマが金融恐慌として噴出しかねないのである。

日本経済ならびに金融システムが閉塞状況から脱却する「一丁目一番地」は、「隠蔽・先送り・場当たり」に終始してきた従来の金融行政の基本を大転換することに他ならない。そうした金融行政の転換の前提は、まずもって金融失政を演出してきた従来の金融行政の関係者や関係機関から独立した仕組みを創設することである。以上の基本認識に立てば、今般の「金融再生トータルプラン」ならびに「ブリッジバンク構想」は一時的な彌縫策とはなり得ても、不良債権の短期一括処理フレームには程遠いばかりか、破綻金融機関や破綻企業の「国家的救済」を通じて日本全体を巨大なモラルハザードに追い込む危険性が高い。さらに、恐るべきことに、前述のような金融パニックの危機が迫っているにもかかわらず、そうした「金融危機管理体制」が認識面からも仕組みの面からも全く準備されていないのである。

2.金融再興の基本方向
 金融再興のためには新たな金融司令塔が「情報の完全開示」、「短期一括処理」、「責任の明確化」の大原則に立って、以下のような「包括的金融再興計画」を策定、断行することである。

(1)統括主体
 首相のもとに金融再興担当の特命国務大臣を置き、その指揮のもとに「緊急金融再興本部」を創設する。期間3年間の時限措置とする。この本部のもとに「金融調査委員会」、「国有財産調査委員会」そして「金融再生委員会」を設置する。 「金融調査委員会」は金融機関の財務内容を精査し、融資継続取引先の選定を行う。なお調査実務については金融監督庁、日本銀行、預金保険機構に実施させる。 「国有財産調査委員会」は大蔵省理財局を指揮して、国有財産の再評価を実施し、金融処理に伴う国家与信能力の可能性を確定する。「包括的金融再興計画」にあっては、現行の30兆円の公的資金枠では不十分と考えられるためである。 「金融再生委員会」は次の「金融処理フレーム」の策定を行い、その実施を指揮する。

(2)金融処理フレーム
3つの基本前提をおく。
具体的な不良債権処理にあたっては、以下の3点を基本前提とする。--90年代の金融失政の経験に照らして、「ソフトランディング」手法ならびに銀行救済手法はとらないこと。しかし、預金者保護、通常の借り手保護は保証すること。そして、破綻銀行の経営者、株主、出資者の経営責任を明確化すること。

銀行を二分して処理・再生を図る。
破綻あるいは経営悪化の「問題金融機関」(経営状態をA、B、C、Dと4ランクに分類し、CおよびDを問題銀行とする。ただし、この分類は個々の銀行の自己査定を前提に、「金融調査委員会」が精査の上、決定する。)について、「マネーセンターバンク(19行)」と「その他の地域金融機関」に分けて、処理・再生フレームを策定する。

「ブリッジバンク」は地域金融機関を対象とする。
厳格に選別された第Ⅱ分類債権ならびに正常債権を「問題銀行」から引き取り、全国9ブロック(北海道、東北、東京、関東甲信越、中部、近畿、中国、四国、九州)に一つの「ブリッジバンク」を創設し、正常な取引先の融資継続、債権管理などを行い、2年以内に再生可能性を探る。資本は全額政府出資(優先株)とするが、再生可能時点で民営化する。一般企業からの参入を求める。

大手銀行については「再編銀行システム(ホスピタルバンク)」を国営で創設し、集約・整理による再編を図る。
19行の「大手銀行」のうち「問題銀行」から第Ⅱ分類債権ならびに正常債権を「再編銀行システム」に収容し、債権管理をしつつ、2年以内に他の有力銀行(外国銀行、異業種からの新規参入銀行)に売却可能なものは売却し、銀行集約・再編を図る。そして、3年目にこの「再編銀行システム」は解散する。

新フレームに伴う損失は公的資金で処理する。
大手にせよ、地域にせよ、「問題銀行」の不良債権(第Ⅲ分類債権、第Ⅳ分類債権)は「整理回収銀行」に譲渡し、処理する。また、「ブリッジバンク」ならびに「ホスピタルバンク」の損失については2年後に公的資金で処理する。

(3)重大な留意点
 この「包括的金融再興計画」策定ならびに実行にあたっては、次の4点に十分に留意しておかなければならない。

第1点は、「問題銀行」は大手、中小にかかわらず、原則として現在の形では存続させない。つまり、銀行救済は行わないということである。大手銀行の「問題銀行」はいわば解体されて、優良債権は他の有力銀行に移管されるし、地域の「問題銀行」はブロック単位の「ブリッジバンク」に吸収される。現在の形の「問題金融機関」は消滅するが、預金者ならびに通常取引先は保護される。

第2点は、「善意かつ健全な取引先」の選別にあたっては、当該取引先は提出する財務諸表以外に簿外債務などがないことを公に自己申告する。一方、「ブリッジバンク」も「ホスピタルバンク」も同様に融資内容について保証する。

第3点は、以上の金融処理は景気停滞下で実施されるが故に、経済に強いデフレ圧力が加わらざるを得ないため、強力な緊急景気下支え政策の発動が不可欠となる。さらに、不良債権の一括処理に伴う公的資金枠は、現行の30兆円では明らかに不十分である。緊急経済対策ならびに不良債権処理資金の財源として、国有資産の再評価による国家資産を担保にする他はない。これが前記の「国有財産調査委員会」設立の基本的意味である。

第4点は、日本の金融システムはいわば「詰んでしまった」状態にあり、大手銀行の破綻から金融危機パニックにつながる危険は排除し得ないことを認識しておく必要がある。「金融危機管理体制」の早急な備えが不可欠である。それにはまず、時限的に「新しい金融司令塔」を構築し、従来の金融失政から自由な金融指揮権を与えることである。

注目コンテンツ