ソーシャルメディアが消費行動を変える

gooddo株式会社 代表取締役社長 下垣圭介 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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下垣さんのインタビュー第1回はこちら「いちばんハードルが低い社会貢献の仕組みを提供したい
 
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――gooddoのビジネスモデルは、オリジナルで考案されたのですか?どこかにモデルが?
 
下垣:参考にした取り組みがないわけではないですが、gooddoがいまやっているような手法や考え方をそれなりの規模でやっているところは、少なくとも日本にはないと思います。
 個別の事例で言えば、「1L for 10L (ワンリッター フォー テンリッター)」という、ボルヴィックの有名なキャンペーンがありますよね。あれはグローバルなキャンペーンでしたが、あのキャンペーンによって、ボルヴィックの売上も上がったといわれています。ある種のコーズマーケティングと呼ばれるような手法ですが、そうした社会貢献的な取り組みによって企業の業績も上がったという事例は、企業が単独・単発で行っているプログラムにはたくさんありますから、そうしたものは参考にさせていただきました。
 しかし、僕らがつくりたいのは、先ほどもお話したように、ユーザが支援先を選べるような関係。そこにみんなが参加できるようなプラットフォーム(場所)をつくりたいという発想なので、同じようなことをやっているところは、いまのところないのではないかなと思います。
 
――gooddoのサイトに掲載されているNPOは現在700団体を超えているということでしたが、知名度によっては、ユーザーが誰も訪れない団体のページもあるのでしょうか。
 
下垣:ありますね。これは僕らの今後の課題点でもあって、いま、gooddoのサイトに訪れるユーザーの大半は「この団体を応援しよう」と決めています。各NPOさんから発信や告知をしていただいて、「gooddoの団体ページから支援をしてね」と言われてやって来る。そうしたユーザーは直接応援したい団体のページに行くので、gooddoのトップページは見ない方が多いです。それはそれで良いことなのですが、まだ興味の無い人にももっと知ってもらえる場所にしていきたいと思っているので、まさに、これから2017年にバージョンアップしていきたい部分だと思っています。
 
――gooddoのページでは、課題分野ごとにNPO団体を探せるほか、社会課題に関するさまざまな記事を掲載されていますね。
 
下垣: 僕らとしては、一対NのNの数を増やしていきたいと思っているのですが、団体について知らないとそもそもサイトに来られないという課題があり、NPOの名前を聞いてもピンとこなくても、その活動内容を動画や記事で紹介することで、興味をもった人が新しくきてくれることを狙っています。記事を読み終わった最後に、「実はこの問題に取り組んでいる団体があるんですよ」とNPOを紹介し、そこにあるボタンをクリックすると、NPOを応援できるページに行くという流れをつくりたいと思っています。
 
――そのときは、たとえばアクセスの少ない団体さんのページに誘導したいといった意図があるのか、そのときの社会の状態などから課題や活動を取り上げ、それに取り組んでいるNPOを紹介するのか、どちらですか?
 
下垣:後者ですね。あとはコンテンツがすでにあるとか。NPOさんがすでに記事や動画といったコンテンツをお持ちで、それがすごくいいものであれば、我々のほうから、gooddoにも掲載させてくださいとお願いする場合もありますし、NPOさんのほうから、こういうコンテンツをつくったから載せてほしいというお話をいただくこともあります。

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――gooddoは立ち上げからは4年目、会社化からは3年目を迎えられたということですが、4年前に下垣さんがこうした事業を始めようと思われたきっかけをお伺いできますか?
 
下垣:きっかけは、かれこれ6年ほど前になりますが、2010年10月にソーシャルメディア、具体的に言えばFacebookの事業部の立ち上げに携わったことです。僕は2006年に新卒でセプテーニという会社に入って、ずっとインターネットマーケティングの仕事をしていたのですが、2010年当時、Facebookは日本ではいまほどメジャーではなくて、ユーザー数は100万人ほど。帰国子女しか使っていないような状態でした。
 Twitterは既に流行っていましたが、Facebookに対しては、実名制のソーシャルネットワークなんて日本には馴染まないのではないかという意見が主流だったときですが、セプテーニとして、Fecebookを使ったマーケティングを企業に営業する部署を立ち上げることになったのです。
 その時に「ソーシャルメディアってすごいな」と思いました。なにがすごいかと言うと、いまとなっては当たり前のことですが、誰もが発信できるということ。発信した情報がシェアされることで、瞬く間に有名になれるほどの影響力がある。
 それまでは広く社会に向けて発信できる手段は、テレビや新聞、雑誌といったマスメディアしかなくて、「誰が言うか」が「何を言うか」よりもパワーを持っていた。影響力のある人という前提がないと、そもそもメディアに載らず、声を届けることができなかったですよね。ソーシャルメディアもまだまだ過渡期だと思っていますが、それがもっともっと当たり前のものになっていけば、本当に誰もが発信できるようになっていく。それがすごいことだと思い、ソーシャルメディアに非常に興味を持ちました。
 一方で、何も隠せない社会になっていくということも思いました。
 たとえば、ある企業が質のいいものを安く市場に提供しているけれど、実はその裏には途上国での児童労働の問題が潜んでいたとしたら? 当然ですが、企業が自分から言うわけがありません。問題提起をしたいと思った個人がいても、それまでは社会に声を届ける手段がなかった。それが、ソーシャルメディアの普及によって、誰もが発信できるし、誰もがその情報を知ることができるようになった。
 そうなったときに、日本のような先進国と言われる国の消費者たちは、その商品が社会に生み出している価値や影響をちゃんと考えるべきだし、消費の選択という判断をしていく必要があると思ったのです。それは大きな変化だと思っていて、これまでも商品の価格とか質とかデザインとか、そういったものを総合的に判断してモノを買っていたと思いますが、ミネラルウォーター等の日用品は、値段も機能もそんなに違いがなく、差別化しにくくなってきていると思います。そうした中では、「そもそもこの商品って、社会にとっていいものだっけ?」という判断の基準で消費者が商品を選ぶ世の中になれば、企業は、開発力や営業力だけでなく、CSRへの取り組み等が、より一層求められることになると思いました。
 それまで僕は社会貢献とかNPOとか全く興味がなかったのですが、どうせなら、世の中に悪いものよりも良いものを買いたいと僕は思うし、そういう価値観をもった世の中をつくっていきたい。そういう事業ができれば、自分の人生においても、やりがいのあるテーマだと思いました。
 少し飛躍しているように思われるかもしれませんが、これからはきっとそういう時代になると、6年前ソーシャルメディアに出会って感じたことが、gooddo立ち上げのきっかけになりました。

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――そうした企業のCSR的な取り組みのひとつが、NPOをはじめとする非営利組織の応援ということですね。
 
下垣:ソーシャルメディアが企業活動に与える影響を考える一方で、社会貢献をしたいと思っている企業と現場で直接的に社会のための活動をしている人たちをつなぐ座組みをつくりたいと思い、それがNPOだと思ったので、まずはいくつかのNPOで約2年間プロボノをさせていただきました。
 その間にいろいろ経験する中で、いまお話したようなことが、「そうだろうな」という予想くらいだったのが、「これ絶対来るわ」という確信に変わっていきましたね。NPOの皆さんと関わらせていただく中で、これからの日本にとってすごく重要なセクターだということも理解しました。極端に言うと、NPOがちゃんとしていかないとこれから日本はまずいことになるくらいに思いました。
 一方で、日本のNPOの環境や認知度、寄付の状況などを見てみると、今後重要な分野であるにもかかわらず、現状が貧弱であることにも気がつき、なんとかしたいという気持ちになると同時に、チャンスだなと思いました。「これから絶対に必要な分野で、伸びしろがあるのに、今あまり伸びていない。ということは、これから急激に伸びる可能性があるということ。それって、すごくおもしろい領域だな」と思い、事業を始めたのが4年前でした。
 
――ソーシャルセクターの可能性を信じられたのも、そのとき抱いたモチベーションがいまに続いているのも、最初に出会われたNPOがよかったのかなというふうにも思うのですが、プロボノで活動されていたNPOというのは、どちらだったんですか?
 
下垣:最初はとある教育系のNPOでした。
 6年前はNPOのことを何も知らなかったのですが、会社の後輩がNPOで活動していたと言っていたのを思い出して、相談したところ、「自分がいたNPOを紹介します」と言って紹介してくれました。
 2010年の11月に、その後輩と、そのNPOの代表と3人で食事をしたのですが、僕が事業の話をしていたら、その方が、「来月、社会起業家と呼ばれる人たちが集まる忘年会があるから、そんなに興味があるんだったら来てみたら?」と言ってくれたのです。それでその忘年会に参加したことが、実は僕にとってひとつの大きな動機になっています。
 忘年会に行ってはみたものの、名刺交換しても、誰とも会話になりませんでした。みんなNPOの方で、僕はずっとインターネット広告の世界にいてNPOのことはまったく知らない。お互い何を言っているのかわからなくて、何の話をしても、全然会話が成立しない。最初は「なんだこれ」と思っていたのですが、ひとりでぽつんとお酒を飲みながら彼らを眺めていたときに、なんだかすごいエネルギーを感じたのです。理屈では説明できないですが、これはすごいな、絶対来るなっていうのを、直感的にすごく感じました。
 2010年当時、インターネット業界は世界的にも巨大産業になっていましたが、30年前、40年前はどうだったかと言うと、もともと専門性の高い研究機関の情報交換のために開発されたもので、一般の人が使うようなものではないと思われていて、インターネットにクレジットカードの情報を入力してモノを買うなんて、想像もできなかったと思います。だけど、数十年前のインターネット業界でも、インターネットは普及すると確信していた人たちがいて、10人中9人はわかってくれなくても、仲間たちと熱い志を共有していたのではないかと思います。そんな勢いを、そのときのソーシャルセクターになぜか感じたんですよ。酔っぱらっていたからかもしれないですけど(笑)。
 
――何か降りて来ていたのかもしれませんね(笑)。
 社会起業家の方々が持つエネルギーというのは本当によく分かりますし、実際に会って話をすることで、肌で感じる熱量というものがあるのは確かだと思います。理屈では説明できないかもしれませんが、大きな出会いだったのですね。
 
下垣:そうですよね。
 NPOは、悪く言えばお金がなさそうで、仲間内でわいわいやっているだけのように、傍からは見えるかもしれない。だけど、ちょっと見方を変えると、すごく可能性とやりがいのある、有意義な分野に早くから気づけた人たちだと思うのです。NPOの人々に実際に出会うまでは僕にも前者に見えていたのですが、会ってからは後者に見えるようになりました。

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――それはとても大きな変化ですね。
 「ソーシャルメディアを活用して社会貢献につながる事業をしましょう」という新規事業を提案したときの、会社の反応はいかがでしたか?
 
下垣:セプテーニグループは毎年ビジネスプランコンテストを開催するなど、新規事業開発に積極的なのですが、最初プレゼンしたときは、正直、既存事業と異なる領域だったので、びっくりされた部分もあったのではないかと思います(笑)。
 でも、NPOにはポテンシャルがあるということを説明し、この事業への熱意を伝えると、最後は「お前がやりたいなら、やってみろ」と言ってもらえました。
 
――立ち上げから何期以内には黒字にしなさいというような条件はもちろんあって。
 
下垣:ありますね。そこは当然、社会貢献だから赤字でもいいなんてことはなくて、ほかの事業と同じルールでやっています。
 
――セプテーニグループの中でも、とくにCSR的な位置づけでやられているわけではないのですね。
 サポーター企業に営業に行かれる際の反応は、どのようなものが多いですか?
 
下垣:新しい座組みのサービスなので、「本当に大丈夫なの?」という反応が多いですね。
企業も「一応CSR部門にも話を通しておかないと」といったような社内調整が必要だったりと大変ではありましたが、そうした中で僕たちの考え方にご賛同いただけるご担当者様と、しかも複数出会うことができたのは、非常に幸運でした。
 
(第三回「思いをアクションにつなげられる世の中に」続く)
 
下垣 圭介(しもがき けいすけ)*1984年生まれ。大学卒業後、株式会社セプテーニに入社し、インターネットマーケティング事業を担当。2010年、ソーシャルメディア事業部の立ち上げに携わったことをきっかけに、ソーシャルセクターの可能性に気づき、誰もが気軽に社会貢献に参加できる仕組みとして、2013年に新規事業として社会貢献プラットフォーム「gooddo」を立ち上げる。2014年10月に同事業を法人化し、代表取締役に就任。
 
【写真:長谷川博一】

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