商品を通じて、エネルギーと応援を届けたい

かものはしプロジェクト 共同代表 青木健太 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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青木さんのインタビュー第1回、第2回はこちら:「『子どもが売られない世界をつくる』―かものはしプロジェクトの挑戦」「カンボジアの支援終了とコミュニティファクトリーの独立
 
――独立後のコミュニティファクトリー事業は、「SUSU」というブランド名で商品を展開されるそうですね。
 
青木:「SUSU」はクメール語で「応援する」とか「頑張って!」という意味の言葉です。このブランド名には、すごく思いを込めています。この「頑張って!」という言葉は、困難な状況の中でもコミュニティファクトリーで頑張って働き学んでくれている女性たちだけにむけたものではなく、その商品を購入して使ってくださる方にも向けられています。商品を生産する女性たちの人生を応援するとともに、商品を使う人が前向きに頑張る気持ちになれるようにも応援したい。
 たとえばこのトートバッグでも、ただ物を入れて運ぶための道具として見るのではなくて、作り手の顔とか、ストーリーとか、体温やエネルギーのようなものを思い出すことができたら、なんかちょっと違う、あったかいものに見えてくると思うんです。
 商品を通して、それを使う人に寄り添って、自分自身の心とつながったり、チャレンジしたりすることを応援したい。そのためには、エネルギーや思いが交換できるように、作り手と使い手がある程度近づかなければならないので、工房や商品を取り扱っているお店でのコミュニケーションも増やしていこうと考えています。
 購入の仕方もいろいろチャレンジしようと思っていて、例えば一案ですが定価をなくしてみるのも面白いかなと想像しています。
 
――定価をなくす?
 
青木:クラウドファンディングと商品がセットになっている仕組みにするとか、「買う」ということの意味を問い掛けるようなかたちで、その人にとっての商品の価値を考えてもらうようなことができたらいいなと。
 たとえば、同じ商品なんだけど、30ドル、40ドル、50ドルとか何種類か価格を設定して、40ドル、50ドルで購入した場合は、作り手の女の子たちのストーリーがより詳細にわかるとか、支払ったお金はこういうふうに使われましたというレポートが届くとか。そうやって、購入するということと、応援するということの境目をあいまいにしていこうかなと考えています。
 

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――単なるチャリティではなく、商品としての質にもこだわりつつ。
 
青木:それは前提ですね。日本のある調査で見たのですが一度でもフェアトレード商品をそう認識して買ったことがあるという人がだいたい世の中の12%でした。しかも購入の理由はフェアトレードだからというよりは、商品が気に入ったから。そのあとは予想ですが、継続して商品を購入する人はそのうち10%程度ではないでしょうか。
 つまり「フェアトレードだから」「チャリティだから」という理由だけでは、数少ない一度目はあっても二度目はない。だから、商品を気に入って買ってくれた人たちに、フェアトレード的な価値観を伝えて共感してもらうという順番でなければいけません。
 だけど、いいものをつくるということにこだわるのは、そういうマーケット上の理由というよりも、僕たちがやっている事業のど真ん中にある譲れない信念だと思っています。
 どういうことかきちんとご説明すると、まず、僕たちがやっている事業って、架け橋だと思うんですね。最貧困層の女性たちは、教育もあまり受けていないこともありなかなか資本主義社会についていけない。発展する都市部の仕事に入って行けなくて、キャリアを広げていくことができない。じゃあ農村に仕事が沢山あるか・経済が回っているかというとそんなことはないわけです。だから僕たちは、コミュニティファクトリーを彼女達にとっての資本主義社会へのやさしい入口として使ってもらいたいんです。いきなり資本主義社会まっただなかの工場に入って活躍するのは大変だという人であっても、コミュニティファクトリーで僕たちと一緒に2年間働いて学べば卒業した後にそういう工場の中で活躍できるよというかたちで、彼女たちと社会の架け橋になりたいと思っているんです。
 そういう前提の中で、じゃあ「社会に出る、社会で活躍する」とはどういうことかと改めて問い直すと、人に価値を提供するということだと思うんですね。人に価値を提供するからお金がもらえたり、コミュニティへの所属を承認されたりするわけですよね。
 僕らNPOやNGOの活動では、彼女たちを「受益者」と呼びがちです。だけど、僕たちは彼女たちが単なる受益者のままでいるうちはだめだと思っていて、人に価値を提供するプロデューサーになっていかなければいけないと思っています。ただ受け取るだけでは、絶対に自立できないから。
 
――受益者からプロデューサーへ。
 
青木:人に価値を提供できているということは、提供したもので喜んでくれる人がいるということ。それによって初めて、自尊心や自立心といったものが育まれると思うんです。
 支援で陥りがちなのが、「君たちは教育を受けられなかったんだから、品質が悪いのはしかたないよ。お客さんは商品の質よりも、君たちのバックグラウンドに興味があって買ってくれるんだから、大丈夫だよ」という、間違った優しさです。そんな商品の在庫が積み上がっていくのを見て、作り手が「これつくってよかった」なんて思えるわけがないですよね。自分たちがつくった商品を選んで、喜んで使ってくれる人がいるって信じられるから、彼女たちは社会とのかかわりをつくっていける。だから、いいものじゃなくていいという選択肢はないんです。いいものじゃない商品を売るのは、こっちも辛いですから。
 

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――SUSUの商品を店頭で購入できるのは、現在ではシェムリアップの店舗のみですか?日本でも購入できるのでしょうか。
 
青木:すぐ日本に出店する予定はいまのところありませんが、徐々に増やしていきたいとおもっています。今年度中にオンラインショップでの販売から始めて、日本でも露出を増やして、セレクトショップに置いてもらったりしながら、そういった機会も探って行こうと思っています。カンボジアでも購入者の7割くらいは日本人ですから。
 
――観光に来た日本人が多いんですね。残りの3割は、日本人以外の観光客ですか? 現地の方も購入されるんでしょうか。
 
青木:ほとんど観光客の方ですね。日本人以外では台湾とか、欧米の方がよく来てくださいます。ゆくゆくはカンボジアの人にも買ってもらいたいので、プノンペンとか、また別の都市部へも出店したりして、販売チャネルを広げたいとは思っているのですが。
 
――日本や欧米からの観光客をメインターゲットとしているのであれば、現地の物価からすると高めの商品なのかなと思いましたが、現地の方でも買えるくらいの価格設定なんですか?
 
青木:基本的に現地だと、中流階級以上の富裕層でないと買えないと思います。
 SUSUは何よりも品質と手作りにこだわっているのでどうしても現地では高くなってしまいます。品質の追求の中でさまざまな良い素材をアジア中から探すということもやっています。たとえばいぐさはすべてカンボジアのものですが、それ以外の素材はほとんどタイから集めてきていて、きちんとした牛革だとかパーツだとか、そういう中でものづくりをするとどんどん値段は高くなる。だからむしろ、国外の工場で大量生産したB級品を輸入したもののほうが、カンボジアでは安く手に入るんですよね。
 だから、カンボジアの人たちが「やっぱりカンボジアでつくったものがいいよね」「ものを運べるバッグならなんでもいいんじゃなくて、こういう気持ちやこういうストーリーを一緒に運べるものがいいよね」という思いを共有して、ものの買い方を変えてくれないと、現地ではSUSUの商品はなかなか売れないかなと思います。
 ものの買い方を変えていく、ということもSUSUのチャレンジの一つです。僕たちが目指す社会では、作られていくトレンドや単なるコスパだけを軸にものを買うのではなく、作っている人の人生に興味をもったり、縁を感じたり、そこからエネルギーをもらったりすることを楽しんで物を買う、そんな買い方も増えていくと良いなと思っています。
 というのもそもそも僕たちNGOの職員が仕事を続けられるのは、そこで頑張って働いてくれている作り手の女性たちからエネルギーをもらっているからというところがあります。家庭的にも経済的にも困難な状況の中にいるのに前向きに、そして笑顔で頑張ってくれている。彼女達のそんな前向きなエネルギーに励まされて僕達自身も今日も頑張って働けている。もし、そのエネルギーをブランドや商品を通じて買い手・使い手の方に伝えることができたら、単なるバッグを超えて使い手に寄り添い応援するブランドに成長していくことが出来ます。
 とすると、私たちとしては、女性たちの成長を支援することを販売の売上にきちんとつなげていくことができ、もっと多くの女性たちの成長をより大きく支援していくことが出来るようになります。そうすれば資本主義の中で、ほとんどの工場はコスパだけを考えてやっていかなくてはいけないなかでも、私たちは困難を抱える女性たちの成長をブランドの核にしながら仕事を続けていく事ができます。それって資本主義がちょっとやわらかくなってないですか?
 観光客でも現地の人でも、日本にいる方々にも、そういう価値にお金を出して評価してくれる人が増えない限りは、ものの買い方って変わっていかないですよね。つまり、ものの買い方、消費の仕方っていうのは、どういう社会システムがいいかっていう投票でもあるので、僕たちはそういったところにもちゃんと思いをつなげて、モデルを提示して、資本主義をちょっとやわらかくできたらいいなと思っています。
 
――作り手と購入者のコミュニケーションを増やすためには、具体的にどのようなことをされているんですか?
 
青木:例えば一つは工房に訪問していただける方をどれくらい増やせるかということです。いま、HISさんが企画されているボランティアツアーとか、修学旅行生の工房見学の受け入れをすごく増やしていて、年間1,700人くらいの方が工房を訪れて、そのうちの多くの方が作り手の目の前で商品を買ってくださいます。
 鞄でも靴でも財布でも服でも、自分が使っているもののうち、工場に行ったことがある、作り手の顔を知っている商品って、あまりないですよね。それがもったいないような気がしていて、たとえばおばあちゃんに編んでもらったセーターとかって、服としての価値以上に、編んでくれたおばあちゃんの気持ちとかプロセスに思いを馳せて大事にしたくなるじゃないですか。そういう顔の見える関係性のものを少しずつ増やしてくことにも、SUSUとしてはチャレンジしていきたいと思っています。

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――かものはしプロジェクトとして、カンボジア事業の終了後も継続されるインド事業についても伺いたいと思います。インド事業はいつから取り組まれているんですか?
 
青木:2009年頃に調査を始めて、実際に活動を始めたのが2012年ですね。
 
――かものはしプロジェクトの活動開始にあたっては、調査を重ねていちばんリスクの高そうなカンボジアを選んだということでしたが、インドもやはり同じようなプロセスで?
 
青木:そうですね。その頃にはかものはしプロジェクトも団体としてある程度規模も大きくなっていたので、かなりしっかりと調査しました。カンボジアでの活動の経験から、この問題はそう簡単に解決できるものではないけれど、一度始めたらそう簡単に手を引くわけにはいかないことも分かっていたので、慎重に見極めなければいけないと思って。本木を中心に、いろんな国を見て、文献も調べて、現地調査も行って、やっぱり次はインドだということになりました。
 とは言え、カンボジアとは事情が全然違っていて、たとえばカンボジアは若い国なので、制度でもなんでも、一緒につくっていくという感覚がある。官僚も「かものはし何やりたいの? 警察トレーニング? 何でも言ってよ!」という感じだったんですが、インドは歴史が長い分、プライドもあるし、すでに出来上がっている仕組みがあって、それが壁になったりもする。カンボジアとはまた違った、大きな困難があるなという感じがしました。
 
――「子どもが売られない世界をつくる」というミッションは同じでも、現地の事情が違えば、活動の内容ややり方も違うものになってくるということですね。
 
青木:全然違いますね。インドでは、大きく分けると法律の改正と被害者のリハビリの2つの事業を柱に活動しています。
 ひとつ目の法律改正ですが、インドでは児童買春や人身売買の加害者が野放しにされていました。その理由としては、インドは連邦制のため、州と州の連携がうまくとれていなくて、州をまたいだ犯罪を取り締まることが難しかったということがあります。広大な国土に十数億の人口がいて、地域によって言語も違いますし。そこで、州政府間・違う州で活動するNGO間の情報交換などをサポートし、連携を促すことで、加害者が適切に罰せられる仕組みをつくり、抑止力を高めることに取り組みました。
 いかに正義を実現するかということになりますが、捜査を行って人身売買の加害者を捕まえるだけでなく、加害者が適切な処罰を受けるとともに被害者の正義や人権を回復するため、裁判の支援も行います。2015年からはインド中央政府に働きかけて、州を横断して人身売買を取り締まれるような法律をつくることを目指していて、今年の5月には草案が発表されました。この法案が成立すれば、インドの人身売買の根絶に向けて、大きく前進するはずです。
 もうひとつのリハビリ事業では、カウンセリングなどのセラピーのメソッドを使って被害者の心のケアを行っています。ここでも地域の問題があり、売春宿から救出されて出身地に戻った被害者が、一貫性のある継続的なリハビリや必要なケアを受けられていないという課題があったので、パートナー団体と組んでシェルターなど関係機関の間の調整に入ることで、適切なリハビリを提供できる仕組みをつくることを目指しています。
 さらに、せっかく売春宿から救出され、出身地に戻ることができても、性産業にかかわったことを理由に、地域社会の中でひどい差別を受けることもあります。そうした課題に対しては、救出された被害者、私たちは「サバイバー」と呼んでいますが、サバイバー自身が声をあげ、人身売買という問題に対する理解を訴えたり、経済的自立を支援する活動にも取り組んでいます。
 
――カンボジアではとくに「予防」にスタンスを寄せていった結果、コミュニティファクトリー事業が生まれたということでしたが、インドではインドの事情に合わせて、また違う角度、側面から活動に取り組んでいかれたんですね。
(第四回「『問題解決ができるかどうか』に徹底的にこだわり続けたい」<11月22日公開予定>へ続く)
 
青木 健太(あおき けんた)*2002年、東京大学在学中に、「子どもが売られない世界をつくる」ことを目指し、村田早耶香氏、本木恵介氏とともに「かものはしプロジェクト」を立ち上げる。IT事業部にて資金調達を担当した後、2008年よりカンボジアに駐在し、コミュニティファクトリー事業を担当。
 
【写真:長谷川博一】

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