小学校4年生から39歳まで支え続ける

認定NPO法人 育て上げネット 工藤啓 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――学習支援事業は、学習塾のようなかたちで?
 
工藤:基本的な運営スタイルはそうですね。でも、勉強を教えるだけではありません。いま通っている子どもたちは、いろいろな経験の機会が本当に少ないんです。たとえば、夏休みの旅行。夏休みは家族で旅行に行くという子どもたちが多いと思うんですが、ここに来る子どもたちのほとんどはどこにも行かない。習い事などもしていない。ご家庭それぞれにご事情はありますが、僕らとして少しでも多様な経験の機会を提供したいと思っています。
 例えば、企業さまからご支援いただき、サマーキャンプ予算を作ります。それを子どもたちに提示して、行く場所や手段、宿泊中は何をするのかを決めてもらいます。なんでも自由というわけにはいきませんが、多様な選択肢があり、希望を出したり、選択したりする経験や環境を提供しますだから、新幹線に乗ってみたいという子もいれば、地下鉄に乗ってみたい子もいるし、飛行機に乗ってみたい子もいる。行ってみたい場所、やってみたいことを、たくさんの選択肢の中から、みんなで話し合って自分たちで決めるという経験の機会を作っています。
 できるだけいろんな経験をしてほしいので、この前はFC東京さんにご協力いただいて、Jリーグの舞台裏を見せていただきました。試合観戦をするだけではなくて、試合の前に一般の観客は入れない場所を見せていただいたり、スタジアムの清掃をしたり。
 職場見学に行って社食でごはんを食べさせていただいたりすることもあります。最近では、ビジネス特化型SNS「LinkedIn」が提供している社会貢献プログラム「LinkedIn for Good」を活用して、日本オフィスに訪問しました。海外に出張されている社員さんとつないで、作成した自己紹介シートをスクリーンを通じてプレゼンしたりしました。最近は外国にルーツをもつ子どもたちもいますので、いろんな国の人が当たり前に一緒に働いているという環境を持つ職場見学にも力をいれています。自分とルーツの近い方がかっこいいオフィスで働いているところを見るだけで将来に希望が生まれる子どもたちもいるんです。
 この子たちも、本人が「いま困っています」と言ってくれればいいんですが、やっぱりなかなかそんなことはないですし、小中学生が対象だと、保護者の同意がなければ十分に支えることもできません。こうした子どもたちとつながる入口も、保護者支援や行政との協働からです。個別相談とスカイプを通したオンライン相談を行っていますが、海外在住の方からの相談も出てきています。転勤で海外に行っても、みんながかっこいい帰国子女になるわけじゃなくて、現地に適応できない子もいて。国内外問わず、保護者の方へのご相談ニーズを感じています。
 
――こうした事業を通して、子どもたちの中退率や進路になにか変化は見られますか?
 
工藤:うーん…教育というものは、私たちが入っただけで劇的に変わるというものではないんですよね。
 
――やっぱりそんなに単純なものではないんですね。
 
工藤:外部の民間団体が、学校内に常駐して生徒に働きかけるということそのものが、まだまだ事例として少ないです。いくつかの高校では中退率がかなり減っているのですが、それは私たちの存在がどの程度効いているのかはわかりませんし、私たちがいなくても先生方の継続的なご努力で減っていたかもしれません。 個別には中退という選択をしなかったという事例や、私たちはもともと就労支援をしている団体ですから、「高校を辞めたらうちにおいで」というかたちで子どもたちを支えているという事例もありますが、そもそも学校内のデータというものはそんなに緻密に出るものではないので、私たちが入ったことによる変化というものは、証明することが正直難しいと思っています。
 
――対象は公立高校が多いんですか?
 
工藤:私立からもご依頼はありますが、公立高校が多いです。私立高校に比べると公立高校は予算が厳しいようでして、例えば、MoneyConnectionRはパートナーである新生銀行さまなどと連携して、予算がなくても学校にうかがえる枠を作っていただいています。教育行政との連携で対象校にて講座を行うパターンもありますが、どちらにしても学校に予算がない場合には第二顧客の存在がないといまのように多くの学校に行き続けられるわけではありませんので、講座希望の校数が増える中で応え切れていない課題を解決していかなければなりません。
(第三回「小さな変化が大きな影響を与える事業」へ続く)
 
工藤 啓(くどう けい)*認定NPO法人育て上げネット 理事長
1977年、東京生まれ。米ベルビュー・コミュニティー・カレッジ卒業。2001年に任意団体「育て上げネット」を設立し、若者の就労支援に携わる。2004年にNPO法人化し、理事長に就任。現在に至る。著書に『NPOで働く- 社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる――“はたらく”につまずく若者たち』(エンターブレイン)、『無業社会 働くことができない若者たちの未来』(共著・朝日新書)など。
金沢工業大学客員教授、東洋大学非常勤講師。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員、「一億総活躍国民会議」委員等歴任。
ブログ http://ameblo.jp/sodateage-kudo

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